第3話外道、ネクロマンサー

「姫野!」




「!? なッ! 如月! あんたバカなの?」




姫野に罵倒されるが、ダガーを投擲すると何故か姫野を拘束していた光る輪がほどけた。




「サンキュ! このチャンスを狙ってたの!」




ネクロマンサーの謎の輪から逃れた姫野はその場で大きくバク転すると、スキルを発動した。




「アイスバレット!」




アイスバレットとは氷の弾丸を高速で打ち出す魔法を一瞬で行うスキルのこと。




スキルとは本来詠唱に数分間は必要なシーケンスを一瞬で行ってくれる能力。




ガガガガガガガガガッ!!




凄い!




俺は感嘆した。




何故なら姫野が射出したアイスバレットは数秒で数十発の発射速度。




ガトリング砲の様な威力。




その上、ただの氷の弾丸じゃない。




エーテルがたっぷり詰まっている濃厚な魔力弾。




「姫野。お前、すげえな!」




「誉めてくれるのは嬉しいけど、どうやらこれ位じゃ効き目がないみたいね」




「どうやらその様だな」




「だね。悪いけど、前衛やってくれる?」




「ああ。わかった! 三分時間を稼いでくれ。そうすれば勝てると思う」




「ふうん。完成に時間がかかる必殺技っていう理解でいい?」




「そう思ってくれていい」




初めてまともに話した俺達は息もぴったりにお互いの役割を分担する。




先ず、バフを盛る。マルチキャストのスキルと速度に極フリしたステータス、一瞬で『筋力強化』、『敏捷力強化』、『耐久力強化』、『魔力強化』、『知性強化』、『HP強化』、『MP強化』。




そしてデバフも忘れない。




『魔法耐性弱化』、『物理耐性弱化』




デバフは一度では入らないケースが多い。




同時に何度も入れることで成功率を上げる。




「よし。デバフが入った!」




「あんた、どんだけ同時にスキル展開できるの?」




姫野が呆れた声を上げるが、今はそれ処じゃない。




すかさず姫野と自身の剣へ魔力付与を行う。




「アイスバレット!」




「今だ!」




姫野の魔法攻撃で怯んだ隙に近づき剣を振るう。




ネクロマンサーは真っ黒な骸骨の姿をしたまさに死神のような風貌。




姿はうっすら後ろが透けていて、実体ではないことはあきらか。




しかし、この戦術は誤りだったようだ。




ネクロマンサーの周囲の渦巻く黒い影から触手が現れて俺に迫る。




「チッ!」




思わず舌打ちする。




俺はパラメータを速度に極フリした紙装甲の威力の無い、扱いが難しい剣士職。




とはいえ、最速の速度で突然現れた触手を巧みに振り切る。




どのみち、俺にこいつを倒すだけの火力はない。




大技をたたっこむしかない。




固有スキルを発動させる。




身体から力が吸い取られた感覚がする。




俺の固有スキル『次元波動爆縮アブソリュートゼロ』が発動した証拠。




原子の振動が止まることはなく、エネルギーが最低の状態でも零点振動をしている。しかし、それをも止めてしまうのが俺の固有スキルアブソリュートゼロだ。




理論上、全ての物質、霊子すらも完全停止させてしまう究極の技。




だが、発動しても、スキルのシーケンスに三分もかかる欠陥品。




発射するまで術式の展開が完了するのを待つしかない。




その上、大量のMPを持って行かれるので、しばらく新しいバフもデバフも撒けない。




時間短縮が命のダンジョンでの戦いでスキルを使用していながら発射まで三分もかかるなど論外。




俺に知力と魔力があればもっと短縮できるのだろうが、初めてダンジョンに入った時に設定したパラメータ通り、俺の知力や魔力は微々たるもの。




あるいはMPが大量にあればだが、これも以下同文。




「わ、私は悪くない」




「しゃ、喋った!」




「何こいつ? 人間の言葉がわかるの?」




ネクロマンサーはなんと喋った。




モンスターが人語を話す筈がない。




「全部・・・〇〇が悪い」




「一体何を言ってんだ、お前!」




ネクロマンサーは怨嗟の表情をすると、つんざくような嫌な発音で眷属を呼んだ。




「助けてくれ。私の可愛い子供たちよ!」




「如月。どうやら必殺技はこいつも温存していたみたい」




「どうやらそのようだな」




「ネクロマンサーだもんね。当然ね」




「・・・ああ」




姫野の言う通り、ネクロマンサーは未だ奥の手を隠していた。




ネクロマンサーとは死者を従属させ、自身の代わりに戦わせるまさしく悪霊。




「前だけじゃなくて、後ろからもよ」




「後ろは頼んだ」




「任された。それと例の光るやつね」




「え?」




姫野は例の光る輪の事を話して後ろへと進撃して行った。




成程。




奥の手か。




サンキュ、姫野。




聞いていなければやられていたかもな。




「さあ、援護なしで後二分持ちこたえないとな!」




「私も好きでやった訳じゃない。信じて・・・くれ」




「何を言ってんだてめえは!」




ほの暗い闇から蔦が襲い掛かるが、避けるだけならなんとかなる。




「・・・助けて」




「死にたく」




「止めて。殺さないで」




「あなた・・・せめて殺して」




死人が次々と床から生えて来る。




怨嗟の声を上げながら腐った死体がゆっくりとこちらに向かって来る。




一体や二体ならいい。




それが数百となると話は別。




死者の動きは遅い。




一対一で捕捉される事はない。




しかし、この数じゃ。




「武技『百花繚乱』」




涼しげな声と共に天に花が咲き誇る。




姫野!




やりやがった。




姫野が固有スキルを展開した。




てっきり魔法系の固有スキル持ちかと思ったら、剣士系の武技とは参った。




姫野の方を見るとたくさんの花が咲き乱れ、その中から剣が現れる。




姫野が手にしている剣と同一の剣が・・・その数、百。




あれだな、咲き乱れろ千本桜とか言うヤツ系だな。




「俺まで巻き込むなよ!」




「安心して。この子達は私が敵と理解したモノしか攻撃しない」




「お前を怒らせないようにするよ」




「その方が賢明。みんな行って!」




姫野の号令と共に亡者の群れに剣が闘いを挑む。




単に突撃するだけのスキルかと思ったが、そうじゃなかった。




剣、一本一本が意思を持ち、亡者達と戦いを始める。




姫野自身は一歩離れたところからアイスバレットで攻撃。




おそらく操っているのは姫野の精霊。




百の軍勢には百の軍勢でってことか。




理に叶っているよな。




「この武技使うとMPが七割も持って行かれんの。あらかた片付くと思うけど。連発はできないからね」




「こんな大技連発できるヤツいたらチートどころじゃないだろ?」




無視かよ!




武技の効果時間は様々だが、たいていは三分程度。




姫乃だけで大半は削れるが、残りは各個撃破するしかない。




アイスバレットも温存せざるを得ないし、残りは剣で戦うしかないだろう。




戦いの計算をしていたその時。




目の前の亡者がこう言った。




「お父さん。殺して、永遠にお願い」




女の子の亡者はネクロマンサーとお揃いの。




死神は生前のものであろう違和感のあるものを身に付けていた。




腰にあるぼやけたキーフォルダ。




違和感があるものを持ってるとは思ったが、死者とは執着を持ち、それが姿に反映される。




そこから一つの解が導かれて俺は切れた。




「この外道がぁ!!!!!!」

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