第8話 長〜い道のり
ヘルメスがあんなに動揺してるのは、初めて見た。何があったんだ?
この数週間で、ヘルメスから教えてもらった、魔力探知でも特に何も感じないけどな...
「・・・あの、旅のお方?少しいいですかな?」
「ん?どうしました?」
「信じてもらえないかも、しれませんが...私たち、ヘルメス殿が山に向かってから...」
『一切、街に近付けていないです...』
「え?ほ、本当ですか?」
「はい...私も、一人の行商人ですから、なんとなく、道の距離が分かるんですよ...」
「なるほどな。マレン、カヤ、武器を構えろ。テルさんは、馬車の中に。」
「アルベル、カヤ、魔物の気配も、人の気配もしないよ...」
魔力探知でも、近くに生物はいない。マレンの優れた察知能力でも、気配を感じない...
じゃあ、なんで街に行けないんだ...
「カヤ、焦りすぎるなよ。
騎士の時聞いたことがある。こういう、歩いても歩いても、位置が変わらないって言う現象を。」
「なんか分かるのか?」
「すまんが分からん。でも、自然現象な訳わけは無い。確実に、生物による攻撃だ。」
「そうねー。でも、あんまり考えすぎると、疲れちゃわないー?」
「「「誰だ!?」」」
聞き覚えのない声が聞こえた方向に、各々武器を向ける。
すると、そこには気だるげに座っている紫色の長い髪をした女性がいた。
「あなた達、そこそこ強いねー。私、強い人と戦いたくないんだよねー。
だって、めんどくさいからー」
「お前は誰だ?何が目的だ。」
「ふたつも答えないといけないのー?
じゃあ、ゆっくりでも許してねー。
私はー、ベフェルだよー」
「ベフェル...お前、騎士団になにかしたことあるか?」
「質問増えたよー、めんどくさー。
騎士団の人達にはー、色んなことされたよー。
だから、やり返したー」
ベフェルは、地面に寝っ転がった。
な、なんなんだこいつ...
「私ねー。私のこの、赤い目嫌いなのー。
だって、怖くないー?
あと、胸も嫌いー。超重いー」
「ベフェルさん...その、あんまり地べたに寝っ転がるのは...その、良くないよ?」
「かわいい子いるー。魚人かー、地上で生きるのめんどくさいよねー」
ベフェルは一切攻撃してくる気配がない。
ただ、地べたで寝ているだけなのだから。
「もし、私を殺したいならさー。
苦しめずに殺してー。痛いの嫌だからー」
「キミさぁ、馬鹿なのかな?ボクは、こいつらを殺せと言ったはずだよねぇ?」
「「っ!?」」
華夜の後ろに人がいることに、気が付く。
振り向くと、聖職者のような格好をした銀髪の男が立っていた。
銀髪の男は、俺の姿を見ると、大きくため息をついた。
「はぁ〜。キミ、生きてたんだね...死ねばよかったのに。」
「は、はあ?俺はお前と会った記憶がないんだが...」
「じゃあ、キミは初対面の相手に敬語も使えない、クソみたいな人間ってことか。
じゃあ、自己紹介してやるよ。
ボクは、傲慢の大罪人シルファ・メグレズ。
で、そっちの怠けのもは、見ての通り怠惰の大罪人。」
「あー、勝手に言わないでよー。
隠しとけば、バレなかったかもなのにー」
こ、こいつら大罪人なのか!?
つまり、レヴィアくらい強い奴が二人も!?
ど、どうする...一人ならまだしも二人なんて、勝てるわけない...
(ダメだ...カヤが完全に、焦ってやがる...)
「ねえ、ボク自己紹介したよね?キミは?」
「え、あ...俺は、華夜...です。」
「はぁ、キミは言われたことしかできない、馬鹿野郎だね。ま、そこの女は言われたことすら、出来ないんだけど」
ふと、ベフェルの方を見ると、立ち上がってシルファのことを見つめていた。
「あのさー、あんたは言われたこと終わったのー?それに私は、あんたの下僕じゃないんだよー」
「キミ、ボクを侮辱してるのか?良くないよねぇ、人を下に見るのは。」
シルファがベフェルの元に歩き始めた。
な、なんか勝手に喧嘩し始めたぞ...
そういや、なんでヘルメスは、山に?
この二人が来るのが分かったから、逃げた?
いや、それはないな。ヘルメスの強さなら、二人相手でも引けを取らないと思うし...
そう考えていると、アルベルとマレンが静かに近寄ってきた。
「なあ、カヤ...」
アルベルは、この状況を打開する策を俺とマレンに話した。
少し無茶な作戦ではあるが、成功しないとも言いきれない。無事にここから逃げられるのが最優先だ。
「それじゃあ、行くぞ!」
「うん!」
作戦をめっちゃ簡単にまとめると、アルベルが囮になる。というものだ。
アルベルの見立てによると、シルファは、レヴィア程、異次元なパワーは持ってなさそう。
そして、ベフェルはこちらに攻撃してくる素振りを見せない。
だから、シルファに全力を出せる。
って、感じらしい。
「なんだい?・・・その目嫌いだなぁ、ボクに喧嘩売ってるよね?」
「ああ、俺はお前のような、傲慢な奴が気に食わないんでな。」
「奇遇だねぇ...ボクもキミみたいな、男の癖に女の格好したやつ、大嫌いだよ!!」
アルベルとシルファが戦いを始めた。
アルベルが剣なのに対して、シルファは素手。
以前までのアルベルなら、素手の相手をどう対処すればいいのか、少し戸惑っていただろう。
でも、数週間、素手のヘルメスと戦い続けたんだ。今なら、行けるだろ!
「マレン、テルさん、行きますよ!アルベル頼む!!」
「分かった!!」
シルファのことを食い止められても、ベフェルの能力らしきもので、この場から移動できない。でも、それはきっとこれで解決できる!
アルベルが、隙を見てベフェルのことを持ち上げ、街の方向へ投げる。
「おおー。ちょっとは、優しくしてよー」
ベフェルが投げられたと同時に、街の方へ走り出す。予想通り、街の方へ移動が出来ている。
「あー、落ちるー」
地面に落ちそうになったベフェルを、マレンがキャッチする。
マレンが言うに、ベフェルに敵意は感じないそうだ。
大罪人って、一体どんな奴らなんだ?
魔王軍の幹部的なやつではないのかな?
「・・・自分より小さい子に軽々と、持ち上げられてるのはー、ちょっと悲しいー。
早く下ろしてー」
マレンがベフェルを下ろした。
よし、やるなら今しかないだろ...
「ベフェルさん...」
「んー?なにー?」
『僕と契約してください』
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