第3話

差し出されたものを、血の通わない冷たい両手が受け止める。





「……うぅ……?」


「!?」


感じるはずがないのに

確かに感じた温かなぬくもり。



ぼんやりした瞳で自分を見つめる

小さな…小さな赤ん坊だった。






『まさかこの子は、お前達の…?』





「……えぇ…そうよ。

私とルシファーの子供。


だから私達は裁きを受けるわ。

だけど…どうしてもその子だけは守りたくて。」




死ぬ気で逃げ出してきたということは

目の前にいるクレアを見れば一目瞭然。





『話は後だ。来なさい!

我らの空間に匿ってやろう。』




赤ん坊を抱いたまま、クレアを中に促すと





「………」





クレアは静かに首を振った。







「……だめ。私は…もう死の宣告を受けたの。

もうすぐ捕らえに来る。


私が罪を背負わなければ

その子は生きられない。」





『!?…何だと。』






クレアは…ジェイクの腕を握り

ただ真っ直ぐにその瞳を向けた。





「だから、貴方にその子を託すわ。


私の代わりにどうか

どうかこの子を育てて欲しいの――…」






『あぁ……クレア!何だって大天使のお前が死ななければならないんだ…!?



この子を我らが育てろと?

血の通わぬ我らがか?』





「えぇ…もう貴方しか頼れない。


私とルシファーの子だと知れ渡ればその子は必ず殺されてしまう。」




『………』




その真実にはただ口を閉ざすしか出来なかった。





「……お願い。せめて…この子だけは守りたい。」




守りたいの――…。




『………ッ、』






強い意思の前に、首を横に振ることなど出来るはずもなく。






『……わかった。出来る限りのことはしよう。』



「!」



しっかりと…頷き、赤ん坊を抱き寄せる。







「あぁ…ありがとう。

ありがとう、良かった…」






クレアの瞳からは涙が溢れ、安心したように微笑みを浮かべる。





これから…きっと死よりも辛い拷問の末

クレアの清き命が喪われるのだろう。






「……ごめんなさい。貴方と

一緒にいられない私を…許してね?」





心からの愛しみを込めて…最後に

赤ん坊を抱き締める母。

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