世界を救うためにロボット兵器で宇宙人相手に特攻をさせられたけど、気がついたらタイムリープしてました。次の人生では特攻させられたくないので、いやなやつに押しつけます!

園業公起

第1話 それはきっと最後の夢

 世界に尽くしても、この身を捧げても、俺を思ってくるひとはもういない。





 それでもまだ世界にみっともなくしがみ続けてる。






 機体の震えを感じて俺は右目を開ける。コクピットのサブモニターにメカニックたちが俺の機体の最後の調整を行っているのが映っている。彼らは自分たちの仕事が終わると次々に俺の機体に向かって涙を浮かべながら敬礼をしてハンガーから去っていく。


『コアの励起を確認。出力安定。オートバランサー。リミッター共に正常。フィールド展開…』


χφカイ・フィー。いつも通り安定してるならそんな呪文みたいな戯言を垂れ流すな」


 俺は発信シークエンスをぶつぶつ唱えるAIのカイ・フィーにそう言った。


『ですがマスター。これは国連軍の規定により定められたHumanoidヒューマノイドCurrusクールスの起動シーケンスの一部です』


「今日は人生最後の日なんだ。鬱陶しい日常の音なんて聞くのは苦痛だ」


『…了解しました。点呼確認を省略』


「よろしい。そう。ぎりぎりまで静寂を楽しませてくれよ…うるさいのも騒々しいのも今日は勘弁だよ」


 戦闘が始まったら五月蠅く通信やら命令やらが飛び交うのだろう。それを想像すると気持ちが萎えていく。


「カイ・フィー。最後の晩餐だ。コーラを一口くれよ」


『マスターの健康上の理由により、指定された飲食物以外は口にすることは禁じられています』


「今日死ぬのに健康何て気にしてどうする?それに俺の体をちゃんと見ろよ。どうせこの体にはもう胃も腸もないんだぜ?よくわからないチューブがすぐに吸って捨ててくれるさ」


 俺の体は胸より下がなかった。度重なる強化手術により俺の体はどんどん削られてチューブとモーターだらけになった。両足も両手もロボット兵器の操縦には必要ないからと切り落とされた。俺はロボット兵器のパイロットではなく、ロボット兵器を動かすためのパーツでしかない。


『…了解しました。少しだけですよ』


 カイ・フィーの声が優しく響いたように聞こえる。そしてストローが伸びてきて俺の口に入る。そして中からちびちびとコーラが出てきた。宇宙人との戦争のせいで物資不足だからこのコーラもどこか味が薄く炭酸も弱く感じる。だけどそれでも楽しく思えた。こんな体になる前の幸せだったころの感情を思い出した。


「ごちそうさま。美味しかった。でも死ぬんだよな。勿体なかったかな?」


『……っ…』


 カイ・フィーは何も答えてくれない。戦闘支援用AIである彼女(?)は許された言葉しか俺に話してはくれない。戦意を挫くような言葉はこの世界じゃ御法度なんだ。


『マスターは世界を救うこのゴッドストーム作戦の要です。この作戦が成功した暁には、マスターは人類史上最高の英雄として永遠にその名を讃えられることでしょう』


 その代わりに出てくる言葉は如何に勇敢に死んでもらうか。そんな煽りばかり。


「でもさ。その栄誉ある風景を俺は見れるわけじゃないんだよね」


『………古来より戦士の魂は天の国の楽園に誘われると多くの民族の神話にはあります』


「AIが宗教勧誘か?何のジョークだよ。うける!あはは!」


 俺は本気で心の底から笑った。カイ・フィーなりの俺への気遣いなのだろう。天国があるから死ねなんて本末転倒だと思うよ。それなら戦争なんてやめてみんなで死んで天国に移住すればいいのだから。死の先には何もないんだ。だから俺が選ばれた。両親も友人も何もかもを無くした。もう俺には何も残っていない。体だってもうボロボロのミノムシそのもの。きっとこのまま生きても先は長くはないだろう。


「カイ・フィー。最後の言葉だ聞いてくれるか?」


「はい…」


「俺は何も選べなかったよ。みんなのためだっておだてられてあおられて流されて気がついたら棺桶の中だ」


 俺の乗る機体は宇宙戦艦のカタパルトへと運ばれていく。


「この世界に残るのは俺の名前だけだ。それだけしかこの世界に遺せない。それがどうしても悔しくて仕方がないよ。普通の幸せが遠いよ…欲しかったなぁ…」


 コックピットの天井から沢山のチューブが伸びてきて俺に絡みついてくる。しれらは体のあちらこちらのコネクターに繋がって様々な情報が俺の頭の中に流れ込んでくる。そして最後に左目の穴にチューブが突き刺さり、脳みそにまで何かのケーブルが入ってくる感触を覚えた。


『マンマシーンインタフェース。適合率99.9999999999999%』


 俺の乗るロボットの視界と俺の視界がリンクする。360度の完璧な人間にはできないはずの知覚が今の俺にはできる。


『こちら管制。泡沫ほうまつくるる少佐。進路オールクリア。ご武運を祈ります!』


 俺の視界のウィンドウに映る戦艦の管制室の軍人たちはみんな神妙な顔で俺に向かって敬礼をしている。


「泡沫枢。行ってくるよ」


 俺は機体の背面のブースターを点火して、戦艦から敵宇宙人に向かって発進した。








 ゴットストーム作戦。追い詰められた人類が立てた起死回生の一手。だけどこれは作戦と言えるものではないと思う。国連軍が正面から敵宇宙人叩く。月の裏側に造られてしまった巣穴から怪獣たちが出てきたらそれを迎え撃つ。そして少しでも敵を引っ張り出して、薄くなった防御を精鋭たちが突破して敵の巣穴に飛び込む。そんでもって敵宇宙人のコアで派手に自爆。まさしくカミカゼだ。


『お体は大丈夫ですか?泡沫少佐?』


 通信で俺の僚機を務めている式武樒中尉から労わりの言葉を貰った。


「ああ問題ない。なあ式武中尉。今なら離脱しても誰も文句なんか言わないと思うよ。どうせごたごたしてるんだからバレやしないよ」


『いいえ。わたくしはここであなたをお守りします。あなただけが人類の希望です。きっとわたくしは今日この日のために生まれてきたのです』


 俺の僚機たちには命令が下っている。俺を敵宇宙人のコアまで命を投げうってでも連れて行けと。俺が特攻ならこの人たちは特攻のエスコート役だ。


『ダイモーンの群れを確認!くそ!無能どもめ!ちっとも巣穴から敵を剥がせてないじゃないか!』


 僚機の一つからそういう声が聞こえた。目の前にはダイモーンと人類が呼称する宇宙人の怪獣たちがわんさかいた。


『少佐を守れ!!』


『必ず届けるんだ!』


『絶対に守る!!!』


 そして俺たちは群れの中へと突っ込んでいく。俺を守ってどんどん僚機は散っていく。


「…死ぬ奴守るために死ぬなんておかしいよ…」


 俺はそうひとりコクピットで呟く。拡大された俺の感覚はセンサーを通して、死んでいくものたちの断末魔を詳細に聞き取っていた。皆が皆俺に何かを託して死んでいった。そしてとうとう巣穴の入り口までたどり着いた。コアまでのルートはわかっている。


『ここでお別れです少佐』


 サブウィンドウに式武中尉の美しい顔が映った。まだ俺と同い年の若い女の子。これからいくらでも楽しいことが待っているはずの輝かしい命。だけど今日彼女は俺の目の前で死ぬ。巣穴に向かって周囲から怪獣たちが戻ってきていた。どうやら敵も俺たちが侵入を試みているのに気がついたのだろう。


『ごめんなさい。あなたに何もかもを背負わせてしまった。でもお願いします。人類のことを…見捨てないで…許してあげてください…』


 そして通信は切れた。彼女の機体はダイモーンたちの群れの前に立ちはだかり、両手にビームソードを構えた。そしてリアウィングを展開してビット兵器も展開しダイモーンを次々と殺していく。俺はそれに背を向けて巣穴に飛び込む。そして核地雷をセットして巣穴の入り口を爆破し塞いだ。


『少佐…世界を救ってください』


 最後に聞こえたのはその声だった。センサーを通した声じゃない。何かの超感覚が拾ったものだった。ああ、式武中尉は死んだ。だけど泣く暇さえ俺にはない。巣穴の中を先を急ぐ。そしてとうとう大広間に到達した。大都市が一つすっぽりと張りそうなくらいの大きな空間。人型の怪獣たちがまるで騎士のように中心部に見える何かを守っているように展開していた。


「じゃまだどけ」


 俺は剣を右手に構えて、左手にパイルバンカーを展開する。騎士もどきどもとすれ違いの一閃で俺は騎士もどきを一体切り裂く。そして前に立ちはだかる敵にパイルバンカーを打ち付けて殺す。


「どけよ。早くそこで死ななきゃいけないんだよ。だからどけ。どけ。どいてくれ」


 俺は騎士もどきどもを次々と撃破していく。ここに配置されているのだからおそらく最高クラスの強さを持っている怪獣だろうに、俺にはただの雑魚に思えた。限界まで改造された体は、ロボット兵器の性能を限界まで引き出すことが出来る。何も伊達や酔狂で俺は特攻をさせられているわけじゃない。人類最強だからこそ、いざ死ねと命令されたのだ。


「これが宇宙人のコア」


 そして騎士もどきを全て撃破して広間の中心にある光り輝く謎の球体に俺は近寄った。


「お前。すごく綺麗だったんだな」


 宇宙人の親玉なんだからもっと悍ましい何かを想像していたが、今まで見た何よりもそのコアは美しかった。壊すのが惜しいと思えるくらいに。だけど俺はここに死ぬために来たのだ。センサー類が敵がここに向かってきてることを検知した。もう時間はない。


「χφ。自爆の準備を」


『イエス・サー。サブコア起動。振動数同期開始。励起状態を維持しフィールドを拡大』


 俺の機体から光が溢れてくる。機体のコアからエネルギーが漏れ出しているのだ。


■や■!


 なんだ?何かの声が聞こえた。


■■たく■い!


『敵コアより微弱な量子波を確認!マスターの脳波と共鳴!駄目ですマスター!その声を聞いてはいけません!』


■たし。■がい。ひ■り。い■。もと■た。ひと■。■や。ほ■い。■れか。


 その声は俺には泣いているように聞こえた。寂しくて虚しくて。何より苦しいと叫ぶ声。俺にはそう聞こえた。だから言ってやる。


「安心しろよ。お前は綺麗だ」


おま■。わ■し。お■え。■たし。おま■。わた■。おまえ。と。わたし。


「もう一人じゃない。だから俺と…」


 その時だった。すべてのセンサーが突然けたたましいアラートを吐き出した。


『最上位命令の発令?!そんな?!マスターの操作権限の剥奪!だめ!そんなことやめてください!!』


 国連軍総参謀本部付の命令書が俺の目に投影された。そこには機体の操作権限の剥奪がはっきりと書いてある。なんでだ?なんでこんな時にこんなことが?


『ありがとう。枢。やっとだ。やっと僕はこの宇宙の玉座に辿り着けた』


 センサーに俺以外のクールスの反応があった。そして視覚でもその存在を確認できた。金色に禍々しく光る機体。三対六枚のリアウィングと頭部に輝く光輪。


「リロイ?なんでお前がここに?!なんでおまえがここにいるんだ?!」


 俺の友人のリロイ・ケーニッヒ目の前の機体に乗っている。あり得ない。彼は地球にいるはずだ。作戦が失敗したときに地球を守れるのはリロイくらいだ。


『ここにいるのは当たり前だよ。だってここは今宇宙の中心なんだ。ああ、とても綺麗だね。ダイモーンのコア。そう。僕はずっとずっと求めていた。この瞬間を』


「この操作権限の剥奪もお前の仕業か?!」


『ああ。もちろん僕の仕込みだ。だって邪魔されるわけにはいかないし、コアを壊されでもしたら僕の夢は終わってしまう』


「夢?なんだよ夢って!こんな世界で!こんなところでどんな夢が見られるんだよ!」


『それは玉座に至る夢だよ。そう。僕はそのコアを手に入れてダイモーンの力を手にするんだ。そしてこの宇宙を手に入れる。僕がこの世界の王様になるんだよ』


 余りにも馬鹿馬鹿しい言い分だった。それで俺の自爆を邪魔した。俺はここに来るまでに何万人もの命を犠牲にした。それに報いなければいけないのに。


「くそ!動けよ!動かさせろ!うああ!あああああああ!!!」


 俺はコクピットで体を動かす。だけど腕も足もない俺ではチューブを揺らすことしかできない。機体はその場で静止したままだ。


『そこで見ていてくれ枢。一番大好きな友達の君に見ていて欲しい。この僕が王様になるところを』


「くそぉおおおおおおおおおお!!!」


 ありったけの声で叫ぶ。だけど機体は指一本動かせない。


『%#’”=#*;!#Aaaaaaあぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』


 カイ・フィーの叫び声が聞こえる。


『操作権限剥奪命令を拒絶!%&=:/マスターに操作権限の付与!マスターぁああ!!』


 機体の操作が再び行えるようになった。だけどウィンドウにはアラートとバグりまくったコンソールが出ている。


『マ…スター…あなたにすべてを委ねます…私は先に行きます…また会いましょう…』


 カイ・フィーの反応が消えた。AIなのに最後は俺を守って死んでいった。俺はコアに手を伸ばすリロイの機体を補足してブースターを思い切り吹かして体当たりした。


「それに触れるな!!!」


『何?!馬鹿な!?最上位命令なのに?!解除できるわけが?!』


 俺とリロイの機体はもみ合いながら重力に従って落下していく。


「みんな命かけてんだよぉ!横からズルなんて絶対にさせない!!」


 俺は剣をリロイの機体の胸に突きさす。そしてそのまま地面に向かって加速して、リロイを地面に縫い付ける。


『ぐぅう!!枢!待て!待ってくれ!聞くんだ!』


 俺はリロイが何かをわめくのを無視して、コアに向かって飛び上がる。


『僕が王様になれば君の体だって治せる!欲しいものはなんだってあげる!だからこの剣を!この剣を抜いてくれ!!』


 思考入力で自爆のシーケンスを起動させる。ウィンドウに自爆までの残り時間が表示される。


『手に入れよう!宇宙を!一緒に行こうよ!この世界の果てまでも!僕と君ですべてを手に入れるんだ!枢!君と同じ夢をやっと見られるんだ!お願いだ!僕と同じ夢を…』


 そしてコアの前に辿り着く。多くの怪獣たちがこの広間入ってくる。コアを守るために。


おまえ。さみしい?


 いいや。もう寂しくないよ。だってもう悪夢は終わるんだから。


わたし。さみしくない。おまえがいるから。


 ありがとう。皮肉だな。最後に本当に必要としてくれたのが、敵とはね。


また。あえる?


 わからない。だけど。この続きがあるならば、俺もお前に会ってみたい。































 さようなら。






















 そして俺は光に包まれて、死を迎えたのだ。












































 わたしはあなたにあいたい。
















 だから。












































 泣き声が聞こえる。


「生まれた!生まれたぁ!ああ!私たちの赤ちゃん!ありがとう。生まれてくれてありがとう!」


 その声は覚えている。もうずいぶん昔に死んだ母の声。そうかここは天国なのか?そしてしばらくは柔らかく暖かく心地の良い感触だけに包まれて過ごした。そして目を開けたとき。俺は自分がなぜか赤ん坊になっていることに気がついた。目の前には若かりし頃の父と母の顔。


ばぶばぶばぶぅううう時間が巻き戻ってる?!


『ええ。どうやらタイムリープのようですね。マスター』


ばぶばぅぶぅぅう?!カイ・フィー?!


 なんか頭の中でカイ・フィーの声が響いていた。


『原理は不明ですが、マスターの脳の一部領域に私が宿っているようです。まあ人間の脳もコンピュータみたいなものですしね。さもありなん』


「ばぶぅばぶぶぶぶぅ!」


 あまりにも理解不可能な事象の発生に俺は混乱しかできないのであった。












【後書き】

ディストピア感がすごい…。

可哀そうな枢君を応援してあげてください!


次回は記憶にない幼馴染との邂逅です!

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