第3話 剣聖
すごく...気分がいい。無駄な感情を感じない、何も感じない...こんなには気持ちが晴れ晴れしているのは、いつぶりだろう。
「また貴様か...外道。」
「・・・久しぶりだね、騎士のお兄さん。」
青く輝く髪、白いローブ、堂々とした立ち姿、腰にかけられた剣。
俗に言う、騎士だ。
「その青年を離せ。」
「いやだ。せっかく美味しい人を見つけたんだから。」
「・・・子供は難しいな。とりあえず、白髪のキミ。こちらに。」
スズは急いで騎士の方へと走った。少女が華夜の腕を触りながら言う。
「もっかい聞こうかな。
騎士のお兄さんはどうして、ベルゼのことを怒るの?」
「罪のない者を傷付けるからだ。」
「そっか、前と全く同じだね。」
そう言うと少女は、騎士に向かって走り出した。騎士は、突撃してきた少女の攻撃を剣で防ぎ、反撃をする。
「騎士のお兄さん、やっぱり強いね。
とっても美味しそう!」
「人のことを美味しそうなどど...なぜ人を殺す!」
「殺してないよ。ベルゼがお腹いっぱいになったら、ちゃんとお家に返してあげるから。」
「貴様の飢えが満たされることなど、
ないというのに貴様は....尚更許せん!」
何度も剣を振るうが、その剣身は少女に当たらない。少女の攻撃も騎士に当たることはなかった。
そうして二人が終わる気のしない戦いを続けているうちに、スズはバレないよう静かに華夜の元へ向かった。
「華夜、起きて、起きてよ!」
「スズ...どうしたんだ?」
涙目のスズのことを撫でようとして、自分の手が治っていることに気が付く。
先程までうるさかった鼓動も落ち着いており、手足の震えも消えている。
「おはよう、お兄さん。
またその手、食べていい?」
「させるかぁ!!」
騎士が剣を思い切り振り下ろす。すると少女の腕が地面に転がり落ちた。
「あ...もうやめてよ。痛いの嫌いだから。」
少女はそう言うと、落ちた自分の腕を拾い上げ、飲み込んだ。
その光景を見た騎士とスズは、全身に鳥肌が立った。
数秒後には腕が再生し、少女は騎士の方へと歩き始めた。
「騎士のお兄さん、ベルゼの邪魔、しないで。」
そう言うと少女は、騎士のことを蹴り飛ばした。
咄嗟に剣でガードするも、威力が高く、吹き飛ばされてしまった。
「この村の人達、ずっと隠れてるね。まるで何かを怖がってるみたい。なら...」
『その怖いの、食べてげないと。』
少女は空に手をかざしてそう言った。
すると、村の家から黒色の火のようなものが、少女の手のひらの上に集まってきた。
「うん、すっごく美味しそう。いただきま..」
少女が手の上の黒いものを食べようとした瞬間、森の方から斬撃が飛んでくる。
「背中痛い...こんなに痛いの、初めて...」
「お、お兄様!何故ここに!?」
斬撃が飛んできた方向を見ると、
青髪の白いローブを着た、青いペンダントを付けた、先程の騎士とよく似た容姿の騎士が、剣を鞘に収めながら歩いてきていた。
「任務のついでさ。アルスは休んでいな、剣ももうすぐ限界そうだ。」
「・・・はい、わかりました...」
「お兄さん、誰?」
少女が問うと、騎士は胸に手を置き言った。
「円卓の騎士が一人、
現剣聖 アルマ・グラディウス。
聞こうか、キミは?」
「・・・暴食の大罪人、ベルゼ・アルカイド。」
その名を聞くと、アルマは納得したような顔をした後、ゆっくりと剣を抜いた。
その意図を理解したベルゼは、アルマに向かって飛びかかった。
しかし攻撃は当たらず、アルマの剣がベルゼの腹部を斬り裂いた。
「強いね、剣聖のお兄さん...」
「キミこそ、かなりのスピードだ。」
気が付くとベルゼの腹は元通りに治っていた。
目で追えないほどに、素早い戦いをする二人を華夜たちはただ眺めることしか出来ない。
「華夜、とりあえずあの騎士さんのところ行くよ。」
「あ、ああ。」
急ぎ足でアルスの方へ向かう。
するとアルスさんは、怪我をしているのにも関わらず、二人のことを安全なところまで案内してくれた。
「キミ達はここで待機を。」
「え、あなたは?」
「僕は、少しでも兄の力になれるよう、助力して参ります。」
そういうとアルスは森を抜けて、
再びベルゼとアルマの戦っている所へ走っていった。
何も出来ない無力感を感じながら、倒木の幹に腰をかけていると、森の奥から聞き覚えのある声が聞こえた。
声の聞こえた方向に顔を向ける頃には、既に視界がピンク色に染まっていた。
「良かった、生きてたんですね!」
「ビーナスも無事そうでな...だ、出して....」
ビーナスが謝りながら華夜をより飲み込んでいく。
そして華夜は、前回と同じように頭だけを外に出した状態になってしまった。
「ビーナス、どういうことだ?」
「魔力補充です。ダメですか?」
俺にも魔力はあるってことか...
でも、魔法の使い方なんて知らないし。
なくなってもそこまで困らないだろ。
そんな楽観的な思考の末答える。
「全部取ってもいいよ。好きにしてくれ。」
「全部...後で怒ったりしないでくださいよ。」
「ああ、約束す....」
意識が遠のいていく。体中から力が抜けていくのだけが分かり、やめてもらおうと思った頃には、完全に意識が消えてしまった。
昏睡状態になった華夜をビーナスは、完全に取り込んだ。
「ビーナス、華夜どうなったの?」
「魔力不足で、意識を失ったんです。ひとまず私の中に入っていれば、生きていられますから。安心してください。」
「そ、そう?じゃあ、よろしく。」
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