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永家財閥の駒だったという女の人がいなくなった後、スウェットを着た青さんが家の中を案内してくれた。
3LDKの部屋、1室は青さんの寝室、もう1室はお仕事をする部屋、最後の1部屋は物置にしていたそうで、その部屋の中に私から送った段ボールが積まれていた。
リビングの隣にあるのは青さんのお仕事をする部屋、玄関近くの2部屋は青さんの寝室と私が借りることになった部屋。
青さんの寝室の扉をチラッと見ながらドキドキとしてしまう胸の間に片手を置いた。
ダッフルコートのずっと下にあるはずのボタンを思い浮かべ、青さんに気付かれないように小さく笑った。
私の胸には、一平さんから貰った高校のブレザーの第2ボタンがある。
青さんが一平さんから奪ってきてくれたという物。
私が中学2年生、青さん達は高校3年生だった頃の出来事。
あの頃も“お兄さん”だった青さんは、今も変わらず“お兄さん”で。
「何だよ?」
洗面所の鏡を開けると収納棚が現れた。
3面ある鏡の中を全て確認していく私に青さんが不思議そうな顔をしている。
「彼女さんの物はあるかなって。」
「あ~・・・今はないだろ・・・いや、これそうだ。」
青さんが指差した高そうなスキンケア用品などの一式を見て、私は笑いながら頷いた。
「私が女ですみません。
私が青さんの家にいるの、彼女さんは嫌な気持ちになりますよね。」
静かに鏡を閉め、洗面所に置かれた歯ブラシを確認した。
1本しかない歯ブラシを。
それから鏡に映る脱衣場の風景を見て、洗面所に掛けられているフェイスタオルもバスタオルも1枚ずつしかないことを確認した。
「それ何年か前の元カノのだから邪魔だったら捨てて。」
「あ、じゃあ捨てます。」
「早っっ!!
お前そういう所は素早いよな!!!」
「そうですか?
だって邪魔だし。」
高そうなスキンケア用品一式を両手に抱えた。
「返すように言われたら私がちゃんと買ってくるので教えてくださいね。」
キャップを外してボトルの中身を洗面所へと流していく。
「ここ数年は言われてないから大丈夫だろ。」
「これ、どの彼女のか覚えてます?」
「それは覚えてる。」
「本当かな~、青さんって彼女さんいっぱいいたもんな。
私が知ってる限りでも8人はいたよ?
青さんが高校2年生から大学2年生までの間で。」
「そんなもんだったか?
もっといたかと思ってた。」
「青さんヤリ○ンだもんな~。」
「そんなことねーだろ、彼女としかしてねーし。
・・・ていうか、女がヤリ○ンとか言うなって。」
「青さんって男の兄弟しかいないうえに男子校だったから、女子に対する変な理想が相変わらず凄~い。
女だって汗はかきますしおしっこもうんちもしますし、おならもするよ?」
「・・・いや、この歳になってもマジで汗以外については望しかしてない。」
ボトルの中身を捨てながら吹き出すように笑ってしまった。
「青さんの元カノ達、サイボーグじゃん!!」
「そんなわけねーだろ!!
普通にセックスしてたし!!!」
「エッチも可能な高機能サイボーグじゃん!!!
おしっこもしてなかったってどういうこと!?
トイレに行かなかったってこと!?」
「“お手洗い”に行ってた。」
「それがおしっこかうんちだから!!!」
「いや、その後に入っても良い匂いがしただけだぞ?」
「そんな本気の顔でやめてって!!!
笑っちゃうからその顔やめてって!!!」
「お前爆笑するとすぐ屁ぇこくからお前の方がやめろよ・・・・・って!!!ほら!!!
女が屁ぇこくとかマジでねーから!!!」
「だって・・・・っ、だって青さんが・・・・・っっ青さんがぁぁぁ・・・・っっもう、やだぁ!!!」
ボトルを置き、両手でお尻の穴を押さえる。
「もう、ほんっっっとに恥ずかしい!!!」
「恥ずかしいなら我慢しろよ!!!」
「我慢しようとしたけど出来なかったの!!!」
「どれだけケツの穴がゆるいんだよ!!!」
「お尻の穴はゆるいかもしれないけどおマ○コは処女だもん!!!」
「女がマ○コとかマジで言うなって!!!
・・・・え、ケツは処女じゃないってことか?」
「・・・バカ。」
「はあ!?その反応どっちだよ!?」
「いいから早くシャワー浴びてきなよ、そろそろアポの時間だよね?」
「・・・・・だな、望と戯れてる時間なんてないんだった。」
冷静になった顔で青さんがそう言うと、私がいるのにスウェットを勢いよく脱いでいき、ボクサーパンツまで脱いでいき、素っ裸になった。
それを鏡越しで見ていると・・・
「何でちょっとボッ○してるの?」
「望がケツでやったのかと思ったらちょっと興奮した。」
「キモ・・・っ。」
「男なんてこんなもんだろ。
お前の“家”の男達は“普通”じゃねーから、お前こそ男に変な理想を抱きすぎ。」
青さんが意地悪な顔でそう言って、アソコを少したたせたままお風呂場へと入っていった。
昔は私に何の興奮もしたことがない青さんのアソコは少しだけ興奮していた。
「本当のお兄ちゃんよりも私にとっては”お兄さん“で、青さんにとっても私は妹みたいな存在だったけど・・・。
もう20代どころか30歳の女だもんね、私・・・。
一応大人の女にも見えるのかな・・・。」
鏡の中の私は紺色のダッフルコートを着ている。
中学の時だけではなく高校の時にも着ていたダッフルコートを。
高校1年生の時、青さんに最後に会った時にも着ていたダッフルコート。
家族も小関の“家”の人達も来ることが出来なかった私の高校の入学式、そこに来てくれたのは青さんだった。
私と何も関係がないはずの青さんが来てくれた。
4月なのに“あの日”は冬のように寒い日で、中学の時と同じダッフルコート姿しか見せることが出来なかった。
一応大人の女にはなっているけれど、青さんから見たら今日の私は“あの日”とそんなに変わらないはずで。
だから30歳になった私に対して、アソコを少し反応させながらも青さんはこんな感じで接してくれたと分かる。
私のことを大人の女として接することはしなかった青さん。
でも、それで良いと思う。
それで良かったと思う。
青さんの弱みを握り、青さんが会社をうちの財閥に合併させると決めてくれる日まで、それで良いと思う。
それまでは私はここにいられる。
青さんの傍にいられる。
青さんの傍にいることを許して貰える。
青さんが大嫌いな財閥側の人間の私でも、私は青さんにとっては“可哀想な女の子”だから。
「違う・・・私は可哀想なネコか・・・。」
一平さんと奥さんが住む家から追い出されてしまった“可哀想なネコ”を、青さんが拾ってくれた。
青さんはとても優しい人だから。
凄く意地悪なのにそれと同じくらい、昔から凄く優しい人だから。
自然と笑いながら、空っぽになった青さんの元カノのスキンケア用品一式のボトルを、ゴミ箱へと放り込んだ。
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