第22話 異質


 時刻は午後七時になった。完全に日は暮れて、夜の世界が広がっている。


 今回、トウヤとアリアが向かう先は廃墟の病院だった。


 廃墟の建物は夜魔の根城になっていることが多く、今回は二人はそこに住み着いている夜魔を討伐することになっている。


「なるほど。道のりはこんな感じか」


 トウヤはスマホのGPS機能を使用して、廃墟までの道のりを脳内でイメージする。


 ただし、今回向かう廃墟は街から少しだけ離れたところにある。そのため、電車に乗っての移動となる。


「アリアはスマホがないんだったな。切符の買い方は分かるか?」

「はい。それは大丈夫です」


 アリアはポケットに入れていた小銭を取り出して、券売機で切符を購入する。


「お待たせしました!」

「じゃあ、行こうか」

「はい!」


(気のせいだったか……?)


 アリアは気落ちしているかもしれない。そうトウヤは思っていたが、今は全くそんな様子もない。


 トウヤは自分の勘違いだったかもしれないと、今は思うのだった。


 そして電車に乗り込んで二人は目的地へと向かう。電車に乗って三十分ほどで、トウヤとアリアは並んで座っていた。


「綺麗ですね」


 外の景色を見て、アリアがそう呟いた。


「そうか?」

「はい。キラキラと光っていて、とても綺麗だと思います」


 トウヤにとっては見慣れた景色であったが、アリアは見るもの全てが新鮮だった。


 夜の街灯によって照らされている世界をアリアは美しいと思った。


「よし。着いたな。降りてからしばらく歩くことになる」

「分かりました」


 駅を降りて二人はさらに歩みを進めていく。


 田舎というほどではないが、街の中央よりは閑散としていた。最も、それは夜という時間のせいもあるが。


 そしてしばらく進んでいくと、トウヤは視界の中に廃墟の病院を捉えた。


「あれだな」

「なんだか、不気味ですね……」

「まぁ、廃墟はそんなものだろう」


 トウヤは先頭になって病院の中へと入っていく。


 中に電気は通っておらず、微かに入り込んでいる月明かりだけが頼りだった。


「魔力感知はできるか?」

「はい。もちろんです」


 退魔師は魔力の流れをある程度は感知することが出来る。


 個人の力量にもよるが、二人ともに明かりがなくとも十分に周囲を把握することができる。


「あそこだな……」


 廃墟の病院の三階。その突き当たりの一番の奥の部屋に、トウヤは夜魔の気配を感じ取った。


「……アリア。戦闘になる」

「はい」


 トウヤが小声でそう話しかける。


 同時に二人はデバイスに魔力を込めて、臨戦態勢に入る。


 トウヤはその部屋の中の様子を窺うと、そこには──鬼と呼ばれる夜魔が五体いた。


(ステージ4の夜魔だが、油断はできないな)


 鬼の身の丈は二メートルを軽く超え、まるで人間とは思えないほどの圧倒的な体格を誇っている。


 顔には二本の鋭い角が突き出ており、その先端はまるで刃物のように鋭利である。


 口は異常に大きく、牙がその中に無数に生えている。


 室内からは何かをぐちゃぐちゃと咀嚼している音が聞こえ、鬼たちはトウヤたちの気配にまだ気がついてない。


「アリア。行くぞ」

「はい!」


 その声を合図にして、トウヤとアリアは室内へと侵入。


 トウヤはデバイスに魔力を込め、さらには身体強化もして鬼へと切り掛かっていく。


 一閃。


 トウヤはまず、一番手前にいた鬼を袈裟斬りにした。鬼は叫ぶ間も無く地面に倒れ込んでいき、粒子に返っていった。


「はぁ──!」


 アリアもまた、彼女のデバイスである巨大なハサミを使って、鬼を挟み込んで一刀両断する。


 完全に挟み込まれた鬼は反応できず、そのまま体を上下に分断されていった。

 


(残りの鬼は三体。だが、相手はまだ状況を理解できていない。一気に終わらせる)



 トウヤはさらに刀を振り、アリアもそれに合わせるようにして巨大なハサミで鬼を斬り裂いていく。


 互いにまだ一緒に戦うのは二回目だというのに、まるで阿吽の呼吸のように二人はこの場にいる鬼を一掃した。


 それこそ、相手が戦う隙を与えないほどに。


「……」

「ふぅ。終わりだな」


 トウヤはデバイスを納めて、一息つくが──じっと、アリアに見つめられていることに気がつく。


「ん? どうした。アリア」

「あ……えっと。そのなんでもないです! けど、その……やっぱり、トウヤさんの戦い方って綺麗ですよね」

「綺麗、か。まぁ、一応動きには気を遣っているが」

「なるほど。とても勉強になります!」


 そして、トウヤはスマホで無事に今回の任務を終えたことを学院へと報告する。

 

 戦闘自体は五分もかかることはなく、帰り道でトウヤは前回のように別の夜魔が出現しないか考えていたが、今回はそれもなかった。


(今回は特に何もなかったな。やはり、前回が特殊だっただけか)


 そしてアリアとトウヤは電車で街へと戻ってきて、駅前で解散することになった。


「トウヤさん。本日はありがとうございました」

「こちらこそ。アリアとは動きを合わせやすくて、助かった。今後とも、よろしく頼む」

「……えぇ。もちろんです!」


 アリアは笑顔を浮かべて、そう答えるのだった。



 トウヤはアリアと別れ、帰り道を一人で進んでいた。


(今日の晩御飯は何にしようか。最近は葵も家の方が忙しくて、家に来ないからな。あまり手の込んだものは作らないくていいか。残り物を使って、お好み焼きでも作るか?)


 トウヤの住むマンションへの一本道。


 ぱち、ぱちと街灯が明滅めいめつしている。今日の天候は曇りなため、月明かりもほとんどない。


 トウヤは微かな街灯のもと、晩御飯のことを考えながら進んでいたが──目の前に何かがいることに気がつく。




「……ん? なんだあれは──」




 ゆらり。


 何か異質な物体がトウヤの先にたたずんでいる。


 ぱち、ぱちと明滅する街灯にソレは照らされていた。


「夜魔か……?」


 トウヤはソレを凝視し、純白の仮面を被った人物で、真っ黒な外套がいとうを羽織っていることに気がつく。


 この夜の世界と同化している風貌だが、その真っ白な仮面だけが切り取られたかのように浮いている。


 その不気味な存在にトウヤも警戒心を高める。



(存在が掴めない……認識阻害の魔術を使用しているのか。考えられる可能性としては、ステージ2以上の夜魔。いや、魔力濃度的にステージ1もあり得るか?)



 まだ相手は襲いかかってこないが、トウヤはそっとデバイスに触れる。


 認識阻害によって全貌は掴めないが、ソレが纏っている魔力濃度は尋常ではなく高いことをトウヤは察する。



「……やるしかないか。ただ無銘を使うわけには──」



 無銘を完全解放するには、ある特定の条件を満たす必要がある。


 加えて、こんな市街地で莫大な魔力を解放すれば周囲に被害が出てしまう。


 あらゆる状況を考慮して、トウヤは無銘を完全解放せずに刀を抜いた。



「────」



 ソレは何か音を発した。


 瞬間、背後から糸のようなものが溢れ出てくる。まるで生きているかのように、糸はゆらゆらと揺れている。


 そして、その糸は天に舞ったかと思いきや、トウヤに向けて襲いかかってくる。



(この魔力兆候からして、デバイスなのは間違いない。つまり──人間か)



 トウヤはこの一瞬で相手の魔力兆候を察して、この糸がデバイスによって生み出されたものだと理解した。


 そしてトウヤは、異質なソレと戦闘を開始するのだった──。

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