拝啓、バニーボールはじめました
阿弥陀乃トンマージ
空、砂浜、バニーガール
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「ふう……」
誰もいない体育館で長身で明るい髪色、筋肉質の体と中性的な雰囲気を併せ持った青年がバレーボールを片手にため息をつく。青年の名前は
天空の実力はそれなりに知れ渡ってはいたものの、やはり全国区での実績が無いということがネックとなり、彼に対して、有名大学や強豪実業団、SVリーグのチームからの誘いはこなかった。
天空はバレーボールを見つめながら、寂し気に呟く。
「オレのバレーボールは高校までか……ん?」
天空のポケットのスマホが鳴る。取り出して画面を見る。知らない番号だ。無視しようかとも思ったが、なんとなく電話に出てみる。低く渋みを感じさせる男性の声がした。
「ああ、白田天空くんだね? いきなり電話をして申し訳ない……」
「……どちらさまでしょうか?」
「私は
「兎野って……! あ、あの、ビーチバレーのメダリストの!?」
「ほう、ご存知だったのかい、光栄だね」
兎野と呼ばれた男性が嬉し気に話す。
「そ、それはもちろん知っていますよ! で、でも、どうして兎野さんがオレなんかに電話を?」
「……単刀直入に言おう、白田天空くん、君が欲しい……!」
「!」
「全国区には残念ながら縁が無かったが、中国地方の選抜には何度か抜擢されていたね……」
「み、見ていてくださったんですか?」
「ああ、それで声をかけさせてもらったというわけだ」
「……ビーチバレーへの転向ということですね?」
「……それは来れば分かる」
「来れば?」
「急な話で申し訳ないが、三日後、沖縄へ来てくれたまえ」
「お、沖縄ですか?」
「ああ、往復の航空券もすでに送った。ホテルなども手配してある。ユニフォームなども用意してあるから、練習道具だけを持ってきてくれ」
「え、えっと……」
天空は困惑する。
「まあ、無理にとは言わないが……」
「いえ、やります! やらせてください!」
天空は力強く答える。電話口の向こうで兎野がふっと笑う。
「待っているよ……それじゃあ」
兎野が電話を切る。
「……ビーチバレーへの転向か……正直ほとんど頭に無かったけど……まだバレーが続けられるかもしれない……!」
天空が嬉しそうにバレーボールを両手で持って見つめる。三日後、天空は沖縄にやってきていた。空港に兎野のアシスタントを務めているという美人の女性が迎えに来てくれた。天空は彼女の運転する車に乗り、海岸の方へと向かう。天空が窓の外を眺めながら、やや首を傾げる。女性が呟く。
「……ホテルで顔合わせという話だったのですが、やはりバレー選手はバレーボールで語り合った方が良いだろうというお話です」
「な、なるほど……」
「トレーニングの方は……?」
「部活を引退してからも約一ヶ月、欠かしていません!」
「さすがですね、それならば問題はないでしょう……」
「い、いきなりそんなにハードなトレーニングをするんですか?」
「……着きましたよ」
女性は天空の質問には答えず、車を停め、天空に降りるように促す。
「は、はい……」
「こちらです……」
「よく来たね、待っていたよ、白田天空くん」
そこにはTシャツとハーフパンツ姿ではあるが、日に焼けた肌と、屈強な肉体が覗く、元ビーチバレー日本代表の兎野の姿があった。
「兎野さん!」
天空が両手を腰にピタッと付けて、兎野に向かって体を90度に折り曲げた。兎野がやや面食らう。
「う、うん?」
「こんなオレにバレーボールを続ける機会を与えて下さり、誠にありがとうございます!」
「いや~そんな堅苦しい挨拶は良いんだよ。早速で悪いんだが、適性を見たいんだ。こいつに着替えてくれ」
「はい! ……え?」
天空が渡されたのは、バニーガールの衣装であった。兎野が告げる。
「その衣装を着て、バレーボールをしてもらう」
「い、嫌ですよ!」
「ほう、何故だい?」
「な、何故って、男が着るような衣装ではないでしょう!?」
「そうかな?」
「そうですよ!」
「彼はもう着ているけどね……」
「え……ああっ!?」
兎野が指し示した先には、長身で、黒い髪色、精悍な顔つきに褐色でマッチョな肉体の上に黒のバニーガールの衣装を着ている青年がいた。兎野が笑顔で天空に問う。
「よく見知った顔だろう?」
そう、天空は彼のことをよく知っていた。岡山県出身で、隣県の天空とは、幾度となく鎬を削った相手、
「な、なっ……なんじゃ、こりゃあ!?」
天空は沖縄の白い砂浜で叫ぶ。バニーガールの衣装を片手に。
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