転校してきたツンデレな彼女はどうやら俺が好きなVTuberらしい

越山あきよし

第1話 VTuber――さちは転校生

『今日もありがとう。また観てね』


 日課となっているさちの配信が終わった。


 顔は童顔なのに、胸は動く度に揺れる豊満。

 髪はピンクのストレートで肩辺りまで伸び、頭には白いリボンをつけている。

 それはさちのVTuberとしてのアバターだ。


 俺はさちが中学生でデビューした当時から応援している。

 同い年で親近感あったのを今でも憶えている。


『こちらこそ、ありがとうございます。さちに癒やされ日々の活力とさせていただいております』


 俺はそうコメントを送った。


『そうそう、言おうと思ってたこと思い出した』


 ブラウザーを閉じようとしていた手が止まる。

 なにを言うのかな? 告知かな?


『私的な事なんだけど、転校することになりました。もし同じクラスになったらよろしくね。ちなみにそれと同時に引っ越します。その関係で明日から1週間くらいかな? 配信をお休みします』


 忘れそうになってた割に重要度高い気がするんだけど。


 コメント欄には1週間配信がないことを残念がる内容や、同じ学校になることを期待する内容、さらには隣が空室だけど来るのかなという内容などが流れている。


『私的な事すぎる! でも、配信休むなら言わないとか』


 俺もその流れでコメントを残した。

 転校なんて俺は経験したことないけど、どんな心境なんだろう。


 わざわざ引っ越すあたり、行きたい学校ができたとか?

 さちに限って学校に居づらくなったからなんてことないだろうし。


 ……考えないようにしよう。いくら考えても答えはみつからない。


 次の配信の時にでも訊いてみよう。

 答えてくれるかはわからないけど。


 ♡


「転校生を紹介します。根元ねもとさん、どうぞ」

根元ねもと小幸こゆきです。よろしくお願いします」


 形式的な拍手が鳴り響く。

 声を聞いた時、VTuberのさちかもと思ったけど、どうだろう。


 容姿は三つ編みツインテールに丸いレンズのメガネ。顔は整っているため美人ではある。


 胸はまな板かのようにぺったんこ。

 声が似ているだけか?

 俺の願望がさちかもと思わせているに違いない。


 にしてもタイムリーだな。さちが転校すると話して数日後に俺が通っている高校に転校生が来るなんて。


「ゲッ! こんな冴えないやつが私の隣なの? ありえないんだけど」


 ん?

 聞き間違いじゃないよな?

 俺の隣の席に腰掛ける根元ねもとさん。


「なに見てんのよ。気持ち悪い」


 口悪!

 普通、初対面でそんなこと言うか?


 腕を組み、さらには足も組んでるし。

 口だけでなく、態度も悪いな。


「はい、みなさん、根元ねもとさんと仲良くしましょうね」


 ほんわか言う、担任のさくら美穂子みほこ先生。三十路。


 つられて返事をしてしまいそうになるが、これで返事するのは小学生までだ。

 そもそも仲良くなれる自信ないしな。


 ♡


小幸こゆきちゃんって、どこから来たの?」

「別に、どこでもいいでしょ」

「お家どこ? 今度行ってもいい?」

「近く。来るのは勝手だけど通報するよ」

「お昼、一緒に食べない?」

「一緒に食べてどうするの?」

「放課後、カラオケ行かない?」

「騒がしい所、苦手なのよね」


 休み時間の度にクラスの女子が声を掛けるも、どの返答もツンケンしている。

 最終的には声を掛ける者はいなくなり、根元ねもと小幸こゆきは孤立していた。


 声はさちっぽいんだけどな。

 イメージと大分違う。


 さちは明るくフレンドリーな印象だけど、根元ねもとさんはツンデレ?

 デレがあるのかはわからないけど、トゲがある。


 ♡


 放課後になり、俺は帰り支度をする。

 根元ねもとさんはなにかを待っているかのように周囲を見回し、席を立とうとしない。


 当然のように腕を組み、足も組んでいる。偉そうだ。

 誘われ待ちに見えなくもないが、あんなにツンケンしてたら誘う人はいないだろう。


 すでに誘いを断ってるわけだし。

 だとしたらなぜ動こうとしないのか不思議でならない。


 根元ねもとさんがこちらを向き、目が合いそうになる。

 怒られそうなので目を逸らす。


 なにも言われないあたり、目はあってはいないはず。

 この後の行動を見てみたい気もするが、怒られそうなのでやめておく。

 俺は文芸部室へと移動することにした。


 ♡


 文芸部室に到着。照明をつけ、席に座る。

 文芸部員は現在、俺1人。


 去年までは先輩が1人いたのだが、卒業してしまった。

 ゆえに1部屋丸々独占状態だ。


 嬉しいような、悲しいような。

 静かな部屋で1人、読書に耽けれる場所は貴重だ。


 入部した時のことを思い出す。

 図書室でのんびり過ごしていたら陽キャグループに占領され居場所に困り、校内を放浪しているところを先輩に捕まったんだっけ。


 別に家に帰ってもよかったのだが、一人暮らしをしている俺は光熱費を節約したかった。

 過去を思い出しながらカバンの中を漁っていると忘れ物に気づいた。

 スマホがない。


 根元ねもとさんに気を取られていたせいか、机の上に置いてきてしまったのだ。

 人のせいにしてはいけないな。

 面倒ではあるが取りに行くか。


 部室内にある時計をみるに、終礼から30分は経過している。

 もう誰もいないかな?


 置き忘れなんて誰にでもあることだとわかっているけど、取りに行く姿を見られるとミスをした事実を突きつけえられている気がして嫌なんだよな。


 誰もいないことを祈りつつ教室へと向かう。


 ♡


 廊下を歩いていると、教室内から声が聞こえてきた。


「隣の県からだよ」

「もちろん! 家で女子会しよ!」

「やった! 一緒に食べよう」

「行く、行く。カラオケ行きたい!」


 電話中のようだ。入りづらいな。

 ん? 会話がやんだ。


 扉には手をつけず、教室内を覗くも、誰もいない。

 安堵し扉を開ける。


「もっと素直になれたらな」


 バットタイミング。

 根元ねもとさんが1人で悲壮な表情で嘆いていた。

 これ絶対に見ちゃいけないやつだよな。


 根元ねもとさんが廊下側の壁にいたため覗いた際、俺からは見えなかったんだ。

 どうしたものかと思い悩んだすえ、俺はどんでもないことを言ってしまう。


「家に来る?」

「は?」

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