第43話 ベルとコムギ

「ふぁ……おはようコムギ……」


「にゃー」


 時刻は既に10時を回っている。普通の人であれば学校へ行ったり、会社へ行ったりする時間帯だが私はそんな精神と肉体をすり減らすだけの場所へ行く必要はない。そのため平日であるのにこうしてのんびりと優雅な朝を過ごすことが出来ている。んん~引き篭もり生活さいこ~。


 私は歯を磨いたり、顔を洗ったりした後にゆーくんが作ってくれた朝ご飯をのんびりと食べる。これが私の日常、社会で頑張っている人が見たらほぼ100%お小言を言ってきそうだが私からしたら知ったことではない。だって私怠惰の悪魔だもん、怠惰なのはしょうがないよね~。


「ん~おいしかった~。ごちそうさまでした」


 私は食器を下げソファに座り自分のスマホへと目を落とす。今のうちにソシャゲのデイリーを消化しておこう。そうすれば後で自由な時間が生まれる、そしてその自由な時間でまた新たなソシャゲを開拓する。なんと天才的な発想なのだろうか、私は自分が恐ろしいよ……。


「な~お」


 ポチポチとスマホをいじり続けること数十分、先ほどまで窓際でのんびりとしていたコムギがこちらへと近づいてきた。


「どしたのコムギ~?」


 私が家に来た初めの頃はコムギは私のことは眼中にないと言わんばかりに過ごしていた。文字通り私がいないという風に過ごし、私が声を掛けても何も反応を示さず、おもちゃで遊びに誘っても無視され、ゆーくんに内緒でおやつをあげようとしたにもかかわらず全く見向きもされなかった。


 「うわ……私コムギちゃんに嫌われ過ぎ……!?」と思っていたが、一緒に過ごしていくうちに私が悪い悪魔じゃないと分かったのか時たまこうして私の元へもやって来るようになった。……まぁゆーくんがいる時は大体ゆーくんのとこに行くんですけど。


「な~お」


「ん~?撫でて欲しいのかぁ?よしよーし」


「……んな~」


 私の足元へとやって来たコムギの背中を優しく撫でる。ふわふわとした茶白の毛の感触がとても心地いい。あぁ~コムギたそかわゆす~……拙者このまま一生コムギたそのことを撫でて遺体でござるよ~。


「こ、コムギちゃん!?」


 次の瞬間コムギちゃんがたたっと身軽な動きで私の膝上に乗ってくる。今までコムギが私の近くへやって来ることはあっても、私の膝の上に乗ってくることは無かった。そのため突然のデレ供給に私の心臓と脳みそは大変なことになる。


「……な~お」


 まるで「うるさい」と言わんばかりに一鳴きした後、コムギは私の膝の上でちょこんと丸くなった。


 が、がわいいいいいいいいい!!


 今まで私に塩対応だったあのコムギちゃんがついにデレた。その事実に私は叫びたい衝動に駆られる。しかしここで叫んだり、コムギちゃんの可愛さに対して発狂したりすると即座にどこかへ行ってしまう未来が見えたため、私は心の中で叫ぶに留める。


 こ、これがギャルゲ主人公、ラノベ主人公の気持ちか……。「今まで俺にツンツンしていたあの子がいきなり俺に甘えてきて大変なことに!?あれ……こいつってこんなに可愛かったんだな……」ってなるやつやん!いや元々コムギちゃんは可愛かったけれども!


 私の気持ちなど知らず自分の膝上で丸くなっているコムギちゃんの頭や体を優しい手つきで撫でる。ど、どうしよう!?こいつ撫でるの下手だなとか、急にぎこちなくなったなとか思われてないかな!?というかやばい、手汗止まんない。このぬめぬめした手でコムギちゃんを撫でて良いのかな!?気持ち悪ぅとか思われないかな!?


 色々な葛藤と共にコムギちゃんの体に触れる。やっていることはいつもと同じなのにいつもとは異なる感覚に襲われる。私は付き合いたてのカップルか!手を握ってドキドキしてる初心な主人公か!


「グルルルル」


 の、喉を鳴らしている……だと……!?くはっ!!可愛すぎる……!!


 私が撫でたことによりグルルルルと重低音を響かせるコムギちゃんに私のライフは0になる。でもやめないで!私のライフはとっくに0だけどやめないで!こんな○之内君は嫌だけどやめないで!あぁ~かわいい~。


「んな~」


「あっ」


 幸せな時間はあっという間に過ぎていくもの、コムギちゃんは私のこの気持ちに気付いていないのか、私の膝に乗ってきたときと同じように身軽な動きでどこかへと歩いて行ってしまった。


「猫とは気ままな生き物、そして私は出来る女。私はコムギちゃんのことは決して追わないのだ……でももうちょっと撫でたかったなぁ」


 私は温もりの残った自分の太ももに寂しさを覚えながら一人呟くのであった。

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