第10話 氷漬けにされた人々
アルテ達はブラックボーンを縛り付けて、、村に戻った。
村人は避難しているが、走れば追いつくだろう。
もう村は安全だと、報告しなければ。
問題はどうやって誤魔化すか。
自分の強さを隠したいアルテにとっては、複雑な問題だ。
「滅んだあとみたい。妙に静かだね」
ミカは不気味そうに、街を眺めている。
ついさっきまで活気があった街が、一瞬でゴーストタウンだ。
静かすぎる。アルテは違和感を覚えた。
「なあ、ミカ。この街、こんなに寒かったか?」
「言われてみれば……。北の大地といっても、もう少し気温はあったよ」
ミカは思わず身震いしている。町の外は平常だ。
虫の声すら聞こえない、静けさと言い。
アルテ嫌な気配を感じる。
彼は急いで、セコイを拘束した場所に向かった。
ギルドが攻める場所と反対側の出口。
そこでアルテはあるものを見て、思わず言葉を失う。
「これは……」
「アルテ。どうしたの? うっ……」
目の前の光景に、ミカも思わず引き気味だ。
彼らの前には逃げ出そうとした村人たちが居た。
氷漬けにされた姿で。唯一無事なのはセコイだ。
彼は縄で縛られながら、恐怖心で震えている。
その表情から、彼の仕業ではないと読み取れる。
「セコイ! これは一体何事だ!?」
「ブラックボーン様!? そのお姿は……?」
「そんなことは後だ! 説明しろ!」
自身も縛られている事を気にせず、ブラックボーンは問い詰めた。
ギルドの作戦ではない。何者かが横やりを入れた。
「ドンです……。アイツが龍を連れて、いきなり襲撃に……」
アルテとミカが首を傾げると、ブラックボーンは頷いた。
「イービルギルドの新しい長だ。私から奪い去ったな……」
「見せしめです。逆らう者、抗う者、失敗する者への」
アルテは生体反応を探ってみた。
全員まだ生きているが、体温が下がってきている。
コールドスリープとは違う。体の内側まで凍らさている。
時間が経てば、体温が奪われて村人たちは全滅するだろう。
これが見せしめだとしたら、残虐なやり方だ。
「おのれ……! もはや我慢できん!」
ブラックボーンは怪力で縄を破った。
「あ、出来たんだな。まあ軽めに縛ったけど」
ブラックボーンはセコイの縄も解く。
心配そうに見つめるミカを、アルテが手で制止する。
「事情を説明しながら、走ろうか」
恐らくドンとやらは、そう遠くへ行っていないはずだ。
今から追いかければ間に合うだろう。
村人を元に戻す方法を知っているかもしれない。
この凍結は特殊だ。炎で溶かすにはリスクが高すぎる。
全員を救出するには、短時間で物事をこなす必要がある。
「イービルギルドは元々、行き場のないもののたまり場だったのだ」
アルテの言葉通り、ブラックボーンは走りながら説明をする。
ミカやセコイが付いていけるペースで、走る。
「親が罪人だった、没落した貴族、様々な事情なものが集まって出来た」
明日を生きるのもやっとの者達が支え合うための組織。
そのためなら黒に染まっても構わない。
それがイービルギルドだった。
「だがあの男、ドンが入ってから全てが変わった」
「そのドンって言うのは、何者なんだ?」
「犯罪者だよ。超有名なね……」
ミカが代わりに答える。
「騎士団に居たとき、嫌と言うほど名前を聞いた」
騎士団が抱える未解決事件には、全てドンが関わっていると言われていた。
狡猾さ、残忍さでは並ぶものはいない。
「ドンはギルドの組織力に目を付けた。力で我々を従わせている」
「アンタほどの男が、そんな奴に従うのか?」
「我らには、あそこしか居場所がなかったのだ」
アルテは首を倒しながら、微笑した。
「同情するよ。その境遇は」
「奴は狂暴な氷龍を従えている。奴自身もかなりの強さだ」
「楽な仕事じゃないな。時間ないのにね」
アルテはミカの手を握って、速度を上げた。
話は終わりだ。一気に加速して、ドンを追いかける。
ブラックボーンも並走して、森の中を駆ける。
数分走った後、空を飛ぶ生き物が見えた。
水色の姿をした、巨大な生物。
それは間違いなく龍だ。アルテも本でしか見たことのない生物。
「気をつけろ! 奴はもう気づいているぞ!」
ブラックボーンの声かけと共に、アルテ達は左右に分かれた。
彼らが走っていた道に、氷柱が落とされる。
空を浮かんでいた龍はゆっくりと、下降する。
近づくと、とんでもない大きさだ。
頭だけでも、人の三倍はある巨体。
その背中に、黒いローブを着た人物が座っている。
「これはこれは。元ボス様は、こんなところで何をしてらっしゃるのかな?」
ローブの人物は、嫌味な口調で話しながら龍から降りる。
態度で分かる。彼がドンだと。
「なんで小物って言うのは、一々"これはこれは"をつけるかね? 敬語も怪しいし」
アルテは嫌味に軽口で返した。
「おや、すいませんね。あまりのもちっぽけな存在故、気づきませんでした」
「器はお前より大きいぜ。まあ、アンタと比べたらゴマの方が大きいけどね」
フード越しに舌打ちが聞こえてきた。
思った通り、彼は人を見下してイラつかせるのが好きなようだ。
典型的な力を持った小物だ。まあ、自分もだけどとアルテは自虐する。
「ドンよ! 何故村人を凍らせるなどという行為をした!?」
「今更自分だけ、善人面しないでいただこう。貴方も村を襲おうとしたのですよ?」
ブラックボーンは口を閉ざした。
「まあ、アンタの指示だけどね。記憶力大丈夫?」
ブラックボーンの罪が消える訳ではない。
それでも彼のボスのままなら、こんな事起きなかったはずだ。
アルテは論点をずらそうとするドンを、挑発した。
「私は貴方がいつか裏切るのではと、監視していたのですよ」
「そんなの部下にやらせれば良いじゃん。もしかして、人望ないの?」
「こいつ……。口を開けば開くほど、潰したくなるな!」
アルテはニヤリと笑いながら、ドンを見つめる。
「アンタの目的はどうでも良い。素直に街人を元に戻せば、時間を無駄にしないぜ」
「ほう。随分な自信で」
ドンの胸が赤く光った。次の瞬間、衝撃波が発生する。
草木が揺れると同時に、アルテの体を威圧感が刺す。
「ですがこの私を前に、何分立っていられるでしょうか?」
「座れば満足するのか?」
アルテは地べたに寝そべった。
堪忍袋がキレたと言わんばかりに、ドンが突撃する。
「気をつけろ! そいつの力は本物だ!」
「貴方を素敵な夢の世界に、ご案内しよう!」
ドンは再び赤い光を放った。今度は強く、目を瞑る。
アルテが瞳を上げると、異様な光景が広がっていた。
昼間なのに月が登り、木々が生きているように左右に揺れている。
「奴の術にかかったな……。ドンは幻影魔法の使い手だ」
「幻にしてはリアリティあるな。背景が丸々変わったぜ」
「軽口叩いている場合か! この技の恐ろしい所はな……」
言いかけるブラックボーンに、草が絡まった。
身動きを封じられた彼に、木が歩いて来る。
枝を腕の様に動かして、体を吹き飛ばした。
「脳が完璧に誤認して、体が勝手に動く」
「実践ありがとう。おかげで技の特徴は掴めた」
アルテにも同様の事をしようと、草が絡まる。
彼はニヤリとしながら、しゃがんで草に触れた。
すると草は黄金の光を発しながら、消滅していく。
「要はアイツの妄想世界に巻き込まれたってことだろ?」
「そうだ! この術にかかっている限り、お前達は私の世界で生きるのだ!」
空に巨大な顔が出現する。赤い瞳をした、白髭の老人だ。
恐らくこれがドンの、素顔なのだろう。
アルテは溜息を吐きながら、コインを上空に投げる。
コインがドンの顔に直撃すると、その素顔を消滅させる。
近くでうなる声が聞こえる。見えない本体がダメージを受けた証拠だ。
「良いぜ。お前の術と俺の想像力。力比べと行こうか!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます