世界を愛せない魔法少女 ~訳あり女神様~
鴨川弥乃莉
プロローグ
21xx年、トウキョウ。その一角に位置し、全国でも最たる世界都市、シンジュク。
ネオンライトが飛び交い、様々な人々が交流し、会話し、生活を送る。
機械のテクノロジーは今よりもっと発達し、AI技術が飛躍的に進化したことで今まで解明不可能とされていた定理、歴史の文書、社会情勢までも解決することができるようになった。
そして、某年に発表されたある条約と世界会議によって世界中の内紛を治めることが取り決められ、数十年の混乱を経てようやく世界は平和となった。
このシンジュクの街も程よい自然の外観と近未来的な建物が共存し、だいぶ治安も良くなった。
喫茶店でケーキをほおばる人がいる。上司の悪態をつきながらも、家族のために働く人がいる。友達と遊園地に行って、キラキラした青春を謳歌する若者がいる。
みんなが世界中で幸せを享受できるという平凡でありふれた、当たり前の世界。
その平和が、仇となったのだ。
突如としてトウキョウのある湾に姿を現した、黒い影。漁船たちが見たそれは。
「悪魔」だった。
まさに異形。目玉が体中についたものもあれば、火を噴く竜のようなものもあり、馬鹿みたいにでかい口から酸を吐くものもあった。
際限なく湧き出る悪魔たちは圧倒的な身体能力と驚異的な能力の数々で街全体を飲み込み、人々を喰らい尽くし、帰るべき故郷を燃やし、抗った者たちの努力も虚しく、皆に死への片道切符を持たせた。侵攻は恐るべき速度で進み、悪魔たちの進路はトウキョウ全土、日本全国、やがて世界へとその魔の手を広げていった。
もちろん、このシンジュクも例外ではなく、重役の住まいや由緒ある建造物などもみんな焼かれてしまった。
これがあと100年前だったら少しはましだった。なにせ、世界中で平和が約束された現代では世界中には武器と呼べるようなものはほとんど存在しておらず、日本の自衛隊も規模を縮小していた。
簡単に言えば、抗う術など残されていなかったのだ。虫けらのように蹂躙され、弄ばれるしかなかった。
人々は絶望した。
そして、多くの人々がこの世界の行く末を想像した。
――このままでは街は消え、廃墟と化した各地に孤児があふれ、混乱に乗じた戦争が多発し、多くの人命が失われる。そして、近いうちに人類は滅亡するに違いない。――と。
世界中で毎日のように放送されるニュース。どこそこで何人人が死んだ、負傷者は数えきれない、行方不明者も数えきれない。精神を乱して自殺行為に走るものも少なくなかった。
初めて悪魔が現れた日から3年が経つと、AIは無機質な声でつぶやいた。
『世界の人口のおよそ5分の2が失われたと予測されます』
これがあと何年続くのだろうか?答えは誰にもわからなかった。それらのAIに聞いてもわかりませんとしか答えなかった。その代わり、これがあと15、6年も続けば人類は滅亡しますと言った。
AIなどに聞かなくても、すべての人がそうだと思っていた。広い土地を所有しているトップ5ほどの国に臨時に設置された大きなシェルターで、震えて過ごすしかないこの状況で救われる未来を想像できるほうがおかしい。
――「彼女ら」が、現れなければ。
最初に「それ」を見た時の者の発言は、この混沌とした時世に気が狂ったかとしか思われなかった。
『本当なんだ、コスプレみたいな格好した中学生くらいの女の子が、あの化け物たちを一瞬で塵にしたんだ!』
証拠写真を撮ってきてやると意気込んでいったその男は、後日1葉の写真を自身のブログに掲載した。
〈名前を教えて下さりました、春風やよいさんという方らしいです〉
画面には、紫がかった黒髪をストレートに垂らした少女が、フリルのたくさんついたブラックがベースののネグリジェワンピースを着て写っていた。細い指には毒々しいまでの紅い宝石のはまったステッキを握っており、首の周りに目の赤い、白い蛇が巻き付いていた。
嘘か本当かわからないような投稿だったが、瞬く間にその画像は世界中に広まった。コスプレ少女だろうが何だろうが、世界を救ってくれるなら何でもよかったのだ。少しの希望でも見られるなら、それにかけてみたかった。
その数週間後に、違う人が似たような服装をした少女の姿を投稿した。次第にそのような投稿は増え、悪魔を倒す動画さえも投稿されるようになった。
この6人が、その少女投稿の中で最も名前が挙がった者たちだった。
そして彼女らが「女神様」と崇められ、後の「魔法少女」となる6人だった。
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