第4話 勇者の仲間
とりあえず暖房点けよう……。
ピッ。
テーブルにリモコンを戻し、椅子にもたれ掛かりボーっとマイルームを見渡す。
ここは元々、上階への階段が続く何もない子部屋だった。
親父曰く、家具を置いたのは祖父の代からで、代々ここに一人で住み黙々と鍛えてたそうだ。
でも親父はもういない。
強くなろうとするだけの人生に、何の意味があったんだか。
セラートが肌着を身に付けて戻ってきた。
オレの方には見向きもせず、フヨフヨと飛ぶ妖精を目で追っている……ッ。
「そっかー。そんな経緯であの場にいた訳なんだ」
「あの二人がああなったのは、私のせい。私が仲間たちと一緒に死んでいれば。どの道私は、残酷な運命からは抜け出せないのに……」
「そう言わずに。ボクはその二人がキミに掛けた言葉を、信じてみるべきだと思うな」
なんか既に仲良く喋ってるし。
妖精は本当に、オレにとって邪魔なだけの存在だ……。
「今ならあそこに座ってる心強い仲間もいるし、希望を持って生きよう。なっ、シヘタ?」
妖精は定位置に戻ってくるなり、友達ぶったことを言ってきやがる。
今まで嫌味ばかりだったくせに、コイツはセラートの前でいい格好でもしてえのか?
「おやおや、嫉妬かい? シヘタ。キミが一緒にお風呂へ行かなかったせいだよ」
「ウゼェ……」
「いやはや、キレイな体だったなあ。ああやって競に出されてたのも納得だよ」
足をプラプラと揺らし、細めた目をセラートへ向ける姿は過去最高に不愉快だ。
殴れないのが残念で仕方ない。
フッ!? な、なんだ? セラートがオレの向かいに立ち、ジッと目を合わせてきた。
「ど、どした?」
「シヘタさんは、どうしてあんなに強いんですか? 私も強くなりたいんです、教えてください」
敬語使われてるし……まあいい。
「オレは勇者から役目と力を分け与えられてる。力つっても、レベルってのがあってな。決まった武器持って鍛えればそのレベルってのが上がって、他のやつらが鍛えるよりも、格段に体が丈夫になる。剣士なら剣持って鍛えれば、切れ味とかが増す」
「役目……ですか?」
「ああ、そこ? オレの場合は勇者と同じ故郷っつー縁があって、代々この町の治安を守り続けてきた警備兵という役目をやってる。勇者から金や力を分けてもらってるが、役目に関しちゃ警察っつー組織が町を守ってるし、オレはただこの古城から外を眺めるか、ここでダラダラしてっか、今回みたく暇潰しに出掛けるかのどれかだよ」
セラートは重そうに瞬きをすると、顔を背けて「カフッ」と欠伸をした。
普通、ふああとかそんな感じのはずだ。
かわいい……獣人はこうなのか?
「失礼しました」と、セラートはこちらを向く。
「いいよ、全然失礼でもないし」
「そうですか。私も勇者さんから役目と力をもらってシヘタさんのように強くなり、いつか……私のいた養殖場の獣人たちだけでも助けて、みんなと共に過ごしたいです」
「そかそか。ぜひ協力してやりたいが、オレや妖精と一緒にいた方がいいんじゃねーの?」
「……そうでしょうか」
合わさっていた目線が逸れる。
オレのように強くなるってのは凡人にゃムリがあるし、勇者が力を分け与えるとしても、強くなるまでに時間が掛かり過ぎる。
諦めさせたいが。
セラートの好きに生きる可能性を潰すみてーで、どうも直接言い出しずれェ。
「人生ってのは長えんだ。オレだって、まだどう過ごすかなんてのはその場その場でしか決めてねえんだし……使命みてーに夢を抱えなくてもよくねーか?」
……妖精がニッコニコで飛び上がり、難しい顔をしているセラートの肩へと移った。
コイツ、普段はオレの肩から微動だにしないくせ、今日だけはマジで機嫌よさそうに動き回る。
「急がないと、セラートの兄弟姉妹がどんどん殺されちゃうよ?」
「セラート。寝ながらでも考え直しといてくれよ。ベッドはあそこに一つしかないから、オレの使いな」
ペコリと頭を下げたセラートは、オレの指差したベッドの方へと向かい、グエッと突然に唾液を床へ吐き落とす。
「お、おい大丈夫か?」
「……はい」
セラートは、鼻を摘みながら振り向いた。
あ……え? ベッドが臭かったってことなのか?
ウソだろ……。
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