19 王都攻略戦2

 転移先は執務室前の廊下だ。


 いきなり国王執務室内に入るのも可能ではあるのだが、乱戦になる可能性もあるのでやめておいた。


 執務室前には、ゲントロノフ配下の最精鋭部隊らしい黒装束の兵士が20人ほど守りについていた。


「なっ!? ブラウモント公!?」


「いつの間に!?」


「いきなり現れたぞ!?」


 さすがの精鋭兵も、『転移魔法』の前には動揺を抑えきれないようだ。


「務めご苦労。だがすでにこの城のほとんどはこちらが掌握した。貴殿らにはすでに勝ち目も逃げ場もない。武器を捨て投降せよ。さもなくばこの『シグルドの聖剣』の露と消えることになろう」


 聖剣を構えて魔力を流し込むと、刃が青白く発光する。酷い話だが、この状態で聖剣を『使え』ば、光属性最上級魔法『ライトオブドゥーム』が発動して彼らは終わりである。


 俺が切っ先を向けると、精鋭兵たちは「ヒッ!?」とか声を詰まらせて後ずさった。あ、彼らはローテローザ領で俺が空に向けて『ライトオブドゥーム』を撃ったのを見てるのか。可哀そうに。


 俺が一歩前に進むと、精鋭兵たちは剣を床に落とし、さらに後ろに下がって膝をついて両手を上げた。


「うむ、正しい判断だ。クーラリア、ミアール、武器を回収しておけ」


「はいよご主人様」「かしこまりました御館様」


 2人が剣を拾ってマジックバッグに入れていく。


 精鋭兵たちは青い顔をして震えてるのでしばらくは動けないだろう。彼らはただの兵隊であるから、今回の戦いが終わったら、新しいゲントロノフ公のもとでその力を尽くしてもらいたい。


「では失礼して、執務室に入らせてもらおうか」


 扉は当然鍵がかかっていたが、『シグルドの聖剣』の前には無力である。


 俺は剣を一閃させかんぬきを切断すると、王の執務室の扉を開け放った。


 そこには3人の人間がいた。


 一人は国王ロークス、一人はミルラエルザ、そしてもう一人は、量の多い髪をむりやり帽子に押し込めている、目つきの悪い女魔導師だ。


 顔立ちは整っていて服も高位の魔導師のものだが、どことなく荒っぽい性格がにじみ出ている。とはいえゲームで見た通りの姿なので、彼女がゲントロノフ配下の魔導師バヌアルだろう。


 俺やフォルシーナ、マリアンロッテ、ミアール、クーラリア、そしてツクヨミが部屋に入っていくと、ロークスは執務机から離れて剣を構えた。


 その顔には怒りや焦りといったものはなく、癇癪かんしゃくを起こす寸前の、子どもの泣き顔に似た表情が浮かんでいるのみである。


「てっ、てめえブラウモント、どうやってここまで来た!? 東の城壁はリープゲンが守ってたんじゃなかったのかよ!?」


「彼は彼で今我々の軍と決死の戦いを行っているでしょうな。まあともかく、切り札というのは国王陛下のみがお持ちなわけではないということです」


「まさか『転移の魔道具』か!? おいラエルザ、どういうことだよ!」


「私はなにもしておりません国王陛下。そもそも私が持っていた『転移の魔道具』は、陛下にお渡ししたものがすべてです。それ以外は持ってはおりません」


 秘書官のふりを続けているミルラエルザがしれっと答える。


「じゃあてめえは別の魔族とつるんだってことか、ブラウモント!?」


「これは異なことを。しかもその言い方ですと陛下自身が魔族と結託していたように聞こえますが」


「うっ、うるせえよ! しかもそこにいるのはマリアンロッテじゃねえか! お前なんでそっちにいるんだ!」


 名指しされたマリアンロッテは一歩前に出ると、キリリと表情を引き締めて答えた。


「私は国王陛下のなさった非道な行いを知り、ブラウモント公爵閣下に助けを求めたのです。あのような恐ろしい企みをなさる方と、私はともに歩むことはできません。国王陛下におかれましては犯した罪をお認めになり、神のもとで裁きを受けるようようお願い申し上げます」


「て、てめえこのあばずれ! 何が助けを求めただ! てめえも結局ブラウモントの女だったってことかよ!」


「まだそうではありませんが、そう取っていただいても構いません」


 となぜかフンス顔で胸を張り、誇らしそうに言うマリアンロッテ。


 いやちょっと、この清楚系メインヒロインさん何を言っているんでしょうかね!? おっさん公爵としてはとてもセンシティブな内容なんですが!?


 という動揺を糸目の奥にしまっていると、今度はフォルシーナが一歩前に出た。


「ロークス国王陛下におかれましては、速やかに王位をお父様に譲り、自身はなさったことの罰をお受けくださいませ。所詮貴方のような小人がお父様に勝てる道理などないのです」


「お断りだクソ女! てめえはそうか、親父にもう完全に調教されてんだな! マリアンロッテといいお前といい、見た目はキレイなくせにどっちもとんでもねえ淫売だな!」


「愚かですね、私とお父様の間に調教など必要ありません。なにしろ生まれた時から一つなのですから」


 と言ってやはり胸を張るフォルシーナ。いやもうなんなのこの娘たち。王位簒奪とかいうただでさえ重いシーンにインモラル要素足さないでもらえませんかね。


「……2人とも、まだ陛下は国王でいらっしゃる。そのあたりにしておきなさい」


「はいお父様」「はい公爵様」


 2人はおとなしく後ろに下がったが、その頬は2人とも妙に上気している。今更ながらに恥ずかしいことを言ったと気付いたのだろうか。


 ともかくここは話を続ける場面だ。


「国王陛下、もはやこれまででございます。おとなしく縛につけば手荒なことはいたしませぬ。どうかここまでと諦めていただきますようお願い申し上げます」


「ふざけんな。俺はまだ終わっちゃいねえ。おいラエルザ、バヌアル、俺が逃げる時間を稼ぎやがれ」


 ロークスが左手をこちらに向けるポーズで2人に指示を出す。


 しかしミルラエルザは口元に皮肉な笑みを浮かべたまま動こうとはしない。


 一方でバヌアルは「はぁ~」と大きなため息をついた。


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