追放エクスクルージョン

佐久間 ユマ

第1話 大きな別れと小さな出会い

「君はもういらない。」


その言葉を吐き捨てられたあの日から半年たった。

一人になってしまった俺は、捨てられた町でクエストをこなして小銭を稼いでいる。


畑での収穫から周辺の魔物狩りまで幅は広く、巷ではスキマバイトとかいったりもするらしい。

現状維持が限界、今日も自分は地元の人たちと町周辺の魔物を討伐して過ごしている。


時折、魔王城へ向かう勇者一行の姿に怒りを込めながら。


斬っては研いで、研いでは斬る。

同じ魔物を斬っては研ぐの繰り返し........。


「なんか...全然覚醒しねえ......!」


追放された時ちょっとだけ思ったんだ。

もしかしたら隠れた才能があるのかなって。

どっかで覚醒してどんでん返しカマせるんじゃないのかなって。


でも全然覚醒しない。

潜在能力が...とか、持っていた武器が実は...とかもない。

勇者のおさがりでもらった剣でずっとスライムを切っている。


無駄に回復にお金をかけてられないので、ギリギリになるまで戦い続ける根性は手に入れたかもしれない。


「はあ...こんなもんか。」


ギルドで報酬をもらった俺は近くの酒場のカウンター席に腰を落とし、報酬金で最低限の飯を注文する。

ここに来ると追放の瞬間を思い出すので、あんまり店にいたくないという思いとのシナジーが良い。


痛みに耐えながら凝った肩を回してほぐしていると、隣からかすれた声のオジサンに話しかけられる。


「...隣、良いですかな。」

「え?」


あっちの席とかめっちゃ空いてんのに、了承する前に座りやがった。

無駄にガタイが良いから窮屈になって仕方がない。


「...って、オッサンさっき一緒に仕事してた人か。」

「おお...そうじゃ。」


オジサンらしい語尾をつける彼と挨拶を交わし、久々に乾杯をした。

まあお互い無料の水だが。


「オッサン、名前はなんて言うんだ?」

「ワシの名前はバレム、お主は。」


「...俺はケイブ、勇者パーティを追放された男さ。」


基本この入りで大体の人の心を掴める。

今までこの掴みで何回も気まずくなるような無言の空間をつぶしてきた。

...が、オジサンはそうじゃなかった。


「奇遇じゃな.....ワシも先日追放されての。」

「...え?」


オジサンは若い衆とパーティを組み、冒険をしていたらしい。

それも珍しくパワー系ばかりのパーティ。

メンバー全員がハンマーやアックスなどの大きな武器を持ち、華麗なコンビネーションで幾度となくモンスターを怯ましてきたらしいが、ある日新たな仲間を追加したと同時に追放されたという。


「なんで...?」

「...スピードタイプが入ったんじゃ。」

「え?」


確かに聞こえた"スピードタイプ"という声。

しかしオジサンのしゃがれた声から聞こえるスピードタイプというワードは珍しすぎて聞き馴染めず、思わず理解しているのに聞き返してしまった。


どうやらパーティ内でもみんな

"スピードタイプが一人入るだけで全然違うよな"

って思っていたらしい。


それはバレムさんも一緒で、スピードタイプが入ればパーティに安定感が生まれるであろうと心のどこかで思っていた。


そしてとある町の酒場、とうとうその禁断のワードを口にした勇者。

全員承諾での多数決の末、バレムさんは追放をされたらしい。


「...そんな出来事が。」

「笑ってくれ、無様なワシを......。」


その後、どうすればいいか分からなくなったバレムさんは一度地元であるこの街に戻り、俺と同じくその日暮らしをしていたらしい。


両肘をカウンターに付き、泣きそうなバレムさんは俺に大きな背中をさすられながら出された安いモンスターの肉に食らいつく。


「ウチの婆さんももうこの世にはおらん...こんな年齢で路頭に迷うとは思わんかった......。」

「バレムさん......。」


子供も孫もいないらしいバレムさんだったが、そのパーティは本当の孫のように愛していたらしく、オジサンが中々することないような深く悲しい顔で落ち込む。


そんな彼の姿を、俺はほっておけなかった。


「...バレムさんが良ければですが、俺とパーティ組みませんか?」

「...え?」

「まあ言っても二人ですけど、出来る仕事の幅は広がると思うんです。」


中途半端なステータスが故追放された自分は、特化した能力の彼が欲しかった。

彼がいるだけで報酬金の高い場所にも挑戦できるかもしれない。


バレムさんは俺をながーく見つめると、覚悟を決めた表情で大きく頷いた。


「もうちょっといいクエストクリアして、いい飯とか食えるようにして、あわよくば魔王も倒そうじゃないですか。」


俺たちは強く手を握り、出てくる飯を食べながらお互いの生い立ちを話すことにした。


「....よろしく...えーっと名前なんだったかの。」

「あ、ケイブです。」


これは、魔王を倒すまでの日常冒険記である。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

追放エクスクルージョン 佐久間 ユマ @sakuma_yuma0839

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ