11 ギルマスざまぁ…

ギルド幹部たちを打ち倒し、俺はギルド本部の奥へと進んだ。


「幹部どもだけではなさそうだぞ」

神威の低い声が耳に響く。


「オウルか」


長い廊下を抜けると、大きな扉が目の前に現れた。

扉の向こうからは何か禍々しい気配が漏れ出している。


「行くぞ」

俺は黒炎の霊刃を構え、一気に扉を蹴り開けた。


中には、ギルドマスター、オウルが待ち構えていた。


長椅子に腰掛け、余裕の表情を浮かべていた。

「久しぶりだな、修羅。」


「腐敗の中心」


オウルは肩をすくめて笑う

「腐敗?そんな大袈裟なものじゃないさ」


その態度に、俺の怒りはさらに燃え上がった。

「奴隷商人との取引。呪術を使った魔物の操縦。お前が指示していたんだろう。」


「そうだ。だから何だというんだ?」


オウルは立ち上がり


禁忌とされている魔薬のポーションを飲み干し

その手に

赤黒い

禍々しい魔力を

纏わせた


オウルの瞳も

赤黒く光る


「一人でここまで来たことは褒めてやる。だが、今の俺を倒せると思うな」


俺は黒炎の霊刃を振りかざし、音を裂くように一気に距離を詰めた。


だが、オウルは余裕の表情を浮かべ、赤黒い魔法陣を展開する。


俺の刃が叩き込まれる瞬間、その赤黒い輝きが硬質な壁のように立ちはだかった。

霊刃が弾かれ、鈍い衝撃が俺の腕を痺れさせる。


「その程度では!」

オウルの声が響くと同時に、赤黒い魔力の波動が爆発するように広がった。

重く、圧迫するような力。


体の自由が奪われそうになる。


黒炎の霊刃を引き戻し、構え直そうとするが視界の隅に不気味な赤い光が蠢いた。


「くっ…!」


地面。

オウルの足元に魔力が集まり

無数の蛇のような魔法の鎖が

俺の足を絡め取ろうと這い寄ってくる。


神威の警告が鋭く飛んだ。

「足元狙われてる、気をつけろ!」


咄嗟に加速魔法を展開し、爆発的な速度で攻撃範囲から飛び退いた。


だが、オウルは逃がさないとばかりに追撃の魔力を放つ。

赤黒い槍のような魔力の塊が空を裂き、俺を貫こうとする。

紙一重でかわすが、その衝撃波で周囲の壁が砕け散り、土煙が視界を奪った。


それから数分が経った。


俺と奴の激闘は続いていた。



「ハッ!どうした修羅!そんなものか!」

オウルの笑い声が耳を劈く。


体の動き、放つ魔法、どれも尋常じゃない精度と速さだ。


魔薬の力、いざ目の前にすると俺の動きは後手に回るばかりだった。


膝を折りかけた瞬間、頭の中で神威が低く唸った。


「お主、動きが鈍っている。何を恐れている?」


「恐れてなんか…!」

強がりだ。


息が乱れ、腕が重い。

黒炎の霊刃がわずかに鈍い光を放つ。

焦りが俺の中で膨れ上がり、オウルの動きがまた目の前に迫る。


オウルが腕を掲げた。

魔法陣がさらに濃く、不気味な赤黒い光を発する。


次の一撃で終わらせるつもりだ。


その確信に

俺の背筋を

冷たいものが駆け下りた


だが

わずかに違和感が走る


オウルの動きが

鈍い


息遣いが荒くなり

膝が微かに震えている

赤黒い光も不安定に揺れていた


魔薬の効果が、切れかけている―!


俺の手首に巻かれたダイヤの魔石のブレスレットが、かすかに脈動する。

周囲の魔力に反応し、波のように静かな光を放った。


「気づいたか?ここから!」

神威の声が俺を突き動かす。


全身に力を込め、再び加速魔法を展開する。

土煙の中を駆け抜けながら、俺は手のひらに魔力を集中させた。


オウルの視界が俺を捉えた瞬間、俺は叫びと共に自分の背後に閃光魔法を放つ。


光が爆発し、オウルの視界が焼かれる。

「ぐあっ!」

しかし、オウルはすぐさま腰のポーチから小瓶を取り出し、目に液体を叩きつけた。


「目つぶしは得意技だよな!」

視界を回復させたオウルの目が再び俺を捕えた。


だが…その動きには鈍さが見える。

薬の効果が切れ始めた焦りが、彼の表情に滲んでいた。


触媒となる魔石を宙に放り投げて斬り裂く!

黒炎の霊刃が鳴動し、輝きを増す。


神威の声がその刃と共に俺に力をくれる。

「!」


吠えるように、俺は地面を蹴った。


視界を取り戻したオウルが咄嗟に魔法陣を展開するが…もう遅い。

黒炎の霊刃が鈍く輝き、空間そのものを裂く勢いで振り下ろされた。


赤黒い魔法陣が

砕け散る


オウルの武器が弾き飛び

絶望に染まる彼の目が

俺の刃の軌道を追った


刹那

黒炎が

舞い散る


「ぐっ…!」

オウルの左肩が斬り裂かれた。

肉が裂け、血飛沫が宙に散る。


オウルは膝をつき、片手で傷口を押さえながら俺を睨みつける。


「修羅…貴様…!」


その声には怒りと敗北の色が滲んでいた。


俺は息を整えながら、黒炎の霊刃をゆっくりと下ろす。

オウルの魔薬頼みの強さは終わりだ。


20人以上の憲兵たちがギルドに集まってきているのを察知した。


弱弱しくも立ち上がろうとするオウルを一瞥し、俺は部屋を後にする。



外は静まり返り、冷たい夜風が吹き付ける。

それが、何よりも心地良かった。


「ざまぁ…」


静かな独り言が、風に溶けていった。




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