第9話 買い物と気まずさ

「それにしてもやっぱもう悪魔と契約してる人はいるんだなぁ」


 海斗の言葉に俺はびくりと肩を揺らす。い、言えない……実は俺もそのうちの一人だなんて口が裂けても言えない……。


「そ、そうだな」


「はぁ……悪魔と仲良さげにしてる人と廊下をすれ違う度に何故か悲しい気持ちになるから辛いわ」 


「あれ?昨日悪魔と契約しに行く的なこと言ってなかった?」


「それな~。本来だったら契約できるかなぁとか思ってたんだけど全然できなかったわ」


「意外だな。海斗ならちゃちゃっと契約してきそうなのに」 


「やめろ、その言葉は今の俺に刺さる」


「悪い。というか悪魔マッチング使えば?そうすればすぐ見つかるでしょ」


 海斗曰く悪魔と契約するために色々な所に出向いてみたらしいが全く契約してくれそうな悪魔が居なかったらしい。海斗、俺思うんだけどそういう時は行政の力を借りるのが一番だと思うの。


 なんとこの国には悪魔マッチングという文字通り悪魔的なアプリがある。内容はとても簡単、悪魔と契約したい人間と人間と契約したい悪魔、両者のキューピットになりますよ~という国が運営する公式の出会い系アプリである。


「悠誠、俺はな?そういう物に頼らないで出会った悪魔との間に芽生える恋愛に憧れを持っているんだ」


「そんな憧れは捨てといた方が良いぞ」


「もっとこうスピーチ的に捨てさせてくれないと心に響かないな」


「俺は彼の有名な野球選手じゃないから無理。さっさと捨てろとしか言えん」


「そんなんじゃ立派な野球選手になれないぞ!」


「なるつもりがないんだよ!」


 




 身体測定等入学してから行われる行事を終え、今日も今日とて午前中にお家に帰ることが出来ます。とても嬉しいなと思う反面、もうすぐ朝から夕方までお勉強をしなければいけない日々が続くという事実に胸が苦しくなります。青春を謳歌する気満々の陽キャ達とは違い俺は陰に潜みながら生きるもの……明るい気持ちになんてなれないのです。


「白月君!もし良かったら今日一緒にご飯食べない?」


 何という事でしょう。今日も親友である海斗君は「俺にぴったりのパートナーを探すんだ!待ってろピ〇チュウ!!」と一人どこかへ行ってしまったのです。〇カチュウちゃうねん。


 という事で海斗に気がある早乙女さんがまた手持ち無沙汰になってしまいました。早乙女さん……可哀そうに。


「ごめん早乙女さん、今日はちょっと用事があるんだ」


「う、ううん!全然気にしないで!むしろ急に誘っちゃってごめんね!」


「いやいや、早乙女さんみたいな人に誘われたのに断っちゃってごめんね。今度何かで埋め合わせるよ」


 おそらく早乙女さんは慎重なタイプ、海斗を落とすためにはその外堀から埋めようと考える人間なのだろう。じゃないと俺のことをご飯に誘うなんてことはしない。だがしかし、俺には今日中に終わらせておきたい仕事があるのです。また今度海斗についての情報は教えるのでね、今回ばかりは見逃してください。


「全然気にしないでもいいからね?それじゃあまたね白月君」


「またね早乙女さん」






「ただいまー」


「にゃ~」


「ただいまコムギ~お迎えありがとな~」


「グルルルル……」


 ああああああ!!いけませんお客様!帰って早々スリスリと喉グルルルルとか死んでしまいます!ああいけませんいけません!!これはもう俺が満足するまで撫でさせてくれないといけません!!


「ゆーくんおかえりー」


「あ、うんただいま」


「私とコムギちゃんとの落差すごくない!?風邪ひくどころか凍死しちゃうんですけど!?」


 俺の対応に抗議の声を上げるベル。しかしこれは当然の事なのだ、昨日出会った悪魔と子供の時からずっと一緒に居た愛しの猫、その対応が一緒なはずがないだろう。


「それよりちゃんと準備したのかベル」


「ちゃんと準備しましたよー。と言っても私の場合はただジャージを着るだけなんですけどねー」


 出会った時と同じ上下黒のジャージ姿のベル。うん、これはあれだな。完全にニートだな。


「何か今失礼なこと考えなかった?」


「うし、じゃあパパっと済ませるか。買い物終わったらどこでご飯食べたいか決めていいぞ」


「お姉ちゃん無視は良くないと思うなぁ……。じゃあお高い焼きに─────」


「そもそも外食は無かったことにするか」


「冗談じゃ~ん。だからそんなひどいことは言わないでよ。ね?ゆーくん」


「じゃあ行ってくるなコムギ」


「だから無視は良くないと思うな!?」


 コムギ成分を補給した俺は我が家に住み込むニート……じゃなくて悪魔を引き連れ街へと向かった。自分の住んでいる地域は田舎と言えば田舎であり都会と言えば都会というよく言えば普通で住みやすく、悪く言えば何も特色がない場所だ。


 そういう場所あるある、駅付近に大体のものは揃っている。という事で俺とベルは閑静な住宅地を抜けて平日昼なのに人通りの多い駅近くへとやってきました。


「うわぁ人多いなぁ……帰ってもいい?」


「俺がここで良いって言うと思う?」


「優しいゆーくんなら……ねぇ帰ってもいい?」


「却下。さっさと行くぞ」


「うべ~」






「てことでこのお金の範囲内で好きな洋服を買ってきてください。俺はここで待ってるので」


「雑じゃない?私の扱い雑じゃない?」


 ベルさん、心の一句。


 やって来たのは洋服屋、雑貨屋、本屋、ファミレスその他諸々が盛り込まれた複合施設。洋服はプチプラの安いものしか買わない俺が女の子の服についての知識を持ち合わせているはずも無く、とりあえず俺が普段服を買う場所とは違い、女の子の服のみを取り扱っているお店の前へやって来た。そしてベルにお金を渡して好きに買うように放り投げてみた。後はお好きになさい……。


「ほら、俺って服のセンスとか持ち合わせてないからさ。だったら一人でじっくり考えれた方が良いかなって思って」


「気遣いが出来ているのか出来ていないのかよく分からないねゆーくんは……。こういう時って一緒に見て回ってこれどう?どっちが可愛い?とかそういうやり取りをするのが普通なんじゃないかなぁ?」


「そういうのは他所でやんな」


「ひどぉい!」


 と文句垂れていたベルですがぶつぶつと文句を垂れながらもお洋服を選びに行きました。「どっちの方が良いと思う?」というdead or dieみたいな質問をされるよりも俺は一人で自由に選んでもらった方が良いと思う。おそらくこの考えを持っている男性は少なからずいるのではないだろうか?


 いやまぁ俺とベルの関係値が彼氏彼女並みであれば全然ついていきましたよ?でも俺とベルは養う養われるの関係、家主と居候の関係。そして出会って1日しか経っていない。であれば一緒に見て回るという選択肢が除外されるのは割と自然な事だろう。


「待つだけなら楽だしとりあえずここでボーっとしてよ」


「あれ……白月君?」


「……早乙女さん」


 やっべぇ……今一番出会いたくない人に出会っちゃったぁ……。

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