雪が降る街の夜に

緑野こうら

雪が降る街の夜に

「ボス!B班準備完了です!」

「「A、C、D班も準備完了です!」」

「よし、爆弾を起爆する。早く撤退しろ。」

「「了解!!」」

ド−−ン!!

作戦は順調に進んでいる。あいつらもアジトに帰っている頃だろう。後は俺がここから出て帰るだけ、だったのに。

ウ〜ウ〜

パトカーのサイレンの音がする。

「くそっ、もう来たのか。」

「お前は完全に包囲されている!大人しく投降しろ!」

ここまで順調だったのにこんなところで捕まるなんてな。だが、大丈夫だ。盗んだものはあいつらが持っている。それにあいつらなら俺がいなくても安心だろう。

「仲間はどこにいる!!」

「俺は何も知らねぇよ。それよりも少し怪我しちまったんだ。なにせあんな大規模な爆発だったしな。ということで医者を呼んでくれねぇか?」

「はぁ。今呼ぶ。少し待っておけ。」

prrrr

景観が電話をしに行った。本当に医者を呼んでくれるつもりなんだろう。

「すぐに来るそうだ。」

それから十分間尋問が続いた。

「お待たせしました。」

医者がついたらしい。本当にすぐに来たな。

「結構出血しているので、医務室に行ってもいいでしょうか?」

「もちろん大丈夫ですよ。ですが、二人っきりで大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫ですよ。」

俺はそのまま医者に連れられて医務室についた。だが、ここで一つ問題が起きた。俺は人とのコミュニケーションが苦手なんだ。しかも相手が女性となるとなおさらのことだ。

「どこか痛いところはありませんか?」

「だ、大丈夫です。」

しばらく無言が続いた。俺はこの時間に耐えることができずになんとか言葉を紡いだ。

「す、好きな季節はなんですか?」

「え?えっと〜、私は冬が好きですね。」

「冬のどこが好きなんですか?」

「私雪が好きなんです。綺麗じゃないですか?雪って。」

「今から見に行きませんか!」

「雪をですか?」

「はい!」

今日はちょうど雪が降っているし、お礼をしよう。

それから30分後俺は証拠不十分で釈放された。

「待たしちゃってすいません。すぐに行きましょう。」

「どこに行くんですか?」

「ここから近いとこにこの街がすごく綺麗に見えるところがあるんですよ。」

それから20分間俺達は歩いて目的地へと向かった。

「名前聞いてもいいですか?」

「冬子です。そちらは?」

「唯人です。」

その間に他愛のない話をしたり、連絡先を交換した。

「ここです。」

そこにはビルや民家の明かりを反射した雪が目の前に広がっていた。その光景はまるでプラネタリウムを見ているかのようだった。

「わぁ〜!」

「気に入ってもらえましたか?」

「はい!とっても綺麗です!」

彼女が浮かべた笑顔はこの景色に劣らないほど、いや、むしろ勝るほど綺麗なものだった。このとき俺は気付いた。なぜ俺が彼女にこの景色を見せようと思ったのか。

「この場所、実は死んだ俺の両親がよく連れててくれたんです。」

「えっ!?そんな大事な場所に私なんかを連れてきても良かったんですか?」

「はい。むしろあなただから…」

「?」

「あのっ!もしよかったらまた雪が降ったときこの場所で会いませんか?」

「もちろんですよ。」

それから時間はあっという間に過ぎた。俺は彼女を病院まで連れていき、そこから仲間を読んでアジトまで送ってもらった。

「ボスどうしてこんなに遅くなったんですか?」

「お前には関係ない!」

「えぇ〜。」

アジトに帰ってから、俺は仲間たちを全員読んだ。

「俺達の”作戦”まであと一週間を切った。この6日間は各自で準備をしておけ。必ず成功させるぞ!」

「「おぉ〜!!」」

この”作戦”だけは必ず成功させなければならない。俺達がこの街で1番のギャングになるためにも。

次の日、俺は仲間とともに車を見に来ていた。

「逃走用の車両ならでかいほうがいいんじゃないんすか?」

「いや、でかい車だとスピードが出ないから逃げ切れるか怪しい。金ならたくさんあるからな。乗れる人数が少なくてもできるだけスピードの出る車にしよう。」

「了解!」

車両はこれで用意ができた。次は、

ピコン

ん?誰からのメールだ?

【昨日はありがとうございました。また行けるのを楽しみにしています。冬子より】

【僕も楽しみにしていますよ。】

「ボス〜誰からのメールっすか?彼女さんっすか〜?(笑)」

「ちげぇよ」

ゴンッ

それからそいつは1日中頭を痛そうにさすっていた。調子に乗るからそうなるんだ。

次の日は、武器の整理をしていた。

「ARは何丁ある?」

「20丁あります!」

「SMGは?」

「16丁です!」

「よし!それだけあったら足りるな。」

ただ、弾薬は少し足りない可能性があるな。

「俺は弾薬を買いに行ってくる。」

「わかりました!」

久しぶりにあいつの店に行くことになるな。

「あらっ!久しぶりね。」

「ああ。」

「今日はどうしたの?」

「ARとSMGの弾を有るだけくれ。」

「……あの”作戦”もうすぐなの?」

彼女は下を向いて尋ねてきた。

「あぁ。」

「あんまり彼女さんを悲しませないようにね。」

「は!?」

「はい。用意できたわよ。」

「誰から聞いたんだよ!」

「下の子たちが言ってたわよ?」

「あ・い・つ・ら〜!!」

帰ったら、お灸を据えてやらないとな。

「死なないでね。お得意様が減っちゃうから。」

「誰が死ぬかよ。じゃあな。」

「またね…。」

これで弾の準備も整ったな。あと4日間はアジトでゆっくりしておこう。あの”作戦”が始まるとゆっくりしたくてもゆっくりでいないからな。

「ふぅ。」

俺はアジトで久しぶりの煙草を楽しんでいた。

ガチャ

「どうした?」

「ボス、明日からは何をするんですか?」

「特にすることもないからゆっくりするけど。」

「わかりました。それだけです。失礼しました。」

「あ、ああ。」

何だったんだあいつ。

次の日、俺はいつもより少し遅く起きた。そして朝食を摂ろうとしたときスマホに一通のメールが来ていることに気がついた。仲間からのメールだった。

【ユダがいました。】

ユダ、つまり裏切り者のことだ。俺達の組織に裏切り者が?誰が?いや、そんなことよりこのメールは3時間前に来ている。だとしたらアジトは今頃どうなっているのだろうか?居ても立ってもいられなくなった俺はすぐに家を飛び出しアジトへと向かった。無事でいてくれと願いながら。だが、現実はそこまで甘くなかった。俺が来た頃にはすべてが終わったあとだったのだろう。そこには中を打ち合ったと思われる痕跡だけが残っていた。

「誰か〜!いないのか〜!」

「ボ、ス。」

「っ!、大丈夫か?」

「早く、武器屋の、ママの、とこに。」

「わかった!だけど、お前も。」

「無駄です。俺は、もう助かりません。だから、早く、ママのとこ、に。」

そいつはだんだん白く、冷たくなっていった。まるで雪のように。

ピコン

こんなときにメールか。

【私はいいから彼女さんのとこに行ってやんな!こいつらどこからかあんたの彼女のことまで調べてたみたいだ!早くいかないとその娘死んじまうよ!】

俺は今選択を強いられている。昔からの友人を助けるか最近知り合った人を助けるかの選択を。普通の人なら前者を選ぶだろう。だが、俺には後者を選ばずにはいられない理由があった。だからこそ俺は急いだ。彼女を助けるために彼女の下へ。

(くそっ、間に合え、間に合え!)

そう願い、急いでいると目の前に3台の車が現れた。

(これはっ!)

奴らの車だ。俺はそう思いアクセルを全力で踏みその3台の車に向かって突っ込んだ。俺の車はスポーツカーだ。最高速度は軽く200kmは超える。そんな車が全速力で突っ込んだらどうなるだろうか?答えは簡単だ。爆発するに決まってる。俺はそんな爆発をもろに食らった。それは相手も同じだろう。だが、これでいいんだ。俺達以外の被害は出なかった。少しの誤算はあったが”作戦”も成功と言って過言じゃないだろう。ここまでくればわかるだろう。俺達の”作戦”とは他ギャングとの抗争だ。その作戦を相手のギャングにバラされ日程は早まってしまったが仲間が殺した分と俺が今ここで殺した分を合わせれば相手のギャングも崩壊寸前にはなるだろう。まあ、俺達のギャングは完全に崩壊しているけどな。ははっ。ん?なんか冷たいな。俺は重たいまぶたを開け空を見た。そこにはあの日見たような雪が降っていた。俺は今にも消えそうな意識の中一言だけメールを綴った。最後に、この気持ちだけは伝えないとと思った。ただ、直球に伝えるのは少し小っ恥ずかしいというか、面白みに欠けるというかとも思ったので少し言葉を変えよう。昔の人の言葉に『月が綺麗ですね』という言葉があると聞いたことがある。この言葉を借りようと思う。だけど、俺達にはこっちのほうが伝わりやすいと思う。

【雪が綺麗ですね。】

やらないといけないことはこれで終わったな。俺はそう思いきれいな雪の中で眠ることにした。

彼から一通のメールが来た。

【雪が綺麗ですね。】

(いま雪が降ってるんだ。)

私はそう思いカーテンを開けて窓の外を見てみた。

【本当に綺麗ですね。】

彼はあの約束を覚えているのかな?それとも、覚えていないのかな?もし覚えていなかったら少し悲しいな。でも私は待つよ。君が迎えに来てくれるその日まで。






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