手遅れ
夢に、愛おしい彼女が現れた。彼女の顔は暗い。何かに怯えているような。そんな顔をしていた。
「どうしたの?」と聞けば、彼女は肩を震わせて、大量の涙を流す。
「…死ぬの」
「え?」
「二週間後には…死ぬの」
死ぬ。その言葉を聞いて、俺は頭の中が真っ白になった。
「なんで?」
「わかんない…」
彼女はうずくまる。そりゃ、そうだ。突然、死ぬのだ。
理由もなく、死ぬ。理不尽だ。
「どうしたら、助けられる?」
「ずっと、私のそばにいて」
そこで、夢は終わっていた。気がつくと、朝を迎えていて、俺は起き上がって、手を伸ばしていた。
頬を濡らして。
俺は彼女に会いに行った。
「夢、見たぞ」
彼女は俺を見て、ひどく怯えていた。そして、抱きしめられる。
「怖いよ!」
小さな背中を俺は力強く抱きしめた。
「大丈夫。俺がいるから」
その時だった。
目の前に黒ずくめの男が現れた。すぐに死神だと分かった。
黒ずくめの男は頭の中に語りかけるように、低い声で言った。
『お前は死ぬ』
彼女のことだ。
『どうしたら、助けられる?俺のことはどうなってもいい、この子だけは助けてやってくれ』
深くフードを被っていて、彼の顔は見えない。
『なら、ワシと契約を結べ』
『契約?』
『そうすれば、助けてやる』
『分かった』
こうして俺は死神と契約を結んだ。それで彼女が助かるのなら、いい。
雲ひとつない青空の下、交差点で事件は起きた。
ドォォン…。
大きく鈍い音が響いた。人々の叫び声、カメラのフラッシュ音、パトカーと救急車のサイレン音。
人集りができていて、その中心にいたのは血塗れの男だった。
車に衝突された男は、微笑みを浮かべながら、彼女を見つめた。パトカーのサイレン音。救急車のサイレン音。人々の叫び声。フラッシュ音。
止まらない血に男は死ぬのか、と心のどこかで思っていた。
彼女は泣きそうな顔でこちらを見た。
あぁ、そんなに泣くな。お前は死なずに済むんだから。
お前の代わりに俺が死ぬんだ。それでいい。
彼女の視線は男ではなく、男の後ろにいる誰かに向けていた。
「どうしてよ!」
そう叫ぶ。
どうして、もないよ。俺がお前を助けたくて、こうしたんだ。
「私が死ぬはずだったのよ!どうして!」
『この男はワシと契約を結んだのだ』
「私との契約は!?」
『無効になった。この男の想いの方が強かったからだ』
「なら、また契約を…!」
だんだんと意識が遠ざかっていく。彼女の顔はもう見えない。声も、聞こえない。
そんなに泣くな。悲しくなるから。
『もう遅い』
その言葉さえ彼には届いていなかった。
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