第8話「王立図書館の秘密」




王立図書館の禁書庫は、地下深くにあった。


「こちらです」


ヴィルヘルムが松明を掲げて先導する。後ろには私とエマ、そしてリリアーナが続いた。


「凄い...」


エマが小さく呟く。書架が天井まで続き、古い魔道書が整然と並んでいる。埃っぽい空気に、かすかに魔力が混ざっているような気配があった。


「ヴァンロッサの研究資料は...ここだ」


ヴィルヘルムが一番奥の書架から、分厚い革表紙の本を取り出す。


『料理と魔法の境界 ―究極の治癒力を求めて―』


「これは!」


私は息を呑んだ。著者名は確かにフレデリック・ヴァンロッサ。しかし、その下には意外な名前が。


「共著...食事の神官 ミーシャ・ディヴァイン?」


「そう」ヴィルヘルムが頷く。「50年前、ヴァンロッサは神官となったミーシャ様と共に研究を進めていた。しかし、研究の完成直前、突如として姿を消した」


「どんな研究だったのですか?」


ページをめくると、複雑な魔法陣と料理のレシピが交互に記されている。


「神の力を、料理という形に変える研究」リリアーナが説明を加える。「魔法使いでなくとも扱える癒しの力を、料理人の手に」


「でも、それならどうして姿を消したのでしょう?」エマが首をかしげる。


「おそらく」ヴィルヘルムの表情が険しくなる。「研究があまりに強力すぎたからだ。料理人が神の力を扱うことへの、何らかの代償が...」


その時、本の最後のページから一枚の紙が滑り落ちた。


「手紙...?」


黄ばんだ紙には、走り書きの文字が。


『もし、この手紙を読むものがいれば。

私は恐ろしい事実を発見してしまった。神の力を料理に宿すことは可能だ。しかし、その代償として世界は――』


そこで文字は途切れている。


「まるで、急いで書いたよう」エマが指摘する。


「ええ。でも、これを見て」


私は手紙の裏面を指さした。そこには一つのレシピが記されていた。


『神々の祝福スープ』


材料欄には見覚えのある薬草の名前。そして最後の材料として「神の涙 一滴」の文字。


「これは...」


「ヴァンロッサが完成させた究極のレシピ?」リリアーナが覗き込む。


その時、遠くで鐘の音が響き始めた。


「これは警鐘!」リリアーナが身構える。「王都で何かが!」


階段を駆け上がり、外に出ると、街は騒然としていた。


「すぐに王都へ向かいます」リリアーナが剣を構える。「疫病の拡大を食い止めねば」


「私たちも行きます」


「しかし...」


「大丈夫です」私はレシピを握りしめた。「このレシピとミーシャ様の涙があれば、きっと...」


「分かった」ヴィルヘルムが頷く。「私の魔法で王都まで転送しよう。だが、約束してくれ」


「はい?」


「もし、何か異変を感じたら、すぐに諦めること。ヴァンロッサが恐れた"代償"が何なのか、私たちはまだ知らないのだから」


私とエマは顔を見合わせ、強く頷いた。


「では、転送魔法を始めます」


ヴィルヘルムが術式を描き始める中、私は決意を固めていた。


(料理に込められた想い。きっと、それが世界を救う力になる)


青い光が私たちを包み込む。王都での戦いが、今始まろうとしていた。

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