脳内に現れるミッションをクリアしていったら、いつの間にか学校の『三大姫』に言い寄られていた。
ストレート果汁100%りんごジュース
第1話 ミッション
普通の高校生活を送るということは、俺が考えているよりもずっと難しいことだったのかもしれない。
確かに、恋愛に憧れていた時もあった。
だが、俺が考えていた恋愛は、ちょっとしたきっかけで女の子を好きになって、ちょっとアタックして失敗して友達に相談して少しずつ距離を縮めていき、喧嘩したりすれ違ったりしながら愛を深めていくものであって、決して学校を代表する三大姫に誰がいいのかと詰められるような恋愛ではないのだ。
あまりに刺激的すぎる生活がいきなり始まったのは、アイツがいきなり現れた日で間違いない。
いつの日かいきなり俺の脳内に『シレー』が現れてから、俺の人生はおかしくなっていったんだ。
◇
その日、いつものように目覚ましにセットした時間の10分後に起きた俺は、自分が今、夢から覚めた状況なのか、それともまだ夢の中にいるのか分からなくなっていた。
何故なら、頭の中で自分ではない誰かの言葉がずっと浮かんでいるからだ。
その言葉を書き起こすとこうなる。
『デイリーミッション』
・木村凛花に朝の挨拶をしよう!
『ウィークリーミッション』
・毎日普段の10分早く家を出てみよう!
これである。
正直に言うと、意味がわからない。
デイリーミッションとかいうやつに書かれている木村凛花というのは、おそらく俺の隣のクラスにいる有名人、木村凛花さんで間違いないはずだ。
ただ、挨拶をしたからと言って何になるんだ?
ミッションが頭の中で反芻される意味もわからず困惑する俺。
まぁ、取り敢えず無視か。意味わからんし。
そう思った瞬間、今までとは違う文章が頭の中から聞こえた。
『注意。ミッションを無視すると、厳罰がくだされます』
「誰!?」
明らかに意思を持って発せられた言葉に思わず大声を出してしまい、慌てて両手で口を抑える。高校から始めた一人暮らし用に借りたこのアパート、防音性が皆無に等しいからな。
『回答。開示できる情報がありません。個体名佐々木青葉を助けるために現れた…………妖精?』
「なんで疑問形で答えてるの?」
思わず会話を繰り広げてしまっているが、俺はどうかしてしまったのだろうか。
『忠告。個体名佐々木青葉、端から見ると一人言をずっと呟いている不審者。脳内会話を推奨』
脳内会話ってなんだよ。
『指摘。それ』
あ、これでいいの? 俺の思考は常に盗み見られるという認識でいい?
『回答。ご明察』
思わぬ出来事でこの令和の時代にプライバシーの欠片もなくなってしまった俺。
わけも分からぬ状況に脳が停止していたが、なんとか学校があることを思い出し、この状況は一旦置いておいて学校の準備を始めた。
◇
「ふ〜、なんとか間に合ったな」
ウィークリーミッションの『毎日10分早く家を出る』を初日から失敗しそうだった俺だが、思いの外準備が早く終わり、なんとか今日分をクリアすることができた。
胸を撫で下ろしながら駅へと向かう俺。
家を出た瞬間、ポーンという効果音が響き、『ウィークリーミッションの進捗が更新されました(1/5)』という音声が頭の中で鳴り響いた。
朝起きたときは繰り返されていたミッションのアナウンスだったが、今は落ち着いている。
歩きながら頭の中にいる何者かと先ほどの会話の続きをすることにした。
(お前が何なのか知らないんだけど、なんて呼べばいいの?)
『回答。個体名佐々木青葉の好きなように』
う〜ん…………正直な話をすると、俺にはネーミングセンスというものがないような気がする。
小学生の頃、生活の授業の実習で動物園から譲り受けたモルモットの名前を決める際、俺の案が真っ先に却下されて以来、俺はなにかに名前をつけるという行為が怖くなってしまったのだ。
ちなみにその時のモルモットにつけたかった名前は『電撃将軍』。速そうでかっこいい気がしたのだが何がだめだったのか…………。
(じゃあ、指令ばっか出してくるから、『シレー』で)
『戦慄。壊滅的なネーミングセンス。正気?』
ボロクソ言い過ぎな。今ここで泣いてやってもいいんだぞ。
『質問。個体名佐々木青葉の呼称は?』
(なんでもいいよ? 好きなように)
『では…………マスター』
(お前も大してネーミングセンスよくないじゃん。俺と同格だな)
『反論。どこが? 一緒にしないでほしい。マスターはバカ。アホ。まぬけ』
だから、言い過ぎな?
(ミッションをクリアするとどうなんの?)
『謝罪。開示できる情報ではありません。ただし、マスターにとって良い変化となることを誓います』
要領を得ない回答だが、これ以上聞いても望む回答は得られない気がしたので、諦めて歩みを進める。
駅の自動改札に定期を通し、ホームに降り立つと列車の到着するアナウンスがちょうど聞こえ始めた。
人が少ないであろう1両目に乗り込むと、いつもより人が多い車内に若干憂鬱な気持ちになりながらも、壁に寄りかかる。
いつもより10分早く家を出たせいで、一本早い電車に乗ったのだ。
この電車は先の駅で快速に乗り換えができる電車のため、快速目当てのサラリーマンや学生が多く乗り込んでいるのだろう。
これを避けるために、いつもは今日の10分遅れで電車に乗っているのだが…………シレーは何をさせたいのか。
考えたところで返事がなかったので、諦めて車窓を眺めていると、次の駅に到着した。
パラパラと人が降りて、ドッと人が車内に流れ込んでくる。
この駅はそこそこ大きい駅のため、利用する人も多いのだ。
途端にぎゅうぎゅうになる車内。
周りに押されながらもなんとか自分のスペースを確保した俺は、目の前にいる綺麗な黒髪の人と目があった。
というか、その人は俺の通う学校の生徒なら誰でも知っているであろう有名人、そして、俺のデイリーミッションの相手でもある木村凛花だった。
『指摘。今。いけいけゴーゴー』
ちょっと黙っててくれないかなぁ!?
次の更新予定
2024年12月16日 18:31
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