第36話天使アゼザルの顕現

「あの、クソ女ぁ!!」




さっきまでの毅然とした態度はどうした?




「あの事は今日のパフェでちゃらの約束だろ?」




「どうせあたしは伊織に言われたら、なんでもする女よ!」




「なんか誤解を生むから止めて」




氷華は怒り心頭といった感じ。




せっかくのデートを台無しにされてお冠。




「幼馴染だと、そんなに偉いの? それとも伊織が微乳派だから優越感あるの? ・・・今度あったら、あの乳を握る潰してやるわ!」




何言ってんだこいつ?




それに俺の性癖を勝手に決めるな。




「伊織。今度会う事があったら、つむぎさんの乳はもうねーわ」




いや、犯罪の覚悟を告げるの止めて。




氷華が三回めのデザート、もといハンバーグ定食をオーダーした、まさにその時。




ガガーン。




地鳴りが響いた。




「なんだ? 氷華、なんかした?」




「してねーわ。なんであたしが関係してるの前提なんだよ!」




氷華がつむぎになんかしたのじゃないなら、何が起きた?




『お客様にお知らせします。当モールの六階に、モ、モンスターが現れました。落ち着いて行動してください。五階以下の皆様は至急、階下に移動し、店内から脱出してください。七階から上の皆様は至急最上階の屋上に避難ください』




モンスターが発生? ダンジョンコアが活性かしたのか?




いや、そんな筈はない。天使メタトロンは時間的な余裕があると言っていた。




「伊織。あたしも行くわよ」




「いや、氷華は屋上に避難してくれ。六階にいる人達を助けに行く」




「地上で探索者の力を使うのよね。伊織に使えるなら、あたしにも使える筈」




「俺だって確実に使えるとは限らない」




「あの時、あたしの為に使えた。なら、あたしがいた方が使える可能性あがるんじゃ?」




「それはそうかもしれないけど」




「あたしも伊織がピンチに陥ったら、使えると思う」




確かに、俺が探索者の力を地上使えた時、氷華の事で頭がいっぱいだった。




「わかった。二人で行こう。確か七階は探索者用の装備のフロア」




「装備は現地調達、行こう。時間がねーわ」




俺達は逃げまどう人をかき分けて、七階を目指した。




「よし、いい剣が手に入った。お金はここに置いておいて」




「なんでこんな時にお金置いて行くんだよ!」




「対価を払うのは当然の義務だろ?」




「そうだな。伊織が最初からおかしいの忘れてわ」




俺は本物の刀鍛冶の打った日本刀を獲物に、氷華はなんか一番高い刀を手に取っていた。




「いくぞ、氷華」




「ああ。任された」




いつもの阿吽の呼吸で階下へと足を進める。




「ゴブリンいきってんなあ」




「また、やべー事に巻き込まれてる気がする」




二人で難なくゴブリン達を倒して行く。




既に犠牲者も見えたが、早く終息すれば助かる筈。




「ヤバい。俺の活躍凄すぎない? このままだと、氷華に告られる」




「図に乗るな。あたしも活躍してるわ! 恋愛シミュレーションゲームかよ」




なんか、せっかく俺のテンション上がってんのに萎える。




「どうする?」




氷華が突然真剣な顔で問いかける。




目の前にロイヤルオーガ、ダンジョンでもAクラス級のモンスターが現れた。




「肩の力抜けよ。所詮、オーガだぜ」




「ここ、ダンジョンの中じゃねーから、所詮じゃねーわ」




「まあ、そうは言ってもだな」




「ほんとだわ。あたし、恥ずかしい事言っちまったわ」




「どんまい、氷華」




「伊織も一緒だからな。一方的に慰められるのおかしーわ」




氷華と息もぴったりと戦いに挑む。




逃げるなんて選択肢があるはずがない。




支援バフを展開する。




ダンジョンと同様にバフが乗っているのを感じる。




明らかに魔法のスキルの効果、つまり、俺の精霊がエーテルを感じている。




「【斬撃】」




スキルの発動一閃。ロイヤルオーガは倒れた。




「すげー簡単で助かるぜ」




「すみません」




「謝る所じゃねーから!」




「地上でもスキル使えると簡単だな」




「急に普通に戻るなよ、ツッコミいれたあたしが馬鹿みたいだろ?」




「子供かよ」




「伊織に突っ込まれた! ボケに突っ込まれるの屈辱だわ!」




絶好調の俺達。だが、負傷者達を発見。




「大丈夫ですか?」




「君達。早く逃げるんだ。モンスターが現れた」




「安心してください。オーガなら倒しました」




「は?」




「え?」




「自衛軍だって無理だろ?」




「大丈夫です。俺は氷華の前だと何でもできるんです」




「大勢の前で、何を恥ずかしい事言ってんだ?」




まずい、どうやら、この人達、探索者のイベントの関係者。




それも報道関連の人達だ。




その上。




「なんでこんなにアドレナリン分泌しなきゃいけねーんだよ」




「氷華も感じてるのか?」




「ああ、とんでもねーのが、来る」




『外部よりの強制アクセスを確認。リザルトアナウンス開始を停止。外部からの強制アクセスに基づき、何者かのフィールドへの顕現のシーケンスを実行します』




頭に天の声が鳴り響く。




「・・・これは」




「なんでこんな処にすげーのが現れるんだよ? ここ地上じゃねーのかよ」




氷華の言う事はもっとも。




この感じ。




「不快極まる。下界はなんと汚らしいのか」




やっぱりか。




俺達の目の前に現れたのは・・・。




真っ白な彫刻の様に端正な男性の顔の何か。




明らかに人外の異形。そう、頭に光の輪、背には三葉の羽根を備え、光り輝くそれは。




「我が名はアゼザル、七番目の月の十日を祝いし時、我に羊をささげよ」




「また最低のクズか・・・。お前ら天使ってのは、性格が悪いと偉くなるシステムか?」




「不快。人間ごときがなんと不敬。我ら天使をクズと? 我は地上の人間を監視する【監視者】その我をクズ? 神をも恐れぬ愚か者には全人類の死をもって償わせる」




「なんで、そんなに煽るんだよ。既に伊織の一言で取り返しのつかねえところまで行っているからな、あたしのせいにするなよ」




「クズと・・・そう氷華が言っています」




「なんでだよ。そんな事言ってねーわ」




「あたしのせいにするなと言われたらするだろ?」




「なんでこんな処で押すなよ、押すなよ理論展開してんだよ!」




「何しろ、俺は天然だからな、キリッ」




「自覚するな! あたし、よくこんなヤツと組んでてよく生きてるな!」




「よく無事でいられたな」




「伊織が言うな! て、言うか、あたし、ほんとやべー彼氏を好きになっちまった」




「お前ら、我をバカにしておるのか?」




なんか、天使がキレた。

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