運転免許、交付前に返納済みです
渡貫とゐち
交付前に占いを。
「申し訳ありませんが、あなたに免許証を交付することはできません……お引き取りください」
座学、実技の試験を終えてやっと苦労して合格した若い男だった――が、なぜか受付のお姉さんは、資格があるのに免許証を渡してくれなかった。
変則的な逆ナンか? と思えば、免許証をどうしても渡せない理由があるらしい。どうせ納得できないが、聞いてみるだけ聞いてやろうと、若者はお姉さんに訊ねる……なぜ? と。
「手元にこないなら、返金されるかどうか、気になるところだけど、まあいいよ、それは後でいい……。合格ラインを越えているはずだ。なのに、どうして免許証が交付されないんだ? 人を選んで、免許証を渡すか渡さないか決めているわけですか? それって差別ってことじゃないんですかー?」
「人を選んでいる、と言えばそうですが、しかし、差別ではないです。これは、仕方のないことなので――」
「どんな理由があれば人から資格を剥奪できるんだよ。事故を起こしたならまだしも、まだ免許証を受け取ってすらねえ。納車だってこれからだ。それとも、俺の自覚がない内に前科がついていて、犯罪者には免許証を渡せないとか言うつもりなのか?」
あぁ? と、段々ヒートアップしていく若者だったが、受付のお姉さんは落ち着いた様子だった。
「過去のことではなく、未来のお話です」
未来――。新たに免許証を取得した者には、直前に占い師に占ってもらっている……、水晶玉を使って見たり、タロットカード式のものだったり。
怪しい見た目だが、腕は確かな占い師がじっくりと時間をかけて占ってくれている……それを踏まえて。
「ええはい、占いの結果が出まして……あなた様は一年以内に大事故を起こすみたいです。死者多数の酷い有様、とのこと。ですので、免許証をお渡しすることはできません。被害者が多数いる事故を予言して、ここで見逃すわけにもいきませんので……。知った未来を回避すればいいと仰るかもしれませんが、免許証を渡さないのが最も確実なのです。……ですので、こちらで免許証を返納扱いさせてもらいますね」
「ちょっ――待てよ!! 返納って……手に持ってすらいねえよ。せめて馴染むくらいまでは持たせてくれてもいいんじゃねえか!? じゃ、じゃあ、車には乗らないから……だから免許証だけは……ッッ」
「そう言って、勝手に車に乗った人が大事故を起こしていますからねえ……、前例があるわけです。規則に従い、対応していますので、特別扱いはしません。みな、平等に、事故の予言を受けた方に免許証は渡せません……申し訳ありませんがお引き取り願えますか?」
「ふざけんなッッ!!」
怒声が響いた。
周囲の注目が集まり、若者は一瞬でカッとなり、周りを睨む。
「なんだよ……見てんじゃねえぞ!!」
「こうも簡単に激怒するところを見ると、運転中も我を忘れそうですね。予言通り……あなたは絶対に事故を起こすでしょう。やはり渡せませんね……来年、またきてくださいね」
その時の占いの結果によっては、今度こそ、免許証を受け取ることができるかもしれない。
・・・おわり
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