保護ねこ代理戦争
江野ふう
第1話 ついにヤツらが動いたか
空気が澄んでいて星がきれいに見えるからだ。
冬が好き、というよりも、星空を見るのが好きなのかもしれない。
宿題をするのに疲れたら窓を開ける。
冷たい空気が頬さすのが心地よい。
頭に昇った知恵熱が、冷めていく。
明日は算数のテストがある。
勉強に疲れて、窓を開けると、無数の星が瞬いている。
流れ星が見えた。
――もしかして流星群!?
星が近づいてくる。
しかも、たくさん。
「ほえ〜。きれ〜」
星々が目の前を流れているのに
幾千もの星が流れる、これまで見たことのない美しい夜空。
遠くの星がだんだんハッキリ見えてくる。
なんか……デカくなってる?
てか、すでにデカい。
「ついにヤツらが動いたか」
「え?」
声がしたから振り向いた。
しかし、そこには猫しかいない。
猫は先月、保護猫譲渡会で譲り受けたものだ。
名前は千枝の弟が「コテツ」とつけた。
縞模様が虎っぽくて胸板も厚い。腕も野太くて強そうだからだそうだ。
顔もふてぶてしい。目が座っている。
いかにも「コテツ」というのがしっくりくる見た目である。
母の良枝は
「コテツ!ピッタリ!!!」
と弟の案を絶賛した。
しかし、千枝はこの名前には納得がいかないままでいる。
かわいくないから!
「てっちゃん」と呼んでみてもかわいくない。
「コテ」と略しても剣道の技みたいだし、「テツ」にすると本当にかわいくない。
名前のせいで、千枝は猫を飼い始めたことを友だちにも言えないでいた。
思春期に入ろうとしている12歳の少女には受け入れ難いネーミングセンスだ。
ベッドの脚の方で丸くなっていたコテツは伸びをすると、立ち上がった。
千枝が長く窓を開けすぎたせいで寒いのだろう。
あたたかいリビングに行くと思ったが、コテツは千枝の隣にやって来た。
――外に逃げちゃう!
と思って窓を閉めようと思ったが遅かった。
コテツは窓枠に飛び乗ると座り込んで星空を見据えた。
と同時に、千枝のスマホがけたたましい警戒音を発した。
Jアラートだ。
屋外の防災無線が流れた。
「こちらは菱沼市防災警戒本部です。
直ちに避難。直ちに避難。直ちに頑丈な建物や地下に避難して下さい。
ミサイル等が落下する可能性があります。直ちに避難して下さい。
こちらは菱沼市防災警戒本部です」
――窓、閉めなきゃ!!!
千枝は思った。
「コテツ!!!ダメだよ!!!!!」
窓辺に座り込むコテツを抱きあげようとしたが
「邪魔や!ワシに近寄んな!!!」
とコテツに怒られた。日本語で。しかも、なぜか関西弁。
直後、コテツの両目からオレンジ色のビームが発射された。
コテツビームはデカくなった星では……もはや、ない。
未確認飛行物体的なモノを、遠くに見える電波塔付近で爆破させた。
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保護ねこ代理戦争 江野ふう @10nights-dreams
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