召喚術師【調味料】って冗談ですよね?

うめつきおちゃ

第1話 追放


「召喚術師――」


「「「おおっ!?」」」

 

 ジョブ鑑定士なる者がボクの目の前に立ち片手をボクにかざし、もう片方の手を自身の頭に当てながら発した言葉に、どよめきと歓声が上がり《クレッセント城》と呼ばれた建物の中で響き渡った。


「おぉ!我が国にもついに『当たり』が来ましたな!」「いやはや、召喚術師なんて他国にも丸10年は現れていないはず、これはもう『大当たり』と言っても良いのでは?」「今のうちに機嫌とっておいた方がいいんですかね……」「ほうほうほう、久しぶりに我が国にもが来たと思ったら、それが召喚術師とは……ありがたいのぅ」「こうしちゃおれん!誰か王様にお伝えに行ったか?ええい!まどろっこしい!私が直接伝えに行くぞ!」


 つい先程まで訝しげにボクらを観ていた、高そうなローブを着た年配の人たちのボクを見る目が変わったのを感じ、ボクは思わず口角が上がる。


「ぐふっ、うふっふっ……」 

「チッ……!」

「ちょ、ちょっと、アイドルなんだから舌打ちは良くないですよ……」

「笑い方がキメーんだよ!」


 ボクの隣に立ち、『ジョブ鑑定』とやらの順番を素直に待つはボクの笑い方に難癖をつけ、露骨にイライラし始めた。

 腕を組んだまま片足だけ貧乏ゆすりみたいに動かし舌打ち……これが彼女の本性だなんて、ボクはまだ信じられないし、信じたくないが……彼女の名前は『ゆいすん』……ボクの最推し、いや唯一推してるアイドルだ。

 

 

「静粛に!!静粛にっ!!コバルト伯!国王様にお伝えするのは少し待ってください!」


 ボクの周りを囲う老人たちよりいくらか若そうな、端正な顔立ちの男性がジョブ鑑定中のボクらを見ようと集まったギャラリー全員に聞こえるよう大きな声でそう言った。

 

「んっ、確かに……少し取り乱しましたな」「何か問題でも?」「いやはや恥ずかしいところを……」「ふむ、さすがオニキス卿、常に冷静じゃのぅ」

 

 騒いでいたギャラリーは落ち着きを取り戻し、小走りでこの場を去ろうとしていた男性も戻ってきた。

 

「『召喚術師』が我らが王国に現れたことは確かに嬉しいことです。が、……みなさん大事なことを聞き忘れていますよ?」


 ……大事なこと?

「「大事なこと?」」


 この場にいた全員がそう思い、一部は口にそのまま出した。


「はい。とても大事なことです。恥ずかしながら私はと言うものを見慣れていないので、彼の年齢は見た目では分からないのですが、……未成年ということもないでしょう」


 ギャラリーの視線がボクに集まったのがわかったのでボクは口を開く。


「えっと……こ、この国の……、|の成人が何歳かは知らないんですけど、ボクは一応……元々いた世界では成人を迎えてます。二十歳になったばかりですけど」

 緊張から声が震えた。こんな人数の大人たちの前で話す機会など今までなかったから。

 

「え?!アンタ、ハタチなの?!私と二個しか変わんないじゃん?はぁー、子どもみたいな顔だから高校生くらいかと思ってた」

 ゆいすんはボクの顔を見ながら驚いた様子だが、あまり嬉しくない。……それは幼いって言ってるのも同然じゃないか。


「なるほど、二十歳ですか。……彼が十五、六の少年なら『レベル1』でも何も問題ない。時間をかけて成長してもらえば『召喚術師』という稀少職ですから、いつしか我らが王国における重要人物となるでしょう。しかし!もし……二十歳を超えて『レベル1』なら……」

 お分かりですよね?とでも言いたげにギャラリーの顔を見つめるオニキス卿と呼ばれた男性。


「たしかに……。二十歳を超えてからの『レベル上げ』はなかなかに困難」「そもそも異世界にはジョブがないとかなんとか」「ならば初期レベルが相当に重要と……」「ふぅむ、ならば『レベル2』は最低でもほしい――」


 当事者であるボクを放置して会議が始まる。


「アンタのレベルがどうとか私興味ないんだけど、いつまで待たせんのよ」

「ボクに言われても……」

 

 ジョブ鑑定士と呼ばれた人が自身の頭に指を当てながら何か悩んでいる様子だ。さっきもこんなポーズをした後、ボクのジョブとやらを宣言していた。

 

「わかりました!このお方のレベルは『レベル6』です!」

 


「「「「はあっ?!!」」」」


 

 ……え?

 

 あれ?さっき最低でも『レベル2』は欲しいとか言われていたのに『レベル6』?!……なんだこれ?これが《恩恵ボーナス》ってやつなのか??

 やばくない?

 あれ?もしかしてボクの時代来た感じ?

 

「ふ、ふひっ……」 

「なにそれ……うざっ!つーかキモっ!」

 

 小さく、こぼすように笑ったボクにゆいすんは更に苛立ってしまったらしい。

 

「ダサオ!!つーかアンタさ、あんま調子乗らないでよね?そもそもアンタのせいで私たちっ――」

「――ダサオ様と仰るのですね?!ワタクシ、名を『ゴーン』と言いまして、ここ王宮内で魔法研究員として働いているもので――」


 先程からずっと揉手で周りの顔色を窺っていた、うだつの上がらない印象のおじさんがボクとゆいすんの間に割って入ってきた。

「――ちょっと!なんなのよ!」

 

「ワタクシたちは日常で使える魔法だけでなくモンスターやゆくゆくは魔王などと闘えるような魔法の研究に日夜、勤しんでいるのですが、そう言った研究には研究費というものが――」

 揉手のおじさんは弾かれて怒るゆいすんを無視して一人で勝手に話し続けている。


 

「ま、待って!待ってください!……ボ、ボクはダサオなんて名前じゃなくて、本当はサダオです!ボクの名前は《御宅田オタクダサダオ》です!!」

「……ぷっ!《オタク ダサオ》。名は体を表すとは良く言ったものね」揉手のおじさんを挟んだ向こう側でゆいすんが吹き出した。

 

「ええ?!それは、それは誠に申し訳ございません。ワタクシとんだご無礼を……。許していただけるのでしたらなんでもしますので是非お申し付け下さい。その上でこの先も末長いお付き合いを――」

「?!ゴーン貴様!何を言っておる!」「抜け駆けは許さんぞ!」「ほうほうほう、『レベル6』の異世界人、これは早く囲わねばならんのぅ。どれ、サダオとやら……結婚はしておるのか?嫁は何人ほしいんじゃ?ワシにはまだ幼いが孫娘がおってのぅ」


『召喚術師レベル6』というブランドがよほど輝かしいのか、遠巻きに観ていただけの人たちが急に寄ってきてボクを囲んだ。

 

「か、勘弁してくださいよ!まだについて何も知らないのに!それにボクが結婚だなんて……」



「……あっ!」



 ……ん?

 ボクに贈る貢物について目の前で会議という名の口論が始まっている最中、何か気づいたように、何かに気づいてしまったように鑑定士が声をあげた。

 それに気づいたのはボクとゆいすん、そして遠巻きにこちらを見ていたオニキス卿の三人だけ。

 

 ゆいすんは興味なさげに爪を見ているが、オニキス卿は違う。すぐに鑑定士の元へ行き……コチラを見ながら何か話して、二人して頷いた。


 なんだろう、すごく嫌な予感がする。


「みなさん!少し宜しいですか?驚きの事実が判明しました!」


 いやだ、いやだ。


「おおっ?どうしましたオニキス卿?これからさらに驚きの事実とはサダオ様はサプライズ上手でいらっしゃる!」「本当ですねぇ。我が領土の領民たちはサプライズが大好きなのできっと皆、サダオ様を歓迎するでしょう」「ほうほう、ウチの孫娘もサプライズが大好きとかよく言うておったわい。相性ピッタリかもしれんのぅ」


 さっきまでと対照的にボクの表情は曇り、周りの人たちの頬は緩んでいる。


「……残念ながら、彼の職業は――」


『残念ながら』の段階で皆、耳を傾け首を前に出し――。


「錬金術師【調味料】です」


 ――顎が外れるかと思うほど口を大きく開けた。




 ……誰も何も言わない。

 静寂がだだっ広いこの空間を支配している。


「ふっ、ふふっ」

 ゆいすんが……邪悪な笑い声を上げるまで……。


「ふふファぁああハハハハっ!笑える!召喚術師【調味料】?何それ?塩ファサー、お砂糖さささぁあって振りかけて闘うの?やばすぎっ!!お腹痛い!お腹痛い!」


「ちなみにそちらの女性は魔法使い【癒し】の『レベル2』ですね」


「「「………………」」」


 再度静寂がボクらを襲う。


「ワタクシ、ちょっと用事を思い出しました」

 揉手のおじさんがそう言って踵を返すや否や他の人たちも同様に背中を向け、言い訳すらせずに無表情で去って行った。

 

「……な、そ、そんな……」

 我が世の春が来たと思ったが一瞬、冬将軍がこちらへと全力で走り込んでくるとは思いもしなかったので、ボクは膝から崩れ落ちる。


「ほうほうほう……『レベル6』とはいえ、聞いたこともない奇怪なジョブ持ちと、掃いて捨てるほどいる魔法使い【癒し】の低レベル。………………追放じゃ!!この者らを即刻、この由緒正しき王宮から、いやこの王都から追放するのじゃ!!!」

 さっきまで孫娘との結婚を推していたお爺さんが杖をブンブン振りながら狂乱する。


「つ、追放ぅっ?!!」

「ちょっと!追放ってどういうことよ!ダサオならまだしも、この私を追放?!

 」


「ロンデル公、いくらなんでも追放はいかがなものかと……」

「ほう?!オニキス卿、こやつらの肩を持つのか?」

「か、肩を持つという訳ではないですが、謎に満ちたジョブで更に『レベル6』、色々と確認した方が良いかと……」

 オニキス卿は冷静だ。頼む!説得してください!ボクたち右も左もわからなくて行き場がないんです!


「……ちょっとダサオ!私たちどうなっちゃうの?本当に追放なんてされないわよね?!」

「お、落ち着いてください!今はオニキス卿と呼ばれたあの男性に任せましょう。……あとボクはダサオじゃないです!」

 ゆいすんは気が気じゃない様子でその場を行ったり来たりしている。


「宜しい!ならば今ここで試してみろ!変えの効かない素晴らしいジョブであると証明できたら、このワシが後見人となって今後の世話をすると約束する!」


 ロンデル公と呼ばれた御老人が杖をビッ!とボクの眼前に振り下ろすとオニキス卿はボクの目を見て頷いた。


「いやいやいや、そんないきなり?!」

「やるしないでしょ!さっさとやりなさいよ!」

 ゆいすんに怒られる。


「や、やるって何をどうすれば?!」

「知らないわよ!オタクなんだからアンタのほうが魔法とかそういうの詳しいでしょ?!」

「そんなぁ……。ボクはオタクじゃなくて無キャラなだけなのに……」

 オニキス卿もロンデル公もボクの事をずっと無言で見ている。

 ……やるしかない。

 ボクは中腰になり、手を震わせながらボクは受験期を思い出して目を閉じて集中する。


「……?!出た?!」


 ゆいすんの言葉に目を薄く開けると、少し前に出した手のひらに何やら図形の様なものが浮かび上がっている。


「魔法陣……」

 オニキス卿が小さくこぼした。

「鬼が出るか邪が出るか」

 ロンデル公は薄く笑う。


「出ろおおお!!!」



「「「おおっ?!」」」



 さらさらさら〜〜。



「これは?!」

「……塩、ですね」

「………………追放じゃあああああ!!!!」



 どうしてこうなった?!!!

 


 

 

 

 

 


 

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