第一章 ブラックギルド
第7話 食料保存の危機
とある村が燃えていた。人々は逃げ、抵抗するものは囚われる。
地獄絵図が広がる。村を焼いているのは、黒い鎧を着た集団だ。
「くっ! 村がピンチなのに……。どうして体が動かない!?」
村の衛兵長が、牢屋の中で悔しがる。
全ての衛兵が食中毒を起こし。この事態に対応できない。
彼らは抵抗する事もなく、捕まった。
もうこの村で戦えるものは居ない。
小さな村だが、名産品を掲げて頑張ってきたが。
それも連中の支配下に置かれては、食いつぶされるだろう。
「全員、これくらいいしておけ。畑まで焼いたら台無しだ」
黒い騎士を退けて、角の生えた兜の男が歩く。
同じく漆黒の鎧を着ているが。こちらは光沢がある。
「ブラックボーン……!」
「この村は、今日から。我がイービルギルドの支配下になるのだ!」
***
「ふぅ……。大分村っぽくなってきたんじゃない?」
ミカは一仕事終えて、休憩をしていた。
荒れた村の整備が終わってきた。
使えそうな施設はそのまま。住居は殆ど立て直した。
畑にも元気が戻り。野菜や果物が育ち始めている。
稲策も順調だ。蛇神様の上質な水のおかげである。
殆どアルテがやった事だが。ミカも手伝った。
「よぉ、お疲れ! こっちは鍛冶屋が使える事を確認したぜ!」
アルテがバク中をしながら、ミカに水筒を投げる。
朝から働いているが、彼はまだまだ元気だ。
夜しっかり休んでいるからだろう。
「設備も住むところも整った。そろそろ、村人を誘致するべきかな?」
「そいつには、まだ早いな。これを見てくれよ」
アルテは書類を見せた。そこには一人の一週間に消費する食事量が書かれている。
現在の生産量と、ギリギリと言った所だろう。
「道が整っていないんだ。他の村から、救援は頼めないぜ!」
「ギリギリでやっていくしかないのかぁ……」
「それだけじゃない。食料の保存も問題になってくる」
アルテは村を見渡した。
「今の村じゃ、食料を長期保存できない。精々米倉を作るのが精いっぱいだぜ」
「ああ……。ギリギリだと、腐っちゃう食物もあるね……」
「蛇神様への供物も考えると。この問題は無視できないな」
王都に居た頃は、長持ちする食料を使っていた。
食べ物を凍らせるという方法があるが。
解凍に時間がかかり過ぎるため、現実的ではないそうだ。
「この問題を解決するには。道の整備か、食料の保存方法を考えないとな」
「う~ん。整備は時間がかかるけど……。保存方法は、思いつかないなぁ……」
「少し楽に、整備なら出来るぜ! 隣の村と今から交流すれば良いんだ!」
アルテは地図を広げた。周辺の地形が書かれている。
周囲は森ばかりで、何もない。
だが少し離れた所に、村らしきものがあった。
「手土産とメリットを紹介すれば。向こう側も道の整備を手伝ってくれるぜ!」
「確かに……。でも手土産って?」
ミカは首を傾げた。まだ村は出来たばかりで、名産品などない。
交流を喜ぶ様なものがあったかと、疑問に思う。
するとアルテはニヤリと笑いながら、川を指した。
「あるじゃないか。蛇神様の新鮮な水が」
「そっか。この水は栄養豊富だから。畑仕事に欲しいよね?」
「それに美味いしな! と言う訳で、善は急げだぜ!」
アルテはミカの手を握った。
「水を持って、隣の村まで!」
「ええっと……。どれくらい離れてるの?」
「五十キロぐらいかな?」
ミカは目を瞑った。思った通り。アルテは高速を出して、村から出る。
彼のスキルを持てば、五分も経たずに村につくだろう。
ただでさえ早かったのに、蛇神様の件で更に速度が上がったのだから。
ミカの予想通り、アルテは村の近くまで五分でたどり着いた。
少し離れた所で停止し、ミカの肩を突く。
「あ~。出来れば俺のスキルは内緒の方向性で」
「はいはい。アルテは目立つって、タイプじゃないからね」
ずっと一緒に居たのだ。アルテの性格は理解している。
彼は何かに縛られるのが、嫌いなのだ。
力がバレたら期待と言う、鎖が出来るだろう。
「んじゃあ。交渉は任せたぜ! 領主様!」
「ええ!? いきなり言われても、無理だよ!」
「ちゃんと補佐はするさ!」
アルテは口笛を吹きながら、歩き出した。
彼は交渉が得意なタイプに、見えないのだが。
自分が頑張るしかないかっと、諦めるミカ。
村に入ると、衛兵が入口を警備していた。
アルテ達に気付くと、不審そうな顔で武器を構える。
「お前達は何者だ? 所属と身分を言うように!」
「プッカ家のミカ嬢さ。近くに引っ越してきたので、ちょっと挨拶をな!」
「む? 確かに、プッカ家の者が森を抜けた先に来たのは知っているが」
アルテは衛兵に水を渡した。
「これは餞別品だ。新鮮な水で元気が出るぜ」
「これはご丁寧に。って! そんな隣に引っ越した感覚で、遠くから来られても!」
「距離なら縮めれば良いだろ。心の距離と一緒に」
衛兵が両一刺し指を突きつけた。
「今、上手い事言った!」
「全然上手くないよ!」
ミカがツッコミを入れる。二人は無事に、村に入る事が出来た。
村はアルテが居た村より、ずっと発達している。
開拓されたというより、田舎好きが住んでいる印象だ。
宿屋も教会もあるので、生活には困らないだろう。
村の広場に人だかりができていた。ミカは自然とそちらに視線が向く。
「誰か倒れているのかもな? よくある話だぜ!」
「その節はどうも」
アルテの軽口を流し、ミカは人だかりに近づいた。
広場には商人と思わしき人物が、装置を置いている。
「ああ。実演販売だね」
「実演販売? なんだそりゃ?」
「商品の凄さを見せて、その場で販売する宣伝法だよ」
ミカは実演販売が、実は好きだった。
未知の技術に触れると、ワクワクする。
寄り道している暇はないが、ちょっとだけと思い広場を覗いた。
商人はリンゴやバナナを、ステージに置いている。
その傍に、青白い煙を出す物体が置かれてる。
「さあさあ! 皆さん! ご覧あれ! こちら! 冷蔵庫と言うものです!」
商人が商品を宣伝する。
「この煙には食べ物を冷やす作用があり。食料を長持ちさせます!」
フルーツを箱の中に入れる商人。
「保存方法は簡単! 冷蔵庫に入れるだけ! これだけで、食料問題解決!」
「へえ……」
ミカは怪訝そうな表情で、商品を見た。
なんだか胡散臭そうだ。箱に入れるだけで、食材を長持ちさせるなんて。
「嘘だと思うでしょ? 実際に触ってみてください!」
商人は冷蔵庫から取り出したフルーツを、見物人に投げる。
受け取った見物人が、『冷たい!』っと声を上げる。
食品が冷えたのは、確かなようだ。
「……」
ミカも手に持ってみた。確かにフルーツは冷えている。
冷やせば食材の腐敗を、防ぐことが出来るだろう。
彼女は目を細めながら、ステージに近づいた。
「今ならたった五十コインだよ!」
「ねえ? 一つ良いかしら?」
「はいはい! 質問はな~んでも、お答えしますよ!」
商人は怪しい笑みを、ミカに向けた。
「どうして人体に悪い、バクテリアをわざわざ使っているのかしら?」
「は、はて? なんのことでしょうか……」
「惚けないで! この冷え方知っているわ! 冷凍バクテリアが熱を奪った感触よ」
ミカには冷たさの具合に、覚えがあった。
「冷凍バクテリアを口にすると、食中毒を起こす。彼らは冷たい場所で繁殖するわ」
「そんな言いがかりな! 私の商品は安全ですぞ!」
「だったら! このフルーツ、食べてみてよ?」
ミカにつきつけられて、商人は冷汗をたらす。
勝負あったと、ミカは確信した。
「やれやれ。バレてしまいましたが、もう遅いですよ」
商人は入口を指す。指の先を見ると、見張りの衛兵が倒れた。
「衛兵さん達には、近々に冷えた食品を、提供させていただきました!」
「貴方は一体何者? 悪戯にしては、質が悪いよ」
「フフフ。私ですか? 私は……」
商人は服を脱ぎ捨てた。黒い鎧が下から出てくる。
「お、お前はまさか……」
「私はイービルギルドのセコイです。明日、私の仲間が、村を侵略しますよ!」
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