第14話 フリーダム皇帝
「……のうレティ、大丈夫かそやつ? ゾンビみたいな顔色しとるが」
木綿のブラウスにニッカポッカという、農家なのか大工なのか判断に困る服装の陛下は、私に支えられたセキシスを見て顔を顰めました。
褐色肌の彼女ですので青ざめた顔は土気色、確かにアンデッド味がしていますね。
ちなみに、こっちの世界で遭遇する実物のゾンビの顔色は、当然ながらもっと酷い灰色か、鬱血したドス黒い色です。
「あ……陛下、このような小汚い場所によーこそですの〜……ふにゃあ」
「こらこら。玄関で寝るやつがあるか。レティよ、セキシスの寝床はどこだ? 足の方持ってやるから、運ぶぞ」
「いや、頭持ってくださいよ。絶対陛下のが力ありますから」
「……余、皇帝なんじゃが」
ぶつくさ言いながらも、ちゃんと上半身を持ってくれる陛下でした。
「重くね、こいつ!?」
「300キロぐらいありますよ」
「金属でも常食しとるん?」
「冗談ですよ。本当は160キロぐらいです」
「……え、マジ? ……乳の重さかのう……」
多分、中身が人間じゃないからだと。おっぱい大きいのは事実ですが、それが原因だったら私もヤバイ体重してます。
寝室の扉を、陛下が器用ながらも行儀悪く足で押し開けます。そう広くないアパートなので、私とセキシスは寝具こそ別ですが寝室は同じです。
……ええ。特にイベントなんて起きてませんよ。着替え中にバッタリ……すらも。ガード硬いんです、セキシス。
「どっちのベッド?」
「奥です」
「手前じゃ駄目?」
「……まあ構いませんが」
一瞬、自分のベッドでセキシスが寝ることに気恥ずかしさを覚えます。んが、一刻も早くこのクソ重い物体を手放したかったので妥協しました。
「ごめいわく、おかけ……すぴ〜」
薄目を開けたまま寝落ちするセキシスの横で、私はすっかり汗だくでした。せっかくお風呂屋さんに行ったのに。
アパートの裏手に体の洗える井戸がありますが、もう秋も深まる今の時期に使うのはキツいです……けど、ベタベタなままなのは美少女の沽券に関わるし。ぐぬ〜。
「むほほほ、そのままでは苦しかろう。余がラクにしてやるぞ」
などと葛藤していると不穏な声が。振り返れば、陛下がセキシスに覆い被さり、鼻息を荒くして両手をワキワキさせてます。
私は思わず、こちらへ向けられた無防備なケツを全力で張り倒していました。
細身の割には大きくて叩き甲斐のある良いケツでした。スッパーン、と気持ちの良い音が薄暗い部屋を満たします。
「〜〜〜〜〜〜〜っっっ!? いったぁぁぁっ!!」
いい感じにヒットしたらしく、陛下は腰を弓なりに反らせてベッドを転がり落ちました。
「お……お主、皇帝の尻をよくも! 打ち首にしたろか……あだだだだ!」
「酔い潰れた女性に悪戯するのは淑女の行いではありませんよ、陛下」
「違うわい! こやつが寝苦しそうだったのでな、胸元を緩めてやろうかと……だというのに、お主というヤツは!」
言いたいことは分かりますが、さっきの陛下の目付きは完全に狩人のそれでした。仮にも相棒の貞操を、みすみす散らせるわけにもいかないでしょう。
つーか、ぶっちゃけ私も狙ってるんですから。他の人に触らせたくありません。あのたわわを揉むのは私一人でいい。
とはいえ、寝苦しそうなのは確かなのですが。
ノースリーブのチョッキの胸元は、今にもボタンがはち切れんばかりに張り詰めていながらも、美しい楕円を描いたまま崩れていません。布を切り詰めたレオタードと専用の下着で、動きを阻害しないよう固定しているからです。
私もそうですが、胸が大きすぎると運動する時にすっごい邪魔です。ダイナミックにバインバイン弾ませた日にはクーパー靭帯を痛めて眠れないほど。他でもないセキシスだって「調子に乗って大きく作りすぎたですの」ってボヤいてました。
なので皮膚にピッチリ張り付いて、形状を固定してくれるレオタード系の服装って、実は合理的判断による選択なのですよ。
……デザインをバニーにする理由? 趣味です。
ですが、寝る時にはまた別の問題が発生します。
裸で仰向けになると、乳房が脇の下の方向へ零れ落ちます。こうなると胸部中心の皮膚が左右に引っ張られ、眠れないほど激烈に痛いのです。
かと言って起きてる時と同じように固定すると、眠っている胸の上で成体の犬か猫が乗ってるに等しい圧迫感が襲ってきます。
横向いて寝ればだいたい解決しますが、不意の寝返りからの激痛で目が覚めたりはしょっちゅう。なので苦しくない程度に固定した就寝用のブラジャーを自作し、余裕がある時は必ずそれを付けています。長距離任務とかでどうしても無理な時はありますけどね。
「――ということですので、下手に胸元を緩めず、身体を横にするだけに留めておいてください」
「お、おう……大きいのも大変なんじゃな……」
私達のような富める者の悩みを聞き届けた陛下は、ご自身の真っ平らな胸元をペタペタ触って複雑な表情でした。
いやまあね? 私だって前世じゃ「ロリ巨乳美少女サイコー」なんて言ってましたけどね。ゲームで作ってたアバターも、背は低く胸デカくって心掛けていました。
ですが、大きな胸って自分がなっても嬉しくない。転生するまで考えたこともありませんでした。たはは……。
さて。酔っ払いの介抱に無駄な時間と労力を取らてましたが、陛下は別に冷やかしでこんなところまで来たのではありません。
井戸水でサッと汗を流し、ラフな部屋着に着替えた私は、テーブル代わりのブラウン管を挟んで陛下と対峙しました。
木綿のシャツにショートパンツ姿の私を前に、陛下は「皇帝の前でその服装!?」とツッコミたい衝動と、シャツの隙間から覗くランジェリー(自作品)に包まれたロリ巨乳を凝視したい衝動がせめぎ合ったような、愉快な顔をしていました。
試しに胸を挟むように腕を組み、寄せて上げてみせたところ、スケベ心の勝った陛下は分かりやすく鼻の下を延ばします。こうなると美少女も台無しですね。
「な、なんじゃお主、誘っておるのか? 止めよ、こんな時に……じーっ」
「……陛下って実は女の子なの外見だけで、中身おっさんだったりしませんか? こう、背中を割って脂ぎった本体が出てきたり」
「なにそれ怖い」
「それより、指令書の内容について詳しくお願いします。本当なのですか、あれ」
「急に梯子外すでないわ。あんまからかうとまた幻影剣するぞ?」
幻影剣……あの斬られても痛いだけなビームサーベルを手にして、陛下が凄んできます。痛いだけとはいえ、陛下の技量で本気になられたら千切りもみじん切りも思いのまま。ショック死しかねないので勘弁願いたいところです。
私が大人しく聞きに徹すると、陛下はようやく本題に入りました。
「んじゃー。余に対する謀反を企てとる西域大名バンデンバーグ大公ってのがいてな。証拠集めを手伝え。その間、余は冒険者のステラちゃんとしてお主らと同行する。よろしく頼むぞ」
さっき受け取った指令書と寸分違わぬ内容を陛下の口から聞かされて、さすがの私も頭痛を覚えたのでした。
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