第2章 悪役公爵マークスチュアート、中ボスルート回避のために全力を尽くす

01 現状整理

『立太子の儀』から10日余り。


 公爵領に戻った俺は、まず溜まっていた領主としての仕事を片づけた。


 それが一段落したので、いよいよ中ボスルート回避への動きを全力で行っていくことになる。


 だが、その前に情報と直近の展開を一度整理しておこう。


 ゲームの知識から行くと、これから2カ月後に『魔族による王都襲撃』そして『王都陥落』という大きなイベントがある。


 ゲームとしてはこちらが真のプロローグで、炎上する王都から主人公ロークスとヒロインの2人が南部大森林に落ちのびていくという、そんな展開になる。そしてその大森林から主人公ロークスの波乱の冒険が始まるというストーリーだ。


 しかし先日の『立太子の儀』でもはっきりしたが、ロークスは王都陥落イベント前に南部大森林開拓に向かうことになっている。もちろん彼一人ということはなく、ヒロインであるマリアンロッテを含めて大部隊を連れての探索ということになるはずだ。


 とすると、可能性としては、『王都陥落』の報を、ロークスは最初から大森林で聞くことになるのかもしれない。であれば大部隊が手元にいるのだから、ロークスはその部隊を率いて王都奪還に向かうのではないだろうか。


 正直、この時点でゲームの展開とはまるで変わってくる。


 さらに気になるのは、ロークスのあの性格の悪さだ。それに加えて、ロークスがあの場で妃としてマリアンロッテだけでなくフォルシーナまでも指名していたことも重要である。


 実はゲームでは、あそこはメインヒロインを一人指名するという場面なのだ。しかしその選択肢には、一人だけを選ぶという選択のほかに、全員を指名するという選択もあった。その全員を指名する選択肢を選ぶと、ヒロイン全員と結婚するハーレムルートに入れるのだが、実はそのハーレムルートは一歩間違えると別のルートに分岐する設定があった。


 その別のルートとは、その名も『世界終焉しゅうえんルート』。


 その名の通り、主人公が最終的にラスボスに帰順して、世界が闇に包まれるというバッドエンドを迎えるルートである。そしてあの性格を見る限り、この世界のロークスは『世界終焉ルート』をたどる可能性が高いように思われた。


「まさか俺の中ボスルート以外にそんな罠があるとはなあ。『オレオ』の世界に転生したのはいいが、ちょっとにハードすぎないか」


 という愚痴も出てしまうが、中ボスルート回避後はこちらもなんとかするしかないだろう。ともあれ今は俺の足元を固める時だ。先ばかりを見てつまづいていたのでは話にならない。


 というわけで、まず呼ぶのはダークエルフのアラムンドだ。


 執務室で呼び出しの魔道具を押すと、やはり瞬時にして目の前に現れる、ちょいエロ忍者コスの女ダークエルフ。


「お呼びでございますかお館様」


「例の件の調べはついたか?」


「はい、大まかなところは」


「聞かせてもらおう」


 アラムンドは膝をついた状態から立ち上がると、報告を始める。


「まずお披露目の場に現れたカオスデーモンですが、魔族領から飛来したものでほぼ間違いなさそうです。ただしそれが組織だった動きなのか、それとも単なるはぐれモンスターだったのかは不明です」


「カオスデーモンは魔王直属の魔族とも言える存在だ。組織的でないということはあるまい」


「王家はそうは判断していないようです」


 アホか、と言いたくなるが、多分これはゲーム通りなんだよな。


 そうでなければこの後王都が魔族に急襲されて陥落、なんて間抜けな事態にはならないはずだからな。


「ではなんらの対策も行っていないのか?」


「はい。南部大森林の開拓の方に力を注いでいるようです」


 重ねてアホか。


 まあ恐らく、裏にはゲントロノフ公の進言もあるのだろう。マリアンロッテを輿こし入れさせ、ロークスに南部大森林開拓の手柄を立てさせれば、ゲントロノフ家としては将来的に安泰となる。『立太子の儀』の時に王妃の腹が少し膨らんでいたのも関係がありそうだ。もし第二子が生まれても、兄のロークスが盤石ばんじゃくならば面倒が減るからな。


「それと、あの場にローテローザ公がいなかった理由はわかったか?」


「はい。どうやらローテローザ公爵とその妹君が流行はやりやまいにかかったということで、出席を辞退していたようです」


「ふん、流行病か。実際のところは?」


「少なくともローテローザ領に流行病があったのは事実のようです。それ以上はわかりませんでした」


「本人に直接聞かねばわからんか。もっともあの王太子の様子を見れば予想はつくがな。しかし三大公の一人が『立太子の儀』を欠席するなど、流行病だろうと許されるものではないのだが」


 今までに何度か言葉に出てきた『三大公さんだいこう』というのは、このインテクルース王国を支える3人の公爵のことだ。俺ことブラウモント公とゲントロノフ公、そしてローテローザ公の3人がそれに当たる。


 ローテローザ公は、ゲームでは情報戦に長けた人物として設定されていた女公爵である。もし彼女が王太子の為人ひととなりの情報を事前に得ていたなら、自分の妹を王太子の目に触れさせないようにするのは当然かもしれない。なにしろその妹もフォルシーナやマリアンロッテに並ぶほどの美少女であるからだ。


 しかも設定通りならローテローザ公は妹たちを溺愛しているはずで、なおさらあんな男の妻に差し出すことなどしないだろう。


「肝心の魔族領に動きはあるのか?」


「今のところ顕著けんちょな動きは見られません。国境線の砦に魔族が移動しているような様子もありませんでした」


「そうか……」


 これが嘘なのはゲームの知識からわかっている。今まさに、王国の北に住む魔族たちは目立たぬように王都襲撃の準備を進めているはずだ。


 どうやらアラムンドはゲーム通り、魔族の情報を一部隠蔽いんぺいしているようだ。これに関してもおいおい解決をしていかねばならない。


 しかし今はそれより、早急に解決すべきことがある。


「よし、アラムンド、例の被検体を見に行く。同行せよ」


「は。かしこまりました」


 さて、今一番気が重いのがこれなんだが、なんとか上手く誤魔化す方法を考えないとな。

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