第29話 影の視点
『相川絢を確保しました』
耳に埋め込まれた骨伝導回線が結果を伝え、地下駐車場の天井に身を隠している人影は耳から小指を抜いた。
駐車場の風景は爆弾によっては破壊されたように凄惨なものになっている。
だが影は暗闇に身を潜め状況だけを機械的に動く瞳孔に収めていった。
部屋の中心は多少窪み、球型の爆発の跡が見られる。
そこに現在は止まったスプリンクラーの水が静かに揺らめいていた。
瞳孔が水平に動き駐車場の壁際を見渡す。
車がひしゃげて押しつぶされており、外側から強い圧力によって破壊された事が推測できる。
物理的な破壊の他にも誘爆された車両が見えた。
柱は基礎工事のワイヤーが丸見えになっており、その近くに二人の人物が見える。
一人は十七歳の青年、検索を開始するまでもなくこの辺りによくいる学生だ。
現在は気を失っているようで動く気配が無い。
そしてその学生に膝枕をしながら頭を撫でている少女が聖母のように佇んでいる。
先ほど突入してきた警備軍に相川絢を堂々と引渡し、『気にするな』の一言で、軍を追い払った少女。
マフラーが濡れるのも気にせず濡れた地面に座っている。
影はしばらくそんな二人を眺めていたが、コール音に気付き再び耳に小指を当てた。
『だ、駄目ですねー……はあ……んぐ、み、見つかりません』
声の主は歳の割には幼い声で、街中を走り回っていたのか息が完全に上がっている。
『え? そうなんですか!
わ、分かりました了解です。
ええ怒ってません。
出ろといわれて出たまでですから、情報も無く走り回り無駄骨折ったなんて思ってませんから。
任務じゃ仕方ないです任務じゃ』
明らかに不機嫌そうな声で携帯電話を切ろうとした女に、影は相川の情報を報告した。
『え……それは、そうですね。
解析してみないと分かりませんが相川さんの持つフォームが変化した理由は進化に近い……いえ、正確には進化ではなく、再生化が体全体を覆い肉体外にも影響を及ぼす程になった、なんですが……しかしその程度の要因でシフトしたのでは他にも多数のシルバー・エイジが高次元へとシフトしているはずです。
抑圧された環境は生物が成長する上で最低必要条件ですが、それ以上に『激的な要因』が必要になります。
地球に巨大な隕石が落下し生命が生まれたように。
身体鋭利化と内部燃焼機関の二つの再生化を受けていた彼女は元々不安定な個体――ブリッドスタイルの代表的なサンプルです。
それと暴走の関係性が――へ? あ、はい、分かりましたよ。
じゃまとめておきますから後で拝見でもしてください。
前みたいに流し読みは駄目ですよ』
女は日頃から仕事に対して不満が溜まっているのか愚痴と小言を続ける。
と影はその小言を打ち切るように一言だけ通信相手に伝えると通話を勝手に切られた。
モノを頼めば頼むほど不機嫌になるのだから困ったものだが、それ故に愛しさもあるものだと影は小さく笑い、ささやかな平穏に身を置く二人を見て音も無くその場を後にした。
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