ノエルアリ、自分が生み出したキャラクターに説教される
ノエルアリ
第一説教人 三条水影
これまでたくさんの物語を生み出しては未完のまま日の芽を浴びることのなかった、多くのキャラクター達。現在進行中の物語もありますが、どうやら生みの親であるこの
というわけで、記念すべき第一回目の説教人はこの方、――『ヘイアン公達の月交換視察〜帝が天女を妃に迎えるまで〜』、『帝と四人の瑞獣たちー偽世者ー』より、冷静沈着な文官・
(――ひぃ! 水影かぁ。こやつは理詰めでくるからな。気を引き締めなければ
「では改めまして、貴方がたの生みの親、ノエルア――」
「創造主殿。左様な挨拶は不要にございまする。
(ちゃんと最後まで名乗らせろよっ! しかし、さすがは文官。適格に自分の要望を伝えてきやがるっ……)
「あ、ああ。そう、だよね。ようやく次で最終章だっていうのに、ずっと更新していないどころか、まだ一文字も書いていないっていうね……」
「何ですと? 一文字も書かれていない? それはつまり、我らが物語を完結されるつもりがない、
「いやいやっ、そんなわけないじゃん! ちゃんと終わらせるってば! 君たちのスピンオフ作品『帝と四人の瑞獣たち』も、ちゃんと完結させたでしょ? 今はコンテストの最中でもあるから、他の作品の応募条件を満たすためにも、優先事項を決めて書いているってだけだから!」
「ふん。我ら『ヘイアン公達――』より、よう分からぬ『風見鶏――』の方が大事であると、左様な了見という訳ですな。よう分かりました。ならば、
「か、かんがえ? あの、水影さん、一体なにをされるおつもりで……?」
恐る恐る訊ねた私の前で、にやぁっと笑う水影。その手には、どこで手に入れたのか、巨大なハンマーが握られている。……ん? ハンマーだとっ――!?
「この世のありとあらゆる風見鶏を壊して回りまする」
「やめてえええ! あれフィクションだから! リアル世界の風見鶏すべてが
「あれをこの世から失くせば、……ふふ。
「わ、わかった、わかりました! 『風見鶏――』を10万字書き終えた後、『快刀――』の一話完結を執筆してから、君たち『ヘイアン公達――』の最終章に取りかかりますので、どうかそちらでご容赦をー!」
(恐ろしい……。それらしい言葉を並べて粛々と諭されると思いきや、物理攻撃で解決しようとするとは……)
「言質は取りましたぞ、創造主殿」
「へ、へい……」
項垂れるように小さく頷いた私であったが、その口元には微笑が浮かんでいる。
(……ふふ。ちょろいぞ、水影。冷静沈着な文官サマともあろう男にしては、簡単に引いてくれたようで何より。今私はカクヨムコンで忙しいんだよ。他にもいくつか短編を書きたいし、まだまだキサマらの元に戻るなんて出来ないんだよ。……っふ。所詮キサマは、創作されたキャラクターの一人に過ぎないのさ)
かの有名な哲学者、イマヌエル・カントはその著『純粋理性批判』で言った。「経験は経験以上の事を知り得ず、原理は原理に含まれる事以上を知り得ない」――と。
(そう。原理は原理に含まれる事以上を知り得ない。ならば、キサマは創造主であるこの
これ以上、水影が私を糾弾することはない。そう確証し、今回の勝利を実感した。
(ふう。もっと自分が生み出したキャラクターに踏み
「――ああ、もし、
「え?
※火星の神「雷鳥」は、『ヘイアン公達の月交換視察』より第二章『火の国の襲来』で登場した神様です。火星人の信仰の対象であり、万能の力を秘めた、まさしく神として登場しております。
水影は私の問いかけには答えず、淡々と「雷鳥」と会話を続けている。ただこちらに向ける眼差しはジト目で、いかにも作者を疑い怪しんでいるようだ。
「――ええ、左様にございまする。どうやら創造主は、我らが物語を紡ぐ心意気はあるようにございまするが、どうにも信用に欠けまする。よって、もし
「どえりゃー目ぇぇぇ!? ……え? み、みなかげ……?」
ふっと電話口で嘲笑を浮かべる水影が、上から目線で「雷鳥」に続ける。
「そうですなぁ。例えば創造主が大切にしているシマエナガの置物を、イナ◯の物置に換えるとか」
「やめろやめろぉ! パソコンの前にシマエナガ置いとんのじゃあ! そんなことしたらパソコンが圧死するわあああ!」
「それ以外であらば、今後の人生で引くおみくじ全てを大凶にするとか」
「やめろぉ! こちとら信心深いんじゃああ! そんなことされたら、神頼み出来なくなるだろぉぉぉ! ――『カクヨムコン10で何かしらの賞にひっかかりますように』って神様にお願いした後、おみくじで大凶なんか出た日にゃ、私は、私はああああ!!!」
「大凶――願い事『健闘虚しく、悉く叶わず』」
「やめてええええ! 分かった! 分かったから! ちゃんと約束は守りますから!」
すっかり意気消沈した。経験も原理も関係ない。これはそう、書き進めていく内に、キャラクターたちが勝手に喋り、勝手に行動し始めるの法則。そこに作者の意図は含まれず、気づけばなんでこんな展開になっとんねん? というあるあるだ。
(くそう! こっちの想定外のことしやがるっ……! さすがは146話、35万字以上書いた作品の準主人公なだけあるな!)
その場で
「お分かり頂ければ良いのです」
「みなかげぇ……」
優しい声色に、作者とキャラクター、通じ合うものを感じた。顔を上げた私の目に、本来の水影――心に秘める正義感と、先を見据える冷静な瞳――が映った。
「少々、強引にございましたな。されど、創造主殿あっての我らにございますれば、その進まんとされる道を正すのも、我らが使命」
「水影……! うん、私もゴメンね! ちゃんと他の区切りをつけたら、また君たちの物語を再開させるからね!」
「創造主殿……」
水影が、じっと私を見つめる。……が、すぐにまた上から黒く笑う水影がそこにはいた。
「そもそも物語というのは、完結させてこそ価値が生まれるというもの。それを『あ、イイもん閃いた!』からと言って、次々と量産し、ちょっと行き詰まると新たな作品を書き始めるというのは、いくら創造主であろうとも、無責任にございまする」
「え? あ、ハイ。仰る通りです……」
「良いですかな、創造主殿。一作品ずつ完結させてから、次の新作を書く。その作品としかと向き合い、終わらせること。途中で行き詰まり、エタらせる程、クソダ――愚かなことはありませぬゆえ」
(今、クソダサい言おうとした?)
「申し上げたいことは以上にございまする。しかと約束を守り、我らが物語の続きを紡いで下さいますよう」
最後の最後で、ようやく水影が恭しく私に立礼した。
顔を上げた水影が、いっそう清々しい黒瞳で言う。
「とは言え、二十年以上小説を書いている貴殿には、何を言っても無駄でありましょうがな!」
「それな!」
やはり私から生まれてきただけあって、よぉく創造主の性格を分かっていらっしゃる。
◇◇◇
以下が今回登場した作品たちです。
『ヘイアン公達の月交換視察〜帝が天女を妃に迎えるまで〜』
『帝と四人の瑞獣たちー偽世者ー』
『風見鶏令嬢、救世主になる!?』
『快刀ディクショナリー』
ノエルアリ、自分が生み出したキャラクターに説教される ノエルアリ @noeruari
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