第4話 二人きりの下校
「強助?」
隣にいる黒妃優華が顔を覗き込みながら聞いてくる。
「なんでもない。アイス溶けちゃうから食べて」
優華が食べたかったものだ美味しく食べてほしい。
俺がいるだけで料理は何倍もの美味しさを誇っているとは思うがな。
「そうだね。食べる」
パクパクと急ぎで食べる優華。
「アイスも溶けるのを忘れるくらい早く食べてるな」
「ならアイスとしては本望だね」
アイスを食べるのを止め、手で持ちながらスプーンを口に咥える。
スプーンをゆっくり舌の上から出すと、アイスのカップに戻す。
「長く考え事をしてたよね。なにか気になることでもあった?」
「どうして俺はアイスを食べているのも絵になるのかなって」
「そう・・・・・・ならいいけどね」
「急に冷たくない!?」
アイスだけに。
「アイスだけにって思ったの?」
「優華のボケ、寒いよ」
「強助も絶対そういう風に考えてたよね」
アイスをまた口に運びながら、優華が目をパチパチとさせている。
「そういう優華は?」
なにか言いたそうだ。
「優華がなにか言いたいことあるんじゃない?」
「うーん、そだね。あ、あの、さっきの話の続きなんだけど、ファッション・・・・・・ビ、ビッチって呼ばれている人もいるんだって」
うわぁ俺より酷い。
誰かわからないけど同情する。
俺は心もイケメンだから耐えられるけどさ。
「その・・・・・・その人は、白姫波音羽さん。彼女がそう呼ばれているみたい」
「白姫さんが?」
「うん。彼女が強助と同じように噂されてる」
あれだけ目立つ彼女なら噂を流されそうではあるけど、言いように言われていいわけではない。
「災難だな。だけど俺や白姫さんがそういったあだ名で呼ばれていることをなんで優華が知っているんだ?」
「えっ」
目を大きく開いて驚く優華。
陰でコソコソと噂されていることを優華が知っているのにはなにか理由があるはずだ。
「たまたま聞こえちゃったの。クラスの女の子たちが話してて、偶然耳に入ってきたんだよね」
優華が申し訳なさそうな表情で呟く。
「酷い女の子じゃないと思うけど、陰でそんな風に言われているということは、白姫さんって嫌われているんだ」
日頃から苦労しているのだろうな。
「大丈夫だよね・・・・・・辛くないかな?」
「白姫さんならそういったことを間に受けない。あくまで、俺の見立てだけど」
なんて口では言うけど、白姫さんがもし知ったとするなら辛いはずだ。
どんな言葉でも心は削られる。
たとえ白姫さんが自覚しなくてもだ。
その先に待つのはすり減って痛みを感じづらくなったボロボロの心だ。
「そうだといいな。でもなにかしてあげられないかな」
もどかしそうに顔をしかめる優華。
「残念だけど難しいことだと思うよ。陰で言っている、噂をしているということは、表では言えないこと。けど日頃思っているからこそ、押さえつけられなくなって陰で言っているんだ。注意してもそういった人達は簡単にやめない」
人は表で言わない。
表で言うのは悪いことだと認識すればするほど裏や陰で言う。
裏でしか陰でしかなかなか本心は言えない。
いつしか陰口が噂というものになって表に立つ。
どんな時代でもそれは変わらない。
だからこそこんな世界に
「それにもし注意をすれば、今度は優華が陰でなにか悪い風に言われ、変な噂話を広められる。そうなったら元も子もないし、やっぱり優華ができることはあんまりないよ」
「でも・・・・・・」
「噂はときが経てばなくなっていくものだ。気にしなくても、いずれ消えると思うよ」
俺は落ち込む優華を安心させるように、彼女の肩に手を置いた。
「わかった、ありがとう強助」
白姫さんの噂、そして、俺の噂。
不当な陰口に優華は納得が言っていないのだろう。
無理をしないといいけど・・・・・・。
スプーンを手に持つ。
「美味しい」
優華がアイスを食べるのを再開していた。
「切り替えなきゃね」
「アイスがこんなに美味しいと俺達の学校の生徒はみんな通うかもな」
学校から歩いて十分ほどの距離に生徒達が使う最寄り駅、東京テレポート駅と台場駅がある。
その近くには様々なお店があり高校生にとって学校帰りに通う場所として最適。
大人気間違いなしかもしれない。
「本当だね〜すぐに私達の学校の生徒で溢れかえりそう。私も毎日通いたくなってるしね」
「毎日!? まぁ通えなくもないけど」
俺と優華両方の家は駅から歩いて三十分くらいのところにあるため通えなくはない。
「ちょっと時間はかかるけど行けなくもないね」
優華が本気の顔になる。
なにか嫌な予感がする。
「それに平日なら学校が終わってから行けばいいだけだもん。強助本当に行けなくないよ!!」
輝かせた目で俺に訴えかけてくる。
本当に行く気なのか!?
「本気で通うなら頑張って優華。俺は応援してるから」
「なんか素っ気なくないですか〜〜??」
「そう?」
俺の目の前まで顔を近づかせてくる。
「強助には、俺も一緒に優華と通うよ。みたいなこと言ってほしかったな・・・・・・」
「じっっっ〜〜」
下を向いたのも束の間、視線を声で表現しながら見つめられる。
反射的に目を逸らしたが、逸らした先に優華が移動してくるため意味がなかった。
「優華さん。その動きはなんですか。そして、その目はなんですか」
「強助に毎日行く覚悟を決めさせる目」
「毎日は行かないよ、てか行けないよ。そこまでアイス好きじゃないから」
俺がツッコミを入れると優華はアイスを食べるの再開させながら、止まっていた足を動かした。
「いまはその考えでいいよ。でも実際に毎日通うって決めたら、強助の家にピンポンしてでも毎日連れていくからね」
顔をプイッと背ける優華。
「そうなったらアイスどころか俺の財布も溶けてくよ」
これは大変なことになりそうだ。
ため息を軽く吐きながら、後ろから追いかけるように歩きを再開させた。
一日が終わったなと実感していると、目の前にサッカーボールが転がってきた。
横を見ると昔よく遊んだ公園がある。
「懐かしい」
「・・・・・・うん」
「思い出の場所だね」
サッカーボールに目を向ける。
「ボールだ・・・・・・」
罪に問われているような切ない表情をする優華。
「ねぇ強助・・・・・・」
「お兄さん、お姉さんとって!!」
優華が俺に声をかけようとしたタイミングで、持ち主と思われる少年からサッカーボールをとるように
俺は食べ終えたアイスのカップを地面に置き、ボールを手に取った。
そして、公園の中にいる少年に向かって転がして渡した。
「変なの。蹴ればいいのに」
「・・・・・・」
「だけどありがとう!!」
少年は頭を下げて感謝を伝えたあと、一人でボールを蹴りながら去った。
「・・・・・・帰ろっか、優華」
「・・・・・・うん」
アイスのカップを手に持ち家へと向かう。
どうでもいいようなことを軽く笑いながら話しているはずなのに、お互い心は食べ終えたアイスのカップのように空っぽな気がした。
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