第34話
教室に着けば、蒼くんと要くんが既に登校していた。
「要くん、おはよう」
「おはよう、有紗」
クラスでは席替えをしたけれど、私と要くんはまた隣同士になっている。
だから、プレゼントもバレバレなのだけれど机の脇にそっと小さな手提げを掛けた。
「有紗、お昼なに食べたい?」
「ファミレスでいいよ」
「どのファミレス?」
「パスタが食べたい、ピザも!」
私の珍しく欲張りな感じに要くんが笑った。
「ピザはシェアなんだろ?」
「うん!」
そんな会話をしている私たちの周りは、落ち着いてる人が三分の一。
推薦で進学が決まった子や就職先が決まった子は落ち着いた雰囲気でこの冬休みを迎えている。
受験組は時間を惜しむかのように勉強している姿がある。
日菜子と蒼くんはそんな感じだ。
「おー、みんなおはよう。終業式だからな。体育館へ移動しろ」
担任の三浦先生の声に移動を始める。
階段を降り外廊下へと出ると、やはり外は寒い。
コートやマフラーは置いてきちゃったから、少し寒さが身に染みる。
隣を歩いてた要くんがすっと手を出すと、私の手を取って繋いできた。
こんなに周りにたくさんの同級生がいる中で手を繋ぐのは、ビックリして恥ずかしさが込み上げて、きっと私の顔は今赤い。
そんな私を見てクスリと笑うと要くんが言った。
「寒いから、いいだろ?」
それに、私は首を振ってしか返事が出来なかった。
寒い体育館で、いつもの如く校長先生の休み中の注意を聞いて終わればみんな足早に教室へ向かう。
寒い寒いと思ったら、空から珍しくチラホラと雪が舞ってるのだ。
この辺りでは雪が降るのは珍しい。
しかもこの時期に降ることは滅多にない。
「イブに雪が舞うなんて、私記憶にないよ?」
「珍しいよな、でもすぐやんじゃうだろうな」
「そうだね、一瞬のホワイトクリスマスイブだね」
帰りも寒さの中、手を繋いで私と要くんは教室へと向かった。
教室へと戻ってすぐに担任の三浦先生も来て、学期末なので通信簿を出席番号順にもらう。
もらった通信簿は体育以外はしっかり取れているのにホッとして、鞄にしまう。
私がしまう頃に、要くんも通信簿をもらって席に戻ってきた。
「どうだった?」
「ん。問題なかった」
その言葉にホッとしつつ、通信簿を配り終えた先生が校長先生と同じような注意事項と風邪に気をつけろよとの一言をつけてホームルームを終えた。
受験組は足早に帰宅していく。
私と要くんは少しゆっくりしていた。
「有紗、良いお年を!」
「日菜子も良いお年を」
そんな私たちと似たようなやり取りがそこかしこから聞こえつつ、みんな教室を出ていく。
私と要くんも帰り支度を済ませると、手を繋いで歩き出した。
今日は学校から最寄り駅へと歩くと電車には乗らずそのままその近辺のファミレスを目指す。
ここは市内の中心地なのでお店がたくさんある。
リーズナブルなファミレスに今日は決めて、お店に入れば店内はこの近辺の高校の制服で溢れている。
考えることはみんな同じらしい。
「早めに食べて、お店出ようか」
「そうだね、そうしよう」
私達はお互いに好きなパスタを選ぶと更にピザを一枚選んで注文した。
私は今日は寒さから季節のスープパスタ。
要くんはアラビアータ。
ピザはマルゲリータにした。
ドリンクバーをつけたので、取りに行こうとすれば要くんが止める。
「俺が持ってくるから座って待ってて。オレンジペコーでしょ?」
その言葉にうなずいて、私は要くんにお願いして席で待つ。
その間に要くんのアラビアータが届き、紅茶とコーヒーを持って要くんが戻ってくると私のスープパスタとマルゲリータピザも届いて食べ始める。
一緒に食べる時は、一口ずつ交換して食べるのも定番になってきた私達は互いになにも言わずとも小皿にお互いのパスタを乗せて交換した。
アラビアータもピリ辛で美味しい。
「スープパスタは優しい味だね」
「うん。温かくて美味しい」
少し会話をしたあと、私はピザを二切れもらい残りは要くんが食べてくれてお店をあとにした。
その後はファストファッションのお店を覗いて見たり、駅ビルのゲーセンに行って遊んだりするとあっという間に時間が過ぎる。
疲れた私に気づいてお茶することにしてドーナツ屋さんに来た。
私はドーナツふたつとカフェオレ。
要くんはドーナツひとつとコーヒー。
ここはカフェオレとコーヒーはおかわり自由なので、少しゆっくりするつもりだ。
おやつの時間には少し早めだからかまだお店は混んでいない。
ゆっくりドーナツを味わいつつ、温かいカフェオレを飲んで落ち着いてきた。
そろそろ、話す頃合いだろうか。
いい雰囲気で過ごしてきたのに、壊すような話していいの?
でも話さないままではいられないよね……。
私は意を決すると、ドーナツを食べ終わったタイミングで口を開いた。
「要くん。私、要くんに話さなきゃいけないことがある」
真剣に切り出した私に、要くんも表情を変えて聞く体勢になってくれた。
「有紗、なに?」
ゴクッと喉を鳴らして私は話し始めた。
「あのね、私には病気があって。実はそれで体育は免除されてるのだけれど。その病気でね、私はもうすぐ目が見えなくなるの……」
話しながら、どんな反応が返ってくるか怖くて顔を俯けてしまう。
そんな私に要くんは聞いてきた。
「それは、有紗がこれから大変になるってことだな。ただ、目が見えなくなっても有紗は有紗だよ。俺が好きなことに変わりはないよ」
その言葉に、優しい声に顔をあげれば要くんは真剣な目をしていた。
目が合うと、要くんは苦笑して言った。
「もしかしてさ、有紗はこの話をしたら俺が離れていくと思ってた?」
その問いに、私は上手く答えられない。
要くんの声がいつになく、冷えて聞こえてきて私は固まってしまった。
それは肯定と同じだ。
そんな私に要くんの悲しい声がかかる。
「そっか。まだまだ俺の気持ちは有紗に全然届いてないわけか……」
パッと顔を上げれば、その顔は悲しげで私の胸に痛みが走る。
「大切に想ってくれて、ことある事に行動でも言葉でも伝えてくれてるよ。その度に嬉しくて幸せで、胸がいっぱいになるよ」
素直に感じている事を言葉にして伝える。
要くんは少し目を見張ると、話し始める。
「少なからず気持ちが伝わってるのは分かった。でもちゃんと届いてないと意味が無い。俺この前言ったと思うんだけど、届いてなかったか?」
その言葉にはたと気付いて、私は自分の右手を見る。
その私の様子を見て思い出した事に気付いた要くんは、フーっと息をつくと苦笑しつつ言った。
「ちゃんと届いてなかったみたいだな。もう一度言うよ」
そして、一息つくと要くんは言った。
「有紗、今はお互い右手に着けたけど、いつかちゃんと大人になった時これよりしっかりしたのを左手に贈りたいと思ってる。それくらい本気で好きだから、それを忘れないで」
そして要くんはあの時の言葉を言って更に続けて言った。
「まだ大人になれてない、頼りないところだってたくさんある。でもこれからもっと成長する。その過程も、そうして大人になっても、俺は有紗とずっと一緒にいられるように頑張るから」
そこで区切ったあと、要くんは優しく微笑んで言う。
「有紗。俺、有紗を好きより愛してるんだよ。だから絶対離れないから。有紗が大切なんだ。だから不安になんてなるなよ? ずっと一緒に居たいと思ってるから……」
コツンと合わさる額に、私はキュッと目を閉じる。
目の端に浮かぶ涙が零れていく……
「要くん。私、出来てたことが出来なくなるよ。不甲斐なくて落ち込んだり、当たったりするかもしれないよ?そんな私でも、そばに居てくれるの?」
私の言葉に、驚きつつ答えてくれる。
「言っただろ?絶対離れないって。俺は有紗が大変な時だってそばに居るよ。そんなことで離れるような軽い気持ちじゃないから」
私、本当に分かってなかったんだね。
要くんの気持ちの大きさに、気づいてなかったなんて。
このリングをくれた時からしっかり言ってくれてたのに。
見えなくなる不安から、相手の気持ちまで見えなくなっていたのかな……。
「要くん、私も一緒に居たい。どうなっても頑張るから、一緒にいて欲しいよ」
「うん、ありがとう。一緒に居るから、有紗も俺から離れないでよ」
一番伝えなきゃいけないことを伝えて、大切な人が離れる不安が消えた。
クリスマスイブ、私達はまたひとつ絆が深くなっていった。
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