世界の再構築
一週間が経過し、ノヴァ・リヨンは新たな日常を迎えていた。
かつての人工空は姿を変え、生命体のように呼吸する光の膜となっていた。建造物の表面には、微細な量子パターンが織り込まれ、巨大な織物のような様相を呈している。
「驚くべき速度で進化を続けていますね」クレアがホログラム空間に最新のデータを展開する。「このパターンを見てください。完全に自律的な適応を示しています。居住区の必要性に応じて、重力場や環境パラメータを自動的に最適化しているんです」
技術は、もはや人間が一方的に制御するものではなくなっていた。それは環境や居住者との相互作用の中で、絶えず進化を続けるシステムとなっていた。
「連邦科学評議会からの報告です」アリエットの声が響く。ウォーカーの姿が通信スクリーンに映し出される。
「他のコロニーでも、同様の現象が確認され始めています。しかし、その進化の過程は、各コロニーで異なるパターンを示している」
「各コロニーの文化や必要性に応じて」ピエールが言葉を継ぐ。「技術が独自の発展を遂げているということですね」
工房からの報告が新たなデータを示す。職人たちは、最新のAIシステムと従来の手仕事を、これまでにない形で融合させていた。
「興味深いのは」クレアが分析を加える。「量子場との共鳴が、職人の技能をさらに高めている点です。まるで、空間そのものが彼らの感性を増幅しているかのよう」
画面に、井筒商事の篠原が現れる。「デュボワ=アオキさん」彼女の声は、以前の緊張感を失っていた。「私たちも、ようやく理解し始めました」
「何をですか?」
「技術の本質を」篠原が答える。「それは所有し、支配するものではない。共に進化し、成長するものだということを」
彼女の背後のスクリーンには、地球の各製造施設で起きている変化のデータが表示されていた。そこでも、空間との新たな関係性が、独自の形で発展を遂げていた。
「これは、産業革命に匹敵する変革かもしれません」クレアが意見を述べる。「技術を道具としてではなく、共に進化するパートナーとして」
ホログラム空間には、コロニー全体を包む量子場の姿が、これまでにない安定性と複雑さを持って映し出されていた。それは単なるインフラストラクチャーではなく、生命体のような適応性と、意識的なシステムのような知性を備えていた。
「私たちは今」ピエールが静かに告げる。「技術との真の共生関係を、やっと手に入れ始めたところなのかもしれません」
制御室の重力が、微かに、しかし心地よく変動する。それは、新たな時代の確かな胎動だった。人類が技術を支配するのではなく、技術と共に進化する時代。
空間そのものが織りなす、新たな文明の夜明けが、静かに、しかし確実に訪れようとしていた。
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