幼なじみのクール美少女が澄まし顔で独占欲むき出しヤンデレ束縛してくる

ペン舐め

第1話 告白ブロック

 朝の光がまだ柔らかな教室。

 窓際の席に座る僕、本田悠人は、今日もマイペースに過ごそうと努めていた。まだ入学して数カ月しか経ってないけど、クラスでの過ごし方はもう分かっている。

 目立つのは苦手だし、騒がしい輪の中に入るタイプでもない。ノートを開いて、ぼんやりと昨日出された数学の宿題を見返している。


 その横には、長谷川蘭が座っていた。


 長い黒髪がきれいで、モデルみたいに整った顔立ち。クールな雰囲気で勉強も運動も上位クラス。

 学校中で「あの子、何でもできるよね」「素敵だよね」と話題に上る蘭は、僕の幼馴染だ。昔は近所でよく遊んだし、登下校も自然に一緒だった。


 ただ最近、何というか、彼女の態度が微妙に変わった気がする。


「おはよう、悠人」


 クールな口調。特に棘も優しさもない、いつもの平坦な声。


「お、おはよう、蘭。早いな今日も」

「普通よ。あなたが少し遅くなっただけじゃないの?」

「そ、そうかな」


 うまく言えないけど、妙に僕の動向を見張っている気がする。

 気のせいかもしれない。けど……僕が顔を上げると、蘭の瞳はじっとこちらを観察するように見つめている。なんだか、自分が観賞用のサボテンにでもなったみたいだ。



 そんな中、前の席の小川さんが「おはよう、本田くん」と微笑む。小川さんは控えめで優しい印象のクラスメイトで、最近少しずつ話す機会が増えていた。


「おはよう、小川さん」


 僕が返すと、なぜか隣の蘭がさりげなくこちらに寄ってきた。

 ……ん? いつもより距離が近いんですけど。髪からいい香りがするな、なんてぼんやり思っていると、蘭は何気ない声色で言った。


「悠人、放課後は一緒に帰るでしょ?」

「え? 別にいいけど、なんでわざわざ確認するんだ?」

「あなたが余計な用事を思いつく前に釘を刺しておきたいの」

「余計な用事って……特にないけどさ」


 なんだこの念入りさは。戸惑う。

 蘭は普段からクールだけど、やっぱりなんか妙だ。僕が誰かと話すたびに割り込んでくるような……いや、考えすぎか?



 ホームルームが始まり、先生が諸連絡を行う。いつもの退屈な朝の風景。


 でも、なんだか背中に蘭の視線を感じる。隣にいるのに背中って変だけど、とにかく蘭が僕を隅々まで観察しているような気がする。冗談じゃない、僕はスパイでも容疑者でもないんだぞ。


 休み時間、小川さんがまた声をかけてくれる。


「ねえ、本田くん、今度のテスト範囲、わかる?」


 生物か。生物は確か……。


「確かここからここまでだよ」


 すると、蘭がそっと割り込んできて、


「小川さん、その範囲なら私がまとめたノートを貸すから、わざわざ悠人に聞かなくてもいいわ」


 と冷静な声で告げた。

 小川さんは気まずそうに「あ、ううん、いいの、ありがとう…」と後退りしてしまう。

 どうしたんだ急に。


「……蘭、何か気になることでもある?」

「別に。私はただ、あなたの手間を省いただけ」

「そ、そうなんだ」


 本人がそう言うならそうなんだろう。

 うん。


 午後の授業を終え、放課後になった。


「じゃあ、行きましょうか」


 と当然のように僕を誘導する欄。


「あ…ちょっと待って、用があるかも…」

「用事があるの? 誰と?」


 その問いに、なぜか背筋がピンとなる。怖いわけじゃないが、この視線と声の調子は、「ないです」と答える以外の選択肢を消し去る力がある。


「い、いや、ない…」

「なら帰りましょう」


 教室を出ていく蘭。僕も慌てて後を追う。

 まあ用事といっても図書室に本を返却するだけなので、明日でいいか。


 下校途中、二人でコンビニに寄る。


「あなたのお気に入りのグミ、新しい味が出たわよ?」なんて尋ねてくる。僕は

「知ってるの? あの固いグミ?」


 と驚くと、彼女は当然という顔だ。


「悠人が前に好きって言ってたから、商品チェックしてるの」


 そんなことまでしてくれてるの?


「早くいきましょ」

「う、うん……」


 家に着く直前、蘭が足を止める。


「明日もちゃんと一緒に登校するわ。朝、あなたの家の前で待っているから。」

「ま、待つって、中学まではそんなことしなかったじゃん」


 偶然会ったらもちろん一緒に登校してたけど……。


「どうせ学校で会うんだから、最初から合流した方が効率的でしょ」


 こ、効率的? そうなのか?

 疑問に思うが、蘭が真顔のままクールに断言すると突っ込みづらい。


 僕と蘭は昔からずっとこうだ。

 蘭が強烈にリードして、僕はついていくだけだった。


 慣れてるし、蘭はかわいいから悪い気はしないけど、ちょっと落ち着かない。

 中学までは地元の知り合いが多かったからこんなでもなんも言われなかったけど、高校ではそうはいかない。クラスメイトたちが「長谷川さん、本田くんにべったりじゃん」とヒソヒソしているのを聞いてしまったこともある。蘭はまったく気にしてなさそうだけど。


 いったい僕の高校生活はどうなってしまうんだろう……。



 次の朝、僕は普通より少し早めに家を出た。

 理由は単純。蘭が家の前で待っていると言ったから、ほんの5分早く出れば不意打ちできるかなと思ったのだ。


 しかし、開けてみると、そこにはすでに蘭が立っていた。朝日を浴びた彼女の黒髪が揺れている。


 彼女は「おはよう」とだけ短く告げ、落ち着いた様子で歩き出す。

 僕は慌ててついていく。


 学校に着くと、まだホームルーム前で人もまばら。そんな中、小川さんが近づいてくる。


「本田くん、その、放課後少し話せる?」

「え、放課後……? 別にいいけど」


 そう答えかけた瞬間、隣の蘭が口を挟む。


「悠人、今日も一緒に帰るわよね」

「え、いや、昨日はそうだったけど、今日は……」

「同じこと。余計な予定は後回しでいいわ」


 小川さんは困惑して目を伏せる。何か真剣な用がありそうな態度なのに、蘭はあっさり遮る。


「ちょっとくらいいいじゃないか」


 僕がそう言うと、蘭は冷静な声で応じる。


「ここで言えば?」

「教室じゃ言えない話なんじゃないの」

「それってどんな話? 言えないなら、無理して言わなくていいわ」


 周囲が「どうしたの?」と視線を向け始める。その中で、小川さんは「また今度……」と小さくつぶやいて席に戻った。

 僕は腑に落ちない気持ちで蘭を見る。


「蘭、今のはさすがに……」

「何か問題?」

「小川さん、何か大事な話みたいだっただろ?」

「大事な話? あなたに告白しようとしてたんでしょ。わざわざ耳を傾ける必要あるの?」

「こ、告白……いや、そんなことって」

「確証はないけど、可能性は高いわ。あなたは断りにくい性格なんだから、面倒なことは最初から止めたほうがいい」


 淡々と言われると、反論しづらい。確かに僕は断るのが苦手だが、だからといって話を聞く前にシャットアウトするなんて、あんまりじゃないか。




 昼休み、弁当を食べながらチラリと周囲を見渡すと、小川さんは遠巻きに僕らを見ては目を逸らしている。あれではもう近づきたくても近づけないだろう。

「蘭、何か言い過ぎじゃなかったか?」

「あなたが余計な悩みを抱えないために最善の選択をしただけ」

「最善って……もし本当に告白だったら、ちゃんと断るべきじゃないの?」

「聞かなければ存在しなかったことと同じでしょう。あなたが悩む必要はないわ」


 彼女の声は穏やかで揺るぎない。悪意はない、と思いたいがやっぱり引っかかる。


 午後の授業中、ノートを取りながら考えてみる。蘭はどうしてこんなことをするのだろう。まるで他の女子が近づくのを防いでいるように見える。それこそ嫉妬してるみたいに。


 ……嫉妬? まさか。

 自分で言ってバカらしくなった。僕は昔から蘭を知っているが、彼女は恋愛に興味がない。

 妙な態度はたぶん、そう、頭痛なんだろう。頭痛で虫の居所が悪かったんだ。

 そうに違いない。


 そのまま今日も学校が終わった。


 下校途中、蘭はほとんど話さなかった。普段はもうちょっと雑談したりするのに。蘭の表情はいつも以上にクールだった。


 バスを降りて、住宅街につく。「じゃあまた明日」と挨拶をしようとした時、コンビニ前で蘭が小さく囁くように言った。


「あなたには、私がいれば十分」

「え?」

「何でもないわ。早く帰りましょう」


 聞き返す前に、蘭は自分の家に入っていった。


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2024年12月21日 19:07

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