いきなりドラゴン娘!~ドラゴン、現代に転生す~
火蛍
第1話 四竜集結~いきなりドラゴン娘!~
ここは、現実とは少しだけ違う歴史を持った西暦二〇二五年の日本。
その某所に大きな邸宅があった。
朝七時、邸宅の一室で一人の少女が目を覚ました。
胸のあたりまで伸びた真っ赤な髪、人間とはかけ離れた形をした細く尖った耳、強気な印象を与える釣り目、その目の奥で燃えているかのような橙色の瞳。
そして彼女の頭からは二本の黒い角が、腰の中央からは真っ赤な鱗に覆われた一本の太く長い尻尾が伸びていた。
『目を覚ましたね?そこを出て下に降りな』
目を覚ました少女に何者かが声をかけた。
少女は周囲を見回すがそこに声の主は見当たらない。
しかし少女には声の主の正体がわかった。
そしてその声に従い、少女は今いる部屋を出て階段を降りて下にあるリビングルームへと向かった。
少女が向かったリビングルームにはすでに他に三人の少女たちが集まっていた。
彼女たちはそれぞれ青・金・緑の髪を持ち、また赤髪の少女と似たような角と尻尾を持っていた。
(誰……?)
少女たちは顔を見合わせるなり頭上に疑問符を浮かべた。
彼女たちは角や尻尾の形状に見覚えがあったものの、顔を見るのが初めてだったのである。
『集まったみたいだね』
声の主は四人の少女たちが集まったのを確認すると彼女たちに声をかけた。
「お母様、これはいったい……?」
青髪の少女が天井を見上げながら謎の声の主に対して問いかけた。
曰くお母様と呼ばれる謎の声の主は星竜ステラであり、この世界の創造主にして少女たちの生みの親でもあった。
そんな理由から他の少女たちもその認識に違和感を感じることはなかった。
『とりあえずアンタたちの姿を作ってやったよ。今一度よく見てみな』
ステラはそう言い放つと少女たちの前に鏡を設置した。
少女たちは目の前に映るそれを見て驚愕することになった。
「なんだこれ⁉︎まるで人間じゃねえか⁉︎」
赤髪の少女は自分の姿を見て驚いた。
目の前に映る少女が自分であることが信じられなかったのである。
他の少女たちも自分の姿を見て赤髪の少女同様に驚いていた。
「信じられません。これまでの姿は……?」
「ボクたちどうして人間になっちゃったの!?」
「お母様。説明してほしいな」
少女たちはステラに説明を求めた。
すると謎の声はその言葉を待っていたと言わんばかりに次なる言葉を発した。
『アンタたちは今、ドラゴンの肉体を捨てて人間として転生している。いわばその世界で生きるための姿にしてやったんだよ』
ステラは少女たちの姿について説明した。
曰く少女たちは元はドラゴンであり、この世界に適応させるためにステラが人間の姿に作り変えたのだという。
「じゃあそこの青いのはメルクリウスで、黄色いのはライトハドロン、緑のはグラファムートってことか」
「では貴女はダイナブラスターということですよね」
少女たちはステラから明かされた事実を通じて互いの正体を知り合った。
赤髪の少女は元は火竜ダイナブラスター、火を司るドラゴンであった。
それと同様に青髪の少女は水竜メルクリウス、金髪の少女は雷竜ライトハドロン、緑髪の少女は地竜グラファムートである。
「でも人間って俺たちみたいな角とか尻尾は生えてなかったよな」
「どうして完全な人間にしなかったのですか」
『角と尻尾を残しとかないとアンタたちは元がドラゴンって認識できないだろう』
ダイナブラスターとメルクリウスが尋ねると、ステラは転生させたドラゴンたちの人間としての身体に角と尻尾を残した理由を語った。
それは完全な人間にしてしまうと元がドラゴンである彼女たちが永遠にその正体を認識できないであろうという配慮であった。
「でもボクとダイナブラスターには翼もあったよね」
「俺たちの角と尻尾は残したのになんで翼はないわけ?」
『人間は翼で空を飛んだりしないんだよ』
「なんと律儀な……」
ライトハドロンが疑問を呈するとステラは当然のようにそう言い放つ。
飛行能力を与えなかったのは生活圏はあくまで人間と同じ陸上で収めるという思惑あってのものである。
妙な部分への拘りにメルクリウスは独り言を零した。
「で、ウチらはなんで人間の姿に?」
『うむ。ではそれについて話そうか』
ステラはドラゴンたちを人間の少女に姿に転生させた理由に触れこんだ。
ステラの声色が変わったことに少女たちは緊張を走らせ、背筋を強張らせる。
『以前お前たちが世界を崩壊させかけたことは身に覚えがあるな?』
ステラが問いただすと四人の少女たちは気まずそうに黙って首を縦に振った。
かつてこの世界の人類が文明を築いて間もなかった頃、四体のドラゴンたちが己の力の誇示のため互いに争い天変地異を起こしたことがあった。
大地は裂け、川と海は荒れ狂い、数年にわたって雷雨が続き、毎日のように世界とどこかの火山が噴火を起こす。
そんな極限の環境が生物を死へと追いやっていき、あわやすべての生物が絶滅する寸前まで追い込まれたのである。
『アンタたちのくだらん争いに巻き込まれたこの星の生物たちが哀れでならんわ。アンタたちを鎮めてここまで再生させるのに百年もかかったんだからね』
ステラは呆れたように続ける。
四体のドラゴンたちによって荒れ果てた環境の再生にはステラでさえも時間を要し、およそ百年の歳月をかけて手を加えることでようやく近い状態まで復元させられたほどであった。
『アンタたちには力を与えすぎた。だから持ってる能力の大半は没収したよ』
「えーマジかよー⁉︎」
『文句ある?』
「いや、ないです」
ステラは文句を垂れてきたダイナバーンを一言の凄みで黙らせた。
元の力そのままに転載させてもすぐに同じ軛を踏むだけなため、その力に調整を施したのである。
『でも我とて温情というものはあるからね。全部を没収したわけじゃないし、ここでアンタたちにチャンスを与えてやるよ』
ステラがここにきてドラゴンたちを転生させた理由、それは彼女たちに更生の機会を与えるためでもあった。
「チャンス?」
『そう。これからアンタたちには人間として生きてもらう。そして人間たちから今のアンタたちに必要なものを学んでもらうのさ』
ステラは更正の条件を言い渡した。
それは人間として生きることで人間たちから学習することであった。
「俺たちドラゴンが人間から学ぶことなんてあるのか?」
「その通りです。なぜあんな矮小で脆弱な生物から……」
「ボクたちが人間ごときに劣ってるって言いたいの?」
『お黙り!アンタたち、今の自分が見下してる人間そのものだってことを忘れてるね?』
反発するダイナブラスター、メルクリウス、ライトハドロンをステラは一声で黙らせた。
ドラゴンたちにとって人間は取るにも足らない有象無象の内の一つであり、そんな存在から何かを学ばなければならないことが不服でならなかった。
『とにかく。猶予は三年間、それまでに我が認めなければ一生そのままこの世界で生きてもらうから。いいね?』
ステラは少女たちに突き放すように告げた。
力こそが至上であるという考えを持つ彼女たちにとって力を失い、姿を失い、何もかもが不完全な状態の人間の姿のままでいることは事実上の死にも等しい制裁である。
そして彼女たちにとって生みの親であるステラの決定は逆らうことのできない絶対のものであった。
こうして、同じ屋根の下で四人のドラゴン娘たちが人間として時を過ごすことになったのであった。
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