第1話 モテる男はつらい


なんだ...うぅ、眩しい。


「起き...きて....ねぇ...」


 うるさいなぁ...誰だよ。あ、そうだ。

俺、寝ちゃったんだ....

 ゆっくりと目を開けると、そこには裸の白髪の女の子がいた。


「あ、やっと起きた。ねぇ、ココどこ?」


 突然の出来事に、体が固まる。


「・・・もしかして、白猫?」


 小さな声でそう言うと、女の子は耳と尻尾を動かして頷いた。

し、信じられない...

でも、直感で分かる。この子はあの白猫だ....


「と、とりあえずこれ着てくれ!」


 羽織っていた黒いパーカーを裸の女の子に着せる。ぶかぶかなサイズだが、しっかりと肌が隠れるため、その方が良い。

 女の子はパーカーが気に入ったのか、しばらく匂いを嗅いだ後、嬉しそうに笑った。


「あの...本当に、あの白猫ちゃん?」

「うん!」

「そっか...なんで人型に?」

「知らない!でも、キミと話せるから、すっごく嬉しい!」


 無邪気な笑顔、ネコ耳と尻尾、白い髪の毛...なんか納得行く。でも、出来れば猫のままでいて欲しかったなぁ。

まあでも、こっちも悪くはないよな。

というか、言われた通りここはどこだ?

なんというか、綺麗な場所だな。


「ね、キミの名前知りたい!」

「そういや言ったことなかったか。俺は、春咲華夜はるざき かや

あんまり男らしくない名前だよな...」

「ううん。すっごく良い名前だよ!私は...にゃい。

だから華夜が付けて!」

「わ、分かった。」


 ん〜、シロとかは安直すぎだよな。それに犬っぽいし。

でも、白要素を入れたい...あ、スズラン。

じゃあ...


「決めた。キミの名前はスズだ。」

「スズ...うん、可愛い名前!」


 白い花・スズラン、首輪の鈴。

うん、我ながら良い名前なんじゃないかな。


「華夜、あっちに、にゃんかいるよ。」


 スズの指が指す方向を見ると、

そこには華夜の半分ほどの大きさをした、ピンク色のスライムがいた。

 スライムだよな?ファンタジーの。

え?なんで現実に?

急に襲ってきたりしないよな?

そう思いながら、恐る恐る近づく。


「あの...日本語話せますか?」

「なんで近付いてくるんだよ!?」


 そう叫びながら、近くの森に物凄いスピードで消えていった。


「・・・スズ、俺なんかした?」

「ううん。にゃにもしてないと思う。」

「てか、日本語だったな。」



 正直、なんか失恋した気分だ。

恋なんかしたことないけど。

 なんというか...スライムも一応生物だろ?なのに、懐いてくれなかったのが、ものすごく悔しい。

今までこの人生で、動物に嫌われることなんてなかったのに...単細胞だからか?!スライムって単細胞感あるよな。

なら、ノーカンだ!


「どしたの?」

「いや、なんとか自信を取り戻せた気がするよ!」

「にゃ、にゃるほど...?」


 しばらく二人で話しながら歩いていると、また先程のスライムが見えた。


「あ、さっきのピンクドロドロ!」

「あれはスライムって言うんだよ。」

「そうにゃの?じゃあ、さっきのスライム!」

「も、もういい...あの、これあげます。」


 そう言うと、ピンク色のスライムは、果物のようなものを渡してきた。


 果物を手に取ろうとした瞬間、視界がピンク色に包まれた。

っ!?い、息ができない...んん、ドロドロしてて上手く動けない。


「・・・華夜、楽しそう...私も入る!」

「なんで自分から!?」


 なんでスズも入って来たんだよぉ!唯一の助けがぁぁ!

このままじゃ、窒息死する。どうにか外に....


「やっぱり、すっごくいい。あ、こっちはいらない!」

「にゃっ!?」


 突然スライムの外に吐き出され、スズは地面に激突した。


その頃華夜は...


「はぁはぁ...た、食べるなら早く食べろぉ!」


 スライムから頭だけ出ている状態になっていた。

先程よりスライムが大きくなっており、足を伸ばしても地面に届かない。


「ん?食べないですよ。私は、あなたと接合がしたいだけです。」

「接合...って、嫌だ!だったらせめて食べてくれ!」

「嫌です!あなたは、絶対食べないし逃がしません。絶対接合します!

あなたが望むことなんでもしてあげますから!」


 うぅ...なんか上手く体に力が入らない....

どんなにもがいても、位置が変わらない。スズは地面に激突した衝撃で、気を失ってる。

どうすれば...


「食べ物も、住処も、なんでも私が用意してあげますから!

あなたは、ただ私の中にいるだけでいいですから!」

「そんなクズ男みたいな、生き方は嫌だ!」


 どんなに説得しようとしても、無意味。

スライムは強くない。

しかし、個体によっては一度飲み込まれてしまうと、それなりの実力者でも、抜け出すことは困難なのだ。

 そうだ、押してダメなら引いてみよう!


「スライムさん!」

「はい♡‪」

「一回出してください!キミに、渡したいものがあるんです!」

「本当ですか!?分かりました!」


 おっと、案外あっさり出して貰えたな。最初からこうすればよかった。


「街に置いてきてしまったので、取りに行ってきます。」

「街って、あっちのですか?」

「・・・あ、はい。」


 思わぬ収穫だ。街の場所まで分かれば、もう心配は無い!

華夜はスズを担ぎ、スライムに言った。


「必ず戻ってくるので、ここで待っていてくださいね。」

「はい、待ってます♡‪」


 そう言って華夜はスズを担ぎながら、スライムが指さした街の方向に走っていく。

なんとか逃げれた。スライムとの子供なんて、絶対に作りたくないね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る