第4話:勇者の子どもと悪役令嬢

【6】勇者の子どもと悪役令嬢(1)

「ねぇフレイくん、あれからどう?」


性懲りもなく、また遊びに来たカタリーナは、ウチへ来るなりそう尋ねた。

『あれからどう?』というのは、俺の前世くどうじんのことだ。

カタリーナを助けて以来、時折『宮藤迅を見かけなかったか?』と聞かれるようになった。


「いえ。残念ながら、全く見かけていません。」

「そう.....。」


カタリーナはがっかりしたものの、そこまで期待していなかったのか、『やっぱり』と言わんばかりにリアクションは薄かった。


「はぁ....。あんな見た目してたら、目立つし、すぐ見つかると思ったのになぁ〜。」

「そんなに変な見た目の方だったのですか?」


「変っていうか.....一目見れば分かると思うけど、本当に、見たことのないような容姿と服装をしているのよ。

顔は平べったいというか、凹凸が少なくて、服装は…何というか、奇抜でイカツい感じなの!」


顔が平べったい!?

...まぁ、この世界の人間からしたら、珍しい顔なのか。


「多分年齢は10代後半〜20代だと思うんだけど、童顔というか、幼く見える顔立ちだから、パッと見、12〜14歳くらいに感じるかも?」


うるせぇ!!

童顔で悪かったな!

身長はそこそこあるし、流石に12〜14歳は下に見過ぎだろ。


「なるほど。童顔で、顔が平らで、イカツい服の人ですか....。」

「ね?視界に入ったら二度見しちゃいそうな外見でしょ?」

「確かに、目立つ見た目かもしれませんね。」


そんな話をしていると、コンコンと扉をノックする音が響いた。


「失礼します、フレイ様。ご友人が来られました。」


使用人は、『ご友人』とやらを客間へ通した。


「よぉ、フレイ!今日もお前ん家の山で修行するぞ!」

「フレイくん、お邪魔してます。」

現れたのはタクトとライラだった。

.....コイツらと友達になった記憶は一切ないのだが、使用人には何度説明しても理解してもらえなかったので、訂正させるのは諦めた。


「あれ、フレイくん。その子は?」

ライラはカタリーナをまじまじと見つめる。


「あぁ、紹介しますね。彼女はカタリーナ・エセヴィラン公爵令嬢です。僕たちと同い年で、ディシュメイン王国の宰相であるエセヴィラン公爵の娘さんです。

カタリーナさん。こちらの二人は、伝説の勇者ユシャ様のお子さんで、兄のタクト・ブレイブくんと、妹のライラちゃんです。二人は双子で、僕たちと同い年です。今はキョウシュー帝国に住んでいるのですが、よく僕のウチに遊びに来ます。」


「で、伝説の勇者の息子?!」


さらっと全員の自己紹介を済ますと、カタリーナはあからさまに動揺した。


「伝説の勇者の息子って、十中八九攻略対象ポジでしょ!っていうか何で?何でフレイ君のウチにそんな重要ポジの子がいるの?」


カタリーナはぶつぶつとワケのわからないことを呟いている。その様子を、タクトとライラは頭に「?」を浮かべながら見ていた。


「僕の叔母さんが昔、勇者パーティの一員として戦っていたからか、ライトニング家とブレイブ家は家族ぐるみで交流があるんです。」

一応、カタリーナの疑問に答えてやった。


「え?.....えぇー?!?!初耳なんだけど?!」


カタリーナは一層驚いて、目を丸くした。


「え、じゃあフレイくんも攻略対象?ウソ、私、そうとも知らずに『仮の婚約者』になってとか言っちゃったワケ?コレってヤバくない?ヒロインがもしフレイくん狙いだったら私、悪役令嬢になって破滅するじゃん!控えめに言って大失敗よ!」


独り言はますますエスカレートして、俺たちのことが全く視野に入っていないようだ。

そんなカタリーナの暴走を止めたのはライラだった。


「あの、すみません。カタリーナ様。」

「えっ!あ、はい!」

「ライラと申します。よろしくお願い致します。」


ライラは畏まって挨拶する。


「こ、こちらこそよろしくね!ライラちゃんと、確か....」

「タクトだ!」


一方のタクトは、なぜか偉そうである。


「ちょっとお兄ちゃん!さっきの話聞いてなかった?カタリーナ様は宰相様のご息女だよ?

....大変申し訳ありません、カタリーナ様。兄に代わって謝罪します!」

「あぁ〜、いいのよいいのよ。私、一応公爵令嬢だけど堅苦しいのは嫌いだし。心は庶民だから、もっと気楽に話しかけてくれる方が嬉しいわ。」


「ですがカタリーナ様....」

「別にいいじゃん。カタリーナがそう言ってんだから、お言葉に甘えようぜ。」

「そーそー。お言葉に甘えてちょうだい。貴族仲間はみんなお上品な言葉使いばっかりで、ちょっと疲れちゃうのよ。だから、気軽に話せる友達が欲しかったところなの。」


二人の説得にたじろぎながらも、ライラはどこか嬉しそうだった。


「.....じゃあ、カタリーナ、ちゃん。」

もじもじしながら、弱々しく言葉を発するライラ。


「なに?ライラちゃん!」

その一言で、ライラの表情は一気に明るくなった。


「そーそー。カタリーナも俺らの一員なんだから、遠慮はいらねーって。」

「お兄ちゃんは、少しは遠慮してよ.....」

「えっと、一員って...?」

嫌な予感しかしない。


「もちろん、決まってんだろ!俺たち新・勇者パーティのことだよ!」

「やっぱり!もう、お兄ちゃん!

カタリーナちゃん、無視していいから。お兄ちゃんのいつもの勇者ごっこだから。」

兄の強引さに振り回されて、呆れるライラ。


「勇者ごっこねぇ。.....いいわよ。勇者ごっこしましょ。」

カタリーナは『子どもだな』と言わんばかりの温かい目で、タクトの勇者ごっこに付き合った。


「うっし!それじゃあ、カタリーナはシヴァおじさん役な!」

「え。私、女なのにおじさん役なの?というか、シヴァおじさんって誰?」

「シヴァおじさんは、お父さん達と一緒に旅していた仲間の一人だよ。凄い魔術が使える、とっても凄いおじさんだよ。」


説明がアバウトだな。

勇者パーティって言えば、タクトとライラこいつらの両親とセージャ叔母さん以外に、あと2人いたな。

どっちも魔法もしくは魔術を使っていたし、男だったから『シヴァおじさん』とやらが、どっちなのかわからない。


「俺とライラは一回会ったことがあるぜ。胡散臭いけど、ユーモアがあって面白いおじさんだった。」

今のでわかった。

アイツか!

俺を強制的に転生させた、クソムカつくおっさん!

アイツは今度会ったら1000回殺す。


「つまり、胡散臭くてユーモアがあって、魔術が使えるようになれってこと?」

「そうそう!魔術師役な!」

「オッケー、魔術師ね!それじゃあ、バンバン魔術使うわよ〜!」


カタリーナは、冗談半分にタクトのノリに合わせた。

まるで、子どもの遊びに付き合っている大人のようだ。


「よし、そうと決まれば特訓だ!みんなでいつもの山に行くぞ!」

「いつもの山って?」

「あの窓から見える山だよ!あの山で俺たちはいつも特訓しているんだ!」


まぁ、正確には1人だけだけどな。

俺とライラは基本、タクトについて行って、魔物を倒したタクトを適当に褒めてるだけだ。


「へぇ。山で特訓だなんて、みんな、よくそんな体力あるわね。」

「へへっ。カタリーナも山で特訓すれば、体力つくぜ!」

「えぇぇ、山登り.....。」

山で特訓する流れになってから、わかりやすいくらいカタリーナのテンションが下がった。


「.....まぁ、たまには自然を思い切り堪能するのもアリか。」

カタリーナは自分の気持ちに折り合いをつけたのか、そう呟くと、山登りに乗り気になった。


そうして俺たちは、新メンバーを引き連れて、いつもの山へと向かった。

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