第12話「広がる温もり」
城下町は、想像以上に深刻な状況だった。
「こちらです!」
リリアーナの案内で、私たちは仮設の治療所に向かう。道すがら、青ざめた顔で横たわる人々の姿が次々と目に入った。
「どうか、間に合いますように」
エマが大鍋を抱えながら祈るように呟く。スープは相変わらず不思議な輝きを放っていた。
治療所に着くと、若い医師が駆け寄ってきた。
「騎士団の方々ですか?薬は...」
「いいえ」リリアーナが前に出る。「これは、特別なスープです」
医師は怪訝な表情を浮かべた。しかし、スープの香りが広がった瞬間、彼の表情が変わる。
「この香り...まるで、希望の光のよう」
「まずは重症の方から」
私たちは手分けして、スープを配り始めた。
「熱が...引いていく」
「咳が止まった!」
「体の青みが消えていく...」
次々と、驚きの声が上がる。そして何より印象的だったのは、皆の表情。スープを一口飲むたびに、苦しみに歪んでいた顔が、穏やかな笑顔に変わっていく。
「不思議ね」
ミーシャの声が響く。彼女は今や、透き通った光の姿で私たちを見守っていた。
「神の力を借りずとも、このスープには確かな力がある。それどころか、神の涙を使ったものより、もっと温かで優しい」
エマが小さく頷く。
「みんなの想いが、このスープを特別なものにしたんです」
その通りだった。このスープには、たくさんの想いが込められている。
エマの、孤児院の子供たちを想う気持ち。
リリアーナの、騎士としての使命感。
ヴィルヘルムの、知識を活かしたいという願い。
そして、料理で人を幸せにしたいという私の夢。
「美咲さん、見てください!」
エマの声に振り返ると、スープを飲んだ人々が次々と立ち上がり、他の患者の看病を手伝い始めていた。
「彼らの中にも、想いが生まれている」
ミーシャが優しく微笑む。
「誰かのために何かをしたい。その気持ちこそが、最高の治癒力を生むの」
空の色が、少しずつ元に戻り始めていた。不吉な雲が晴れ、柔らかな陽の光が差し込んでくる。
「これで、王都は...」
その時、思いがけない声が響いた。
「おや、こりゃ見事なものだ」
振り返ると、そこには一人の老人が立っていた。髪は真っ白で、深いしわの刻まれた顔。しかし、その眼差しは鋭く、どこか見覚えがある。
「まさか...」ヴィルヘルムが息を呑む。「フレデリック・ヴァンロッサ!?」
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