第13話 黒竜の目的は
一直線に伸びる光線の周囲に渦巻くのは熱波。エネルギーの拡散が目に見えてしまうのはそれだけ技の練度が足りないということだ。
事実として威力は申し分ないのかもしれないが、まだまだ改良の余地ありといったところ。
黒竜からの評価はそんなところ。
自身に向けられたソレを全く脅威にも感じていなかった。
「ほぅ、因子が三つも試練を乗り越えるとは初めてではないか? そも複数の因子が一堂に会する子と事態珍しいのだが……」
喜ばしいというよりも困惑が強まっていく。
量ではなく質。一度に多くが見つかるのは悪くはないのだが、一つ一つは大したことがないのでは? といった心配が生まれてしまうのは仕方がないのか。
試練を乗り越えている時点で質も良いと判断できるはずなのに拭いきれないこのモヤモヤ感は一体なんなのか、分からないまま素直に小竜からの一撃をその身に受ける黒竜なのであった。
『効いてない……』
「格の違いというやつよな」
接触の瞬間に衝撃で巻き上がった土煙が黒竜の尾で振り払われた後、小竜は無傷の黒竜を見て絶望する。
たった一撃で打ち倒せるとは最初から思っていなかったものの傷の一つくらいは負わせられると思っていたからだ。
黒竜が驚いているのは因子がどうのという部分であり、自身の攻撃なんてそよ風に等しい事実を叩きつけられてしまうのだった。
「むぅ、しかしこれは良い兆候なのか?」
『さっきからブツブツと……! 同じ竜なのにこんなことするなんて!』
「群れる種の気持ちとやらは理解できぬ。故に、悪いとも良いとも思わぬのだ。謝罪などせぬぞ」
翼の無い竜だからとか竜の中でも種族が別だからとか。
駆竜を含め、ありふれる竜と王種とでは全く別の種類であるらしい。
子を産み生を受ける竜と、世界の声に引き寄せられて生み出される竜の違い。
竜と呼ばれているのは単純に姿が似ているから、というだけのことなのだ。
人が羽虫を嫌いその命を刈り取るように、王種にとっては目障りな駆竜がどうなろうと知ったことではない。
好き好んで殺生を行うわけではないが、別にそこに何かこだわりがあるわけでもないのだ。
「貴様が力を持っていれば犠牲になることもなかったはずだが? 我を恨むのは勝手だがな」
『来るのが早すぎるんだって! もう少し見逃してくれてても良かったんじゃないの!?』
「む? んー……?」
なるほど確かに。いくら因子を持っているとしても、生まれたばかりであれば力を持っていないのも当然なのか。
そういえば昔の昔に王種同士でもそんな話をしたようなしていないような、と黒竜が思い出そうとしているのは一体何百年前の記憶であるのか。
「我、もしかしてやっちゃった??」
「いや俺に聞かれても」
「ヴァーハイトさんって、もしかしてポンコツ……」
「なっ、我に向かってポンコツと言ったか娘! ……悔しいが散々言われてきたので否定はできぬのよな」
膨大な魔力を持つ黒竜と言えど流石に失われた命をどうこうすることは不可能。
奇跡的な復活魔法! なんて秘術は少なくとも黒竜は習得していなかった。
どうする。考えても良い案など出るわけもなく。
自身が言ったところでどの口がと反抗心がより強くなることくらいは黒竜でも察することはできた。
もっとも、数秒考えた後は面倒臭くなってしまって別にいいかと頭を悩ませることはなくなっていたが。
「特別だ。我が稽古をつけてやろう」
『ふざけるな。家族を殺した奴に教えを乞うなんてできるわけない!』
「力が欲しくはないのか?」
『家族を守る力が欲しかっただけだ。だけどもう守る家族もいない』
「ならば敵討ちを目標にすればよいだろう、我を討つために生きろ。そのための力を我が教える」
やれるものならばやってみろ。いつでも受けて立つぞ?
挑発。小竜を煽る黒竜の姿がそこにあった。
どこまでも自分勝手。それこそが竜。それこそが世界の頂点に立つ資格のある者の姿。
「因子について無知というわけでもあるまい。ならば力を得る絶好の機会であろう」
『うぐぐ、あんたに言われたくないがその通りなんだよな……!』
因子。リミリーは聞き馴染みのないずっと気になっている言葉。
お兄ちゃんなら何か知っているのだろうかと思いつつも、聞けないまま黒竜と小竜の話に耳を傾けていた。
事情を知らないままここにいていいのか。事情を知らないことを認識されていないのではないか。
聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥案件に時間が経つほどに聞きにくい意識が強くなっていく。
気になった時に聞いておけばよかったと後悔した今この瞬間に因子って何、と言葉を発せない引っ込み思案な性格はザークと同じ。
この兄妹、揃いも揃って人見知りなのだ。竜相手に発揮するなと言いたいところではあるが、黒竜相手であるのならば仕方がないのか。
もしこの場にスカーレットがいたのならばどんなに良かったか。
そう思っても彼女が飛んでやってくるわけがない。
「そっちの二人は……そうだな。フローントリヒあたりが世話を焼くのではないかと思うぞ」
「もう行っちゃうの?」
「一応、我にも他に用事があるのでな。というかそちらが本命。こっちはついで。近くの町で悪い魔力の流れを感じたのだ。我、ちょっと滅ぼしに行く」
「ちょちょちょちょっと待って!? ほ、滅ぼす?」
「あぁ、面倒だからな。サクッと潰してくる」
「もしかしなくてもあっちにある街の事?」
「リリィ、そっちじゃない。あっちだ」
「貴様らの棲家があるのか?」
「そういうわけじゃないけど、知り合いが」
「ぬぅ、面倒な……」
「じゃ、じゃあ私達がなんとかします! ヴァーハイトさんの代わりにちょちょいっと解決しますから! 街は! 壊さないで! ね、お兄ちゃん?」
「そこまで言うのならば任せよう」
聞き流さなくて良かったと。そこはちゃんと聞けるんだと思うが、それもリミリーの個性ということなのだろう。
自身のことよりも他人のことのためなら動くことができるのは良い個性と言えるはずだ。
「リリィ、勝手に変な約束するなよ」
「で、でもでも街が大変なことに……!」
「もし戦力が必要になった時はどうするつもりだったんだ? 俺を頼るだろう。嫌じゃないし頼ってくれるのは嬉しいからいいけどさ」
「……次はちゃんと相談します」
悪いところがあるとすれば他力本願なところか。
優秀過ぎる兄を持つからこそ頼りきりになってしまっていた。
言うだけ言って自分にできないことは他人に任せてしまうなんて、家族の絆でもなければはた迷惑でしかない。
高く理想を追うのは悪いことではないが、全て叶えられるのかどうかはまた話が別なのだ。
滅多に怒らない兄に強く言われてしまい、しゅんと悲しみブルーな気持ちになるリミリーなのであった。
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