前談


 先日執り行われた祖父の葬儀に参列した。

 「会社に制度がないんだからしかたない」と言い訳ができることをいいことに、本当に直前の前日まで行く気などサラサラなかった。

 両親からの電話にも「え、いけないけど?」とのたまっていて、父親から「忌引きのない会社なんかあるわけねえだろ!!」と怒鳴られたりしていた。

 しかし、父親の言い分ももっともだった。自分の親や祖父母の葬式に仕事でいけませんなんてことになるのは、人間として本末転倒もいいところだ。

 会社に文句をいうのは自分の役目だと勝手に思っている私は、思い立つと同時電話を取り、会社の役員に電話した。

 すると、トントン拍子に話が進み、電話した日と翌日の葬儀に参加できるように取り計らってくれる運びになった。

 ……私は電話口で「忌引くらいあってもいいんじゃないですか?」と伝えた。

 決して自分が葬式に出たいとか、そういうことではなかった。

 なかったのだが、できるようになってしまった。

 渋々、というかなし崩し的に、私は片道60kmの距離にある実家に帰って、祖父の葬儀に参列することにした。


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