ツヴァイと楽長

「あのう」

「はい、お疲れ様です。どうかされましたか?」

「はあ。ええと、楽長さん。あたしらが普段、作業のために使ってる衣装部屋の扉に、誰か施錠しちゃったみたいなんだけど、鍵がどうしても見つからなくって。こんなの楽長さんに相談しても困らせちゃうだけだとは思うんだけど、座長は弟の照明くんと買い出しにでかけちゃってるし、喫茶室長さんもいないし。いま、ここの劇場で長のつく方って、楽長さんしかいなくて」

「なるほど、わかりました。お針子の皆さんが衣装部屋に入ることができないのは大変ですね」

「そうなんですー……今日の午後に使う衣装も繕いかけで、部屋に置いちゃってるし……」

「ではひとつ、試してみましょう。衣装部屋はこちらですね?」

「あ、はい。そこの並びの、奥から二番目の部屋です」

「ふむ。……確かに扉が開きませんね。しかし……ドアノブも回らないのは妙だな」

「え?」

「いえ、なんでもありません。ちょうどバイオリンを持ち歩いていてよかった。お忙しいところ恐縮ですが、一曲お付き合い頂けますか?」

「バイオリン? え、それは構わないけど、楽長の生演奏を独り占めできちゃうなんて、贅沢な話ねえ」

「そうおっしゃって頂けると、なおのこと腕が鳴ります。では」


「素敵! 思わず体が踊りだしそうなワルツだったわ」

「ご清聴に感謝します。さあ、衣装部屋へどうぞ。繕いものは間に合いそうですか?」

「あっ、いけない。つい夢中になって仕事を忘れてたわ。そうそう、部屋の中の、あそこの椅子にかけてた……あった! このマントのタッセルを付け直さなきゃなのよ」

「あなたの腕の見せ所ですね、健闘を祈ります。では、こちらはこれで。鍵はおそらく制作君が合鍵を作るために持ち出していたと思うので、じきに戻ってくると思いますよ」

「ええ、ありがとう! ……あら? なんで鍵がないのにドアが開いたのかしら。しかも、内側から勝手に開いたような……もしかして……遂にこの劇場にも……実装されちゃったのかしら、自動ドア……!」

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