ビンタで迎える大団円⁉

 この日。そろそろ昼休みが終わるというのに、スカーレットは教室に戻ってこなかった。

 やがて、始まりの鐘が鳴った。その音が鳴り響く中、ドアが開いて。


「ロベリア!」


 駆け込んで来たのは、バーノンだった。


「まずいことになった。スカーレットが、女子の軍団に連れて行かれたらしい」

「え⁉ どこ?」


 考えるよりも先に、教室を飛び出していた。スカーレットのことなんか、放っておけばよかったのに。


 バーノンに続いて校舎の裏に行くと、女子の集団が見えた。その中の一人が、スカーレットの髪を、わしづかみにしている。


「お前たち、何をしてる!」


 バーノンと私に気づくと、彼女たちは、


「これ以上、アンセル君にベタベタしないで!」

「調子に乗んな、ブス!」

「六股ババァ!」


 そう言い捨てて逃げていった。


 地面の上にへたりこんだスカーレットは、放心状態。制服は土に汚れ、髪はボサボサ。地面に落ちたピンクの髪飾りは、踏み潰されたのだろう。ぐしゃぐしゃに壊れていた。


「大丈夫?」


 差し出した手を、パシッとはたかれる。


「何様のつもりよ、あんた! ヒロインは私! あんたは脇役! ざまぁされて終わりなの! それなのに、あんたがちゃんと悪役をやらないから、私がこんな目に遭うの! あんたのせいよ!」

「……」

「全部、あんたのせいなんだから! 何もかも、あんたが悪いんじゃない!」


 私のせいにしないでよ。自業自得でしょ。言ってやりたいことは、色々あったけど。

 スカーレットが言った、その瞬間。

 私は、思いっきり、ビンタしていた。誰かをぶったことなんて、前世でもなかったのに。気がついたら、手が出ていた。


 しかもビンタとともに、わっと、声が上がって。

 振り返れば、クラスメイトが遠巻きに、こちらを眺めていたのだった。私たちの後をついて来ていたらしい。 


「二人だけで話をしてきます」


 バーノンに告げて、私はスカーレットの腕を引っ張り、移動する。


「何よ! 私はこのゲームのヒロインよ! 何をしても許されるはずでしょ?」

「あのね、まだ分からないの? 確かに、ここは『マジですか』の世界だけど、この世界はゲームじゃないの。股掛けプレイはゲームだけ。そもそも何でも許されるなら、そんな目に遭ってないでしょ?」

「何よ、偉そうに!」


 最初だけは、威勢よく言い返してきたスカーレットだったけど。


「ちょっとくらい、いいじゃない。生きてる間、いいことなんか、全然、なかったんだもん! 入った会社は隠れブラックだし! 上司は裏で私ばっかり怒るし! 先輩もちょっとミスしたくらいでうるさいし。同期は同期で私をバカにして、誰も助けてくれないし……その挙げ句、突っ込んできたトラックに、はねられて死んじゃって……私の人生、何もいいことなかった。私が何したって言うのよ」

「そうやって、何もかも人のせいにしてるからでしょ?」

「何よ……なに、ょ……」


 段々とその声は弱くなっていって、最後にはわぁわぁと泣き出した。


「今までことは、さっきのビンタでチャラにしてあげる。でも、次、何かしたら……」


 私は泣きじゃくるスカーレットの胸ぐらを掴んで、とどめを刺した。


「全身の✕✕を✕✕いで、手足の✕✕を一本ずつ✕✕って、体を✕✕に✕✕んで、海に✕✕めてやるから」


 ゲームの中でロベリアが言っていたセリフをそっくりそのまま拝借した。最後はにっこり笑って、突き放す。


「分かった?」


 コクリとうなずくスカーレット。これで一件落着……のはずだった。


 それが。

 一週間ほど経ったある日のこと。


「あの……おはよう、ロベリア」


 登校時間に寮を出ると、スカーレットが待ち構えていたのだった。


「今までのことは、本当に、悪かったと思ってるわ」


 私が素通りしても、彼女は背後霊みたいにひっついてきた。次の日も、また次の日も、次の次の次の……とにかく毎日、私を待ち構えるようになった。

 その間に、スカーレットはクラスメイトや攻略相手にも一人一人、謝ったらしい。エリーやティナ、それにバーノンにも。


 だからといって、スカーレットがみんなにすぐ受けいられるかと言えば、そんなに簡単ではないようだけど。


「おはよー、ロベリア。ねぇ、ねぇ。昨日の課題、やった?」

「……」


 私は今日も、朝から絡んでくるスカーレットを無視した。

 謝ったからって、ちょっと、馴れ馴れしくない?

 チャラにするとは言ったけど、ビンタ一発で水に流したのは、甘すぎたのだろうか。

 ため息がこぼれたところで、スカーレットが私の肩を叩いた。


「あそこ、バーン先輩いるよ?」


 言われなくたって、とっくに気づいてた。でも、今さらながら、相手は王子様で。色々と思うところがあって、最近、私は少し距離を置いていた。

 今のところは、まだ、ギリギリ、友だちだけど、このままでは完落ちしてしまう。


「いいの? ロベリアに気づかないで行っちゃうよ?」

「余計なお世話」

 

 言い返した時にはもう、スカーレットは駆け出していた。


「バーン先輩〜!」

「ちょっと!」

 

 私は慌てて、スカーレットの後を追う。

 そういえば、別の乙女ゲームには、ヒロインと悪役令嬢が仲良くなる大団円エンドがあった。『マジですか』にはなかったルートで、いいなぁなんて思ったけど。

 でも。

 スカーレットとは、親友になれそうもない。まぁ、友達になるつもりもないけど。

 ……今のところは。

 


             ─ 終 ─



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