アリーゼと行くダンジョン巡り
ホオジロ夜月
第一章 アリーゼとエリシア
第1話 森のダンジョン主 ミホノ
「はっはっは! 大量! 大量!」
「今日は調子良いすっね! ボス!」
「あったりめえよ! 俺らがすることはぜーんぶ上手くいくんだからよ!」
暴風雨が吹き荒れる豪雨の中、地面のぬかるんだ悪路であるにも関わらず、馬車はこれでもかと勢いよく走らせ、私の目の前で人さらいたちは嬉しそうにはしゃいでいる。
親に捨てられた時点で私の人生なんて、もう終わってるようなものだけど、こいつらに売り飛ばされた儲けによって、こいつらがたらふく幸せそうに過ごしているの想像しただけで腸が煮えくり返るよつな気分だ……
そんなやるせないこの状況への怒りを必死に飲み込んで私は、改めて自分以外の女の子たちへ目を向けた。
(みんな幼ない……私とほぼ同い年な子も何人かいる)
しかし今にも泣きそうなぐらい不安な表情を浮かべている子とは反対に、静かで瞳には光が宿っていない。もう全てに絶望した子も数人いた。
きっとあの子たちは私の様に家族から見放された捨て子なんだろう。行く充ても無いがゆえにここにいる。
奴らにとって私たちは、ただの金稼ぎに利用できるだけの存在……売り払われた後は奴隷としての一生まっしぐらか……希望なんてどこにも無い……
(いっそ何かの幸運が舞い込んで、この馬車に雷でも落ちないかな……)
恐らく今駆け抜けている森を抜ければ、大きな
きっとそこに着いた瞬間、私の人生も尊厳も幕引きを迎えるも同然。その時だった。
* * *
「わっ!? なんだ! ま、眩しい!?」
突然自分の視界が白い光で覆いつくされるような状態に陥った。その時はまだ何が起きたのか分からなかったが、その後すぐに今度は落雷の音と共に体がふわりと宙を浮くような感覚がした。
その時、確かに聞こえたのは馬車の先頭に括り付けられた馬のいななき。
そうして体を荷馬車の床に激しく打ち付けられたと思えば、今度はそれが何度も何度も体中に痛みを感じた。
「ん……」
全身が痛かった。
目の前にはさっきまで私たちを見て大笑いしていた野党たちが倒れ込んでいた。三人の内、二人は恐らく即死みたいだけど、一人だけ血はそこまで流れていないのを見るに多分、息はまだあるんだろう……
だけどそれ以上に、私を含む5人の子供の内、3人が体をひどく叩きつけられてしまったみたいで私ともう一人の捨て子と思われる二人以外は死んでしまった。
そうして目の前にはボロボロに崩れた荷馬車と……そびえたつ高い岩壁。
その時ようやく理解した。私達は荷馬車ごと雷に打たれ、挙句の果てに崖下へ落下してしまったらしい。
「う……痛っ」
しかも打ち所が悪かったのか、私自身もまた怪我をしてしまったらしい。さっきから右足の感覚が全くない。
「あ~あ……最悪。ここで終わりか。私の人生」
きっとこの後あそこで気絶している野党は生き残っている人を連れ
* * *
「ふふふ……はっはっは! はっはっはっはっは!! おい、そこの女!」
「え……? 誰?」
周囲には野党と女の子しか以内にも関わらず、甲高い男の笑い声が聞こえてきた。
「誰……だと? 随分と図が高いな。ただの人間風情が」
もうこれ以上変なトラブルは御免だというのに、突然現れた声の主は何もない所から突然現れた。
その姿は下半身がたくましく屈強な牛の体で、上半身は普通の男の体つきそのものだった。
それでいて背中にはこいつの背丈を遥かに凌駕するほど大きい、両刃の大斧を背負っていた。
確か昔本で読んだことがある。名前は確か……
「我をこの森林のダンジョン主、『ミホノ』様だと分かっての発言か? 小娘」
そうだ。思い出した。ミノタウロスだ。というか今、ダンジョンって言った? ダンジョンって一体……
「……ねぇ。この辺りダンジョンなんて見当たらなかったですけど、何でダンジョンから離れてるんですか?」
「くっ……さっきからふざけた態度を取りおって……ふん。生憎だがここら一体は我が支配する庭。つまり私有地だ」
「私有地……」
「そうだ。だから私有地に不法にも入って来た輩を、わが力を持って粛清するところだ」
そう言うとミホノは背中にしょっていた大斧を手に取り、気絶している男たちへ向けた。
「ひぃぃ!!!! おいっ! お前ら俺たちが助かるための盾になりやがれ!」
野党たちは、咄嗟に命乞いにするわけでもなく、この期に及んで尚、生き残ろうと私や他の子たちに盾になるように訴え始めた。
「……」
それを聞いた子は何も言葉を発さず、ミノタウロスの前に立ち尽くした。
「……っ! だったら! 私が生贄になってやるからこいつらは見逃して!」
私は今の自分に出来る最善手段を考えた結果、気づけばそう口走っていた。
何も野党の連中を助けたいなんていう血迷った理由なんかじゃない。
ただ私はこいつらの金になるぐらいなら、ここで骨を埋めた方がマシだと思ったからだ。それに……
「……はっはっは! こいつは面白い! 良いだろう! その話乗った!」
私の提案が奇想天外なものだったからか、ミノタウロスは嘲笑うように陽気に語りだす。
「そういう事なら話は早い。おい、お前。明日にはもう無い命だが、名を聞いてやる」
「……エリシア」
「エリシアか……悪くない名だ。ついてこい」
そうして奴が来るように促した時、一瞬だが雷の光によって奴の背後にそびえ立つダンジョンの姿を目にする。
「ここが私の墓場か……そうだ」
ミノタウロスの元に行く前に私は、最期にやっておきたい事をしようと、唯一生き残った子の元に駆け寄って手を握った。
「いい? 多分あなたはこれから酷い奴の元に売り払われるかもしれないけど……どうかあなただけは生きて……」
私の人生はここでおしまいだけど、少なくともこの子はまだ生きていられる可能性はある。生きようとする意志があるのならだけど……
だからこそ私の分の人生まで、この子に託して私は全てを諦めよう……
「……」
果たして私からの声は聴いてくれているのか分からないけれど、少なくとも言葉は届いているはずだ。だからどうか強く生きてほしい……
* * *
自称ダンジョン主であるミホノの大きな手でむりやり引っ張られながら、私はこいつのホームでもあるダンジョンの頂上に連れてこられた。
「さてと……これからはお前は我の贄となったわけだが……どんな気分だ? ん?」
「別に……何とも。というか贄って言った所で、いずれ食うんでしょ? さっさと食べたら?」
「はぁ……なんだか冷静な奴でつまらんな……まぁ、明日にでもお前を食って他の奴を狙うか……」
「……」
そして夜になり、私は小さく狭い牢屋に閉じ込められた。
「骸骨……」
しかもこの牢屋に入れられたのは私だけじゃなかったみたいだ。既に皮も剥がれ、骨だけなったその骸骨たちは服もボロボロ。
きっとここで飢え死にしてしまったんだろう……
「だけど明日になれば、私は奴の胃の中に……」
もう自分がろくな死に方を選べないのは受け入れている……けど、せめて死に際にあいつに痛い目を見してやりたい……
「……っ! これってナイフ?」
この牢屋を見渡していると、骸骨となった一人の衣服のポケットには小さな果物ナイフが入っていた。
「食べられる寸前に口の中に刺せば一矢報いれるかもしれない……」
流石にこんな小さな一本のナイフで倒せるほど、私は戦闘に慣れていない。むしろただの何も出来ない子供だ。
だからこそ死に伏せるその瞬間まで抵抗してやりたい。
そこでふと鉄格子の外から差し込む淡い月光を眺めながら、私は一つ決意を固める。
「死ぬ前に必ずこのナイフであいつに痛い目を合わせてやる……」
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