ポゼッション

ツヨシ

第1話

殺人があった。

俺の住んでいる街で。

どうやら渡会という男が殺されたようだ。

自分のマンションの玄関で。

包丁でめった刺しだそうだ。

まあ日本では殺人事件はそこまで珍しくもない。

俺は気にもとめなかった。


殺人の続報だ。

犯人は渡会と面識がなく、渡会のマンションも知らず、渡会に会ったのも渡会のマンションに行ったのも殺した時が初めてで、自分がなぜ渡会を殺したのかわからないと証言しているようだ。

――そんなことあるかよ。そんなの嘘に決まっているさ。

俺はそう思った。


また殺人があった。

小さくもないが大都会と言うにはまだまだのこの街で。

殺されたのは鍵山と言う男だ。

自分の家の前で、包丁でめった刺しだそうだ。

犯人はわざわざ西隣の県からやってきて、鍵山を殺したようだ。

――この街で二件連続殺人事件とはな。

俺の感想はそれだけだった。


また続報が入った。

犯人は鍵山と面識がなく、鍵山の家も知らなかったそうだ。

それなのに西隣の県から電車でやってきて、鍵山を殺したのだと証言している。

動機は一切わからないそうだ。

――これも嘘だろうな。でもなんだか前の事件と似ているなあ。

そこで俺の思考は止まった。

同じ街の事件だが、所詮は他人事だ。

俺の興味をひくものではない。

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