第19話 お断り

「シヘタくん、さっきは悪かったね。それで何の用?」

「ふん。あの子がオマエの仲間になりたいってさ」


 ピッと手を挙げるリネルに対し、勇者は苦笑いした。


「んー、イヤかな。魔法使いの末裔ではあるみたいだけどね。第一印象でムリ」


 リネルは手を挙げたまま固まっている。

 そんな理由で断るのか。

 仲間になりたい理由くらい、聞いてやりゃいいのに。


「じゃあ決闘をしよう。参ったと言った方の負けだ。勇者、アナタに勝ったらイヤでもやってもらう」

「いいけど。無理強いされんのキライだし、キミの命を賭けてもらうぞ?」

「ではこちらも。アナタがリネルに力を分けた後、トドメを刺す」

「おっ、言うねえ。それならキミが負けたらそこの二人も殺す」

「ならばアナタの次は、そこの三人も殺す」

「目上の相手に対して失礼なヤツだなー。まあいい、こちらはキミの命までにしとくよ」

「意気地のないヤツだ……。こちらは条件を変えない」

「……だってさ、シヘタくんたち。負けたらすまん」


 勇者の怠そうなジト目がこちらを向く。

 くだらねー問答の挙句、オレらに謝るくらいなら、アイツを仲間にすりゃいいのに。

 この連中もそうだ、オレが勇者を呼んだっての忘れて条件決めてやがる。

 ピッ、と誰かから服の裾を引っ張られる。

 見ると、セラートが怯えた顔をしていた。


「あのパダスって人、血のにおいがする。私たち、本当に殺されるっ」

「んん……勇者なら負けても死なないだろうし、最悪オレらを逃がしてくれるさ。な、勇者!」


 勇者は苦笑いしながら頷く。

 でも、念のために槍が欲しい。

 そこそこ大きい木でもあれば、幹か枝先を短剣で尖らせて槍にできるのにな。

 木なんてのはこの場じゃあ、小さな庭木が並んでるだけだ。

 


「じゃ、キミから一発攻撃を当てるのが開始合図な。さあ、どこからでもきたまえ」


 勇者はパダスの方を向き、両腕を上げた。

 出た、コイツは首に下げてるお守りみてーな魔宝具の力で、一時間ちょいに一度だけ攻撃を跳ね返す。

 それで倒す気らしい。


「では」


 パダスは構えたまま勇者に近付き──目にも止まらぬ速さで何度も斬り付ける。

 一瞬、パダスの頬が裂けるが……勇者は全く身動きを取れない様子だ。

 勇者のヤツ、決闘を受けたくせに何だよ、このやる気のなさは。

 ……! パダスの剣が勇者の指先で止まり、勇者の拳がパダスの顔面を高速で殴り付けまくる。

 サングラスが粉々になって散り、血がペシペシと床に当たる。

 そうそう、そんな感じで行け。


「パダスくんは剣士の血筋? これで頭が弾け飛ばないなんて。オレの力を与えてないのにすごいね」


 パシッと、勇者の拳が止められ──ドテッと、剣を止めていた勇者の指が落ちる。


「アンタ、その程度か。所詮は勇者の血を継いだだけのザコだな」

「装備差で調子に乗られてもね」


 い!? 落ちた勇者の指が……紫色のギザギザしたぶっとい肉の蔦へと変わり──一瞬でパダスの体に巻き付き、ギュンと引き裂いてから勇者の指へと戻った。

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