第5話 未知あるいは既知との遭遇

寮の前に着くと叶美が紅葉ちゃんとかおりちゃんを見送っているところだった。


「あれ? どうしたの?」

「ちょっと忘れ物しちゃって」

「わたしの部屋?」

「ううん、須川さんとこ」


叶美と短い会話を交わしながら玄関で靴を脱いでスリッパを履く。さっきまで取材していた須川さんの部屋へ進みノックをして返事を待つ。


「……どうかしましたか、西先輩」


不思議そうに目を細める須川さんに財布を忘れた旨を伝えると、部屋に通してくれた。おそらく備え付けの勉強机に置いてあるはず。そう思いながら須川さんに着いていくと、


「あぁ、あれで――――」


彼女が急に足を止めるものだからぶつかってしまった。あぅ、トート落としちゃった。


「……先輩? それって……」


須川さんの視線の先には――――私のトートから飛び出した、さっきエヴァちゃんに貰ったアンソロジーがあった。これは、どうしたらいいのだろうか。


「ええと、読む? マンガなんだけど」

「……え? あ、では、はい」


読むの!? さっきの取材でうかつに百合の話をしたのがマズかったかな。アンソロにめっちゃ百合の花描かれてるしタイトルにも百合ってついてるし。取り敢えずベッドに腰掛けて読み始めた彼女を横目に財布を回収した私も取り敢えずアンソロを読むことにした。五分ほどの時間が経っただろうか。なんだか、そう厚くない本なのに濃密な時間を過ごした気がする。


「……いい本ですね。高い画力と活き活きとしたコマ割り。マンガのことはあまり詳しくないですけど、作者の好きって気持ちが伝わってくるようです。もっとも、ストーリーはよく分かりませんでしたが」


概ね同意。絵は可愛いしコマ割りも突然四コマになったり一ページが一コマになったりと読者を翻弄する活き活きとしたものなんだけれど……全編通して女の子同士のキスが繰り広げられているだけに見える。ていうかこれ、ストーリー漫画じゃなくてルポ? 百合メイド喫茶って……噂くらいは聞いたことあるんだよなぁ。ていうかこれを涼しげな顔を保ったまま読めるってスゴいな須川さん。


「……これ、頂いてもいいですか?」

「へ!? あ、うん。どうぞ」


よほど気に入ったのかな……。ちょっと前まで百合を知らなかった彼女が? 目新しい物好きとか? というか、ゆっくりしてる場合じゃなかったや。


「私、部活に戻らなきゃだから帰るね。忘れ物ももうないね、じゃあね須川さん」


ばたばたと慌ただしく部屋を去る私を、須川さんは見送ってくれた。

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