第6話

中間テストも無事に終えると、つかの間日常の学校が戻ってくる。


テスト期間って、学校も学生も先生も少しピリッとしてて空気が違う。


それが緩んで流れていくのが普段の学校。


行事になるとまた雰囲気は変わる。


そんな空気も私はまた肌で感じ、記憶として焼き付けようといろんな風景とその時をじっくり眺めて過ごす日々。


だからかな、最近日菜子と蒼くんが良い雰囲気なのも感じ取ってた。


日菜子の事が大好きだし、なんかちょっと取られた気分になっちゃうけれど……。


友達が好きな人と想い合えるようになるって、素敵な事で幸せな事だよね。


私は、それを諦めてしまったから……。

眩しくて、羨ましくなるけれど。

でも大好きな二人のことだから、笑って見守れるから。


「早く二人の口から良い言葉が聞けるといいな……」


楽しそうに話す二人の向こうにある窓の外は、どんよりとした空。

季節は梅雨へと移ろっていた。


「有紗、これ集めろって」

そう声を掛けてきたのは、要くん。


要くんは今日の日直。

前の英語の先生に小プリントの回収を任されていた。


「ごめん、すっかり忘れてた!はい」


そう差し出すと、しっかり受取ったあと私をじっと見てくる。

余りに真剣な目なので首を傾げつつ、声を掛ける。


「要くん、私になにかあるの?」


「いや。有紗は相変わらず字が綺麗だなと、プリント見て思ってさ」


「ふふ、ありがとう。大変なら手伝うけど?」


「これくらいどうって事ない。またな」


私の頭に手をポンと置いてから、集めたプリント片手に教室を出て行く要くんの後ろ姿を見送った。


「イケメンは後ろ姿にも死角なし。後ろ姿まで綺麗とかずるいでしょ……」

あまり行儀は良くない肩肘ついて片手に顔を載せつつも呟いていたら、背後から声がする。


「確かに、アイツ背筋伸びてるし、背は高いし見た目だけはそこそこよね!」


「日菜っち、そこそこ所か結構良いでしょ?幼なじみだから見慣れてるだけじゃない? ま、俺の方がカッコイイ?」


「は?、バッカじゃないの!? ふ、ふん!」


振り返って見つめてても繰り広げられた二人の会話。

あら? これは、思ってたより随分早く二人の距離感が変わったようだと感じて口を開く。


「日菜子、蒼くん!」


「ん?」

「なに?」


私の声にふたりの視線が私に注がれる。


「おめでとう、仲良くね?」

ニコッと言えば、蒼くんは嬉しそうに。

日菜子は照れているが、すかさず私へ突っ込んでくる。


「なんで、有紗ってば私たちが言う前に分かるかなぁ……」


少し拗ねた日菜子の口ぶりと様子に、クスクス笑いながら私は答えた。


「一緒にいることが多いし、そういうのって見てると案外分かるものよ?」


そう言うと、日菜子と蒼くんは顔を合わせてから私を見て言った。


「要はこっちが言うまで気付かなかったけど?」


それはそれは、気付いた私の方が不思議だと言う。


「だったら私は人の様子を見てるのが好きだからかもしれない。趣味、人間観察だから、ね?」


おどけた調子で言うと、日菜子と蒼くんは笑ってくれた。


「それで、実は今度の日曜日貰ったチケットで水族館に行くんだけど……」


あら、水族館デートなんて王道じゃない!と内心ムフフしていると、続いた言葉に私は返事に詰まることになる。


「実はチケットは四枚貰ったんだ。そんな訳で……」


「有紗と要も一緒に行こう!」


そう声高らかに宣言する日菜子。

………………。


「イヤイヤ!待ちなさい! 君たち、付き合いたてのカップルのデートに付き合わされるこっちの身になってみてよ! 虚しさと悲しさしか浮かばないんですけど!」


思わず突っ込んだ私に、更に背後から再び声が掛かる。


「俺は行ってもいい。有紗が来るなら」


その声に振り返れば、先生にプリント持って行って教室に戻って来ていた要くんが、あろうことかそう告げてきたのだ。


そうして、決まってしまったカップルに付き添って水族館へ行く前の日。


私は日菜子と駅ビルの中、女子高生に人気のプチプラだけど可愛い服の多いブランドのお店で服を見ていた。


「あー、有紗!コレだったら水色とピンクどっちがいいかな?」


「日菜子なら水色じゃない? 今のサンダルにも合うし。そしたらバックは、こんな感じが良いんじゃない?」


日菜子が手に持ってる服を見つつ私は、棚のバックを指さして日菜子に伝える。


「わ!可愛い! うんうん! これも買っちゃう!」


ダブルデートとは言え、日菜子と蒼くんは付き合って初めての遠出だ。


私も今回行く予定の水族館は初めての場所。

海沿いの観光地にも近い、有名な水族館だ。

遠慮はしていたものの、実は行きたかった場所で私も楽しみにしている。


「有紗! 有紗はこれが合うと思う!!」


そう言って日菜子が私に当ててきたのはレモンイエローのフィッシュテイルスカート。


明るくて、これからの季節にぴったりなスカート。

フワッとしたシルエットと軽やかな生地に一目惚れだ。


「うん、これ可愛い! 私はこれにする!」


スカートに合わせて、白とブルーのギンガムチェックのオフショルダーTを買って私たちはお店を後にする。


疲れたのでこれから、ドーナツ食べてお茶しつつ休憩だ。


ドーナツ屋さんで、それぞれ好きなドーナツ二つと私はカフェオレ、日菜子はコーヒーを頼んで席に着いた。


「今日は買い物に付き合ってくれてありがとうね」


にっこり笑って日菜子は続けざまに言った。


「明日はダブルデートだからね! 有紗もしっかり今日の服で可愛くしてくるのよ!」


ビシッという音がしそうなくらい、腕を振っていう日菜子はなんだか有無を言わせる隙が無い。


もともとハッキリした性格をしているけれど。


なんとなく、その方向性を掴んだ私は、ずるいけどその話題からは逸らすことにする。


「久しぶりの遠出だからね。綺麗にはして行くよ。どんな生き物が居るのかな? 今からすごく楽しみ!」


私が満面の笑みでそう返すと、日菜子は少しガックリしている。


ごめんね、日菜子……。


私は日菜子の話を聞くことは出来るけど、自分の恋については話せない。


いや、話す話題が無いから……。


きっと日菜子は私の話も聞きたいんだろうな……。

それは度々、一緒にいて感じてきたこと……。


でも、私は決めてるの。

恋はしないって……。

それを人に話すこともしないって……。


だから、私は気づいていてもそこには触れずに、笑顔を浮かべて避けて通る。

私には、気にし続けているリミットが迫っているから……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る