第3話 戦士テミス

 テミスさん用の服などを買い、日も落ちてきたので、全員で夕飯を食べることに。


宿屋の部屋を借りてから、ずっと部屋にこもっているアルベルを連れて、再び外へ出る。


「カヤ、ダークエルフさんとは、仲良くなれたか?」


「ん?まあ、それなりには。」


「そうか...まあ確かに、案外ムズいもんな。」


「なあ、ずっと前から話が噛み合ってないと思うんだけど、アルベルは何の話してんだ?」


「え?そりゃあ、そのダークエルフさんと、エッチなことをしたのかを聞いてるに決まってるだろ。」


 あ〜〜〜。なるほど、なるほど。

つまり、アルベルは、俺がテミスを奴隷として買った理由をそんなふうに思ってるわけだ。

多分、マレンもそれで怒ってるわけだ。


「テミスを買ったのは、戦闘要員が欲しかったからだよ。あと普通に、可哀想だったから!」


「・・・そうだったのか。なら、カヤが大人になるのはもう少しあとって訳だな....」


「なんで悲しそうな反応するんだよ!」


「カヤ、戦闘要因なら私がいるよ?」


「マレンは確かに強いけど、致命的な弱点があるでしょ。

だから、マレンを守るために俺ともう一人欲しかったんだよ。」


 マレンの致命的な弱点。

それは、仰向けになると動けなくなるというもの。

 まあ、ホホジロザメって、ひっくり返ると擬死状態になるらしいしな。

多分それだろ。


「おいおい、俺は戦力外ってか?」


「あんたは、後ろで僧侶してろ。」


 アルベルは正直、万能だ。

騎士の経験あり、ある程度の回復魔法なら使用可能、いくつかの加護の付与可能、

その上、かなりの力持ち。

これ以上にないくらい、色んなことがバランスよくできるからな。

 故に、後ろからサポートしてもらった方がチームとして強いだろ。


「カヤと言ったな、敵だ。戦闘の準備をしろ」


「え?」


 路地裏を歩いていると、突然テミスさんが険しい顔をしてそう言った。

背中の剣を抜いて、構える。

ん?別に何もいない気が...


「んん、凄いですねぇ。わたくしの気配に誰よりも早く気が付いた...羨ましい...妬ましい...」


「なんだ、アイツ...」


 黒髪の黒目、中肉中背。

現代ではすごく一般的な見た目をしている。

 しかし、その瞳から絶えず流れ続けている涙。その涙が男に、異様な雰囲気を与えている。


「そこの人...喉仏があるってことは、男性ですよね?なのに、なぜ女性のような姿を?」


「貴様、私たちに何の用だ。」


「・・・はあ、わたくしの問は聞いてくれないんですね...憎たらしい...」


「答えろ、貴様は誰だ。」


「わたくしは、レヴィア・フェクダです...

嫉妬の大罪人、と言った方が話が早いでしょうか?」


 大罪人...要するに敵ってことでいいんだよな。

詳しくは知らないけど、

俺は大罪人に腕食われたんだ。

 レヴィアは、ゆっくりと背中に背負った、自分と同じ大きさほどの大きな鎌を手に取った。


「わたくしは、あなた達を殺す気はないです...

でも、殺したら、あの子が喜んでくれるんです...だから、わたくしはあなた達を殺します...」


「カヤ、剣を貸してくれ。こいつの相手は私がする。」


「わ、わかりました。」


 剣を受け取ると、テミスはすぐにレヴィアのことを斬りつけた。


「痛いですねぇ...でも、傷が浅すぎる...あなたの傷が羨ましく思うくらいに。」


 目で追えないほどの速さの峰打ちをくらう。

 なんだ今の...どうしてあんなにデカイ鎌をあの速さで...か、体に力が入らない....


「マレン、ダメだ。」


「なんで!!」


「あんな奴、勝てるわけない...アルベル、テミスさんに加護を。」


「わ、分かった。戦いの神よ、彼女に再び戦う力を与えたまえ。」


「カヤ...お前、鬼畜だな。でも、合理的だ...」


「この場にいる者で、そいつに勝てるのは、きっとあなただけですから。」


 よし、体は動く。戦う機会をあいつらがくれたんだ、戦士として...私は戦う。

 地面に転がった剣を拾い上げ、再び構える。

それに合わせて、レヴィアも鎌の刃をテミスに向けた。


「次は斬ります...その覚悟があるなら、来てもいいですよ...」


「殺す覚悟はずっと前からできてる。

死ぬ覚悟は...死んでからしてやるよ!」


「そうですか...その決意に満ちた瞳、とても妬ましいです...」


 全力を出さなきゃ、死ぬ...

出会って一日も経ってないやつを、なんでこんなに守りたいと思ってるんだろうな...

でも、悪い気は一切しねぇな!

 目で追えないなら勘だ。勘で...

いや、勘なんていう頼れないものより、分かりやすいやつがあるじゃねぇか!


 レヴィアが腕に力を入れると同時に、姿勢を低くする。

すると、頭の数センチ上を鎌が通った。


「お前がどんなに強くても、生物は生物。

筋肉が動くその一瞬がある!!」


「その観察力と決断力...本当に、妬ましいひとだ....」


 レヴィアの首を一振で切り落とす。

よし、勝ったぁ!!


「テミスさん、ありがとうございます!」


「敬語なんて使わなくていい。

私はお前の奴隷だからな!」


「っ!?テミスさん!!」


 振り向く間もなく、腹部に激痛が走る。

振り向こうと、首を動かすと自分の脚が見えた。


「・・・へ?」


『実に...実に、妬ましい...羨ましい...憎たらしい...

そう、簡単に言うなら...′′嫉妬′′しています。』

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