【読者参加型小説 毎日17時投稿】港町事件簿 陰謀の港 ~誰が正義を殺したのか~
湊 マチ
第1話 静寂を裂く死
日が沈んだ港町・門司港には、独特の静けさが漂っていた。潮の香りを運ぶ夜風が街灯の光を揺らし、通りにはほとんど人影がなかった。港の近くに立つ古びたアパート、その一室から聞こえた小さな悲鳴を除いては――。
「徹さん、どうして……どうしてなの……!」
部屋の中、山崎裕美は震える手で夫の体に触れた。すでに冷たく硬くなっている。それが現実であると理解するまで、彼女には数分が必要だった。
彼女の視線が床に転がったスマートウォッチに向けられる。徹が肌身離さずつけていたものだ。小さな画面には、最後に見たと思われるメッセージが表示されていた。
「これが最後の証拠になるかもしれない。後は頼む。」
裕美はその言葉に息を呑んだ。徹が一体何を意味しているのか――いや、彼女には薄々わかっていた。彼は「真実」を暴こうとしていたのだ。
その翌日、山崎徹の死は警察によって「自殺」と断定された。
香織は、自宅の小さなデスクに向かいながら、依頼者から届いた詳細なメモを読み込んでいた。依頼者の名前は山崎裕美。彼女の夫が死亡し、それが「自殺」と断定されたことを受け入れられずにいるという内容だった。
「本当に夫が自殺したのか、知りたいんです」
そう締めくくられた手紙の文面には、夫への深い信頼と愛情が滲んでいた。
香織はその場で電話をかけることにした。受話器の向こうから聞こえてきたのは、絞り出すような弱々しい声だった。
「三田村香織さんですか?」
「はい。お話は伺っています。直接お会いできますか?」
「もちろんです。でも……」
裕美の声は急に途切れた。沈黙が数秒続く。
「何か?」
香織が促すと、裕美の声は震えていた。
「警察に言われたんです。もうこの件は触れるなって……。」
香織の眉がわずかに動いた。地方警察がそのような対応をするのは珍しくない。しかし、依頼者がここまで怯えるケースは稀だった。
「安心してください。私は真実を追うだけです。あなたが本当に知りたいことを見つけるために。」
その言葉に、裕美は少しだけ落ち着きを取り戻したようだった。そして、彼女の話を聞くうちに、香織の中で違和感が芽生えていく。
山崎徹は生前、何かを掴んでいた。
それが原因で、彼は死を迎えたのではないか――?
裕美の家は門司港駅から徒歩15分ほどの静かな住宅街にあった。香織が訪ねると、裕美は疲れ切った様子で玄関先に立っていた。目の下には深い隈があり、その目にはわずかな警戒心が浮かんでいる。
「これです。」
彼女が手渡したのは、徹が最後まで身につけていたというスマートウォッチだった。
「徹さん、ずっとこれを肌身離さずつけていました。何度も『これさえあれば大丈夫だ』って……でも、その意味を聞く前に……」
香織はスマートウォッチを手に取ると、その重量感にわずかな違和感を覚えた。ただの時計ではない。彼がこれを重要視していた理由が、すぐに分かる気がした。
香織は山崎裕美から受け取ったスマートウォッチを手に、調査の第一歩を進めていた。
彼女は手慣れた動作でデバイスを操作し、データにアクセスしようと試みる。だが、すぐに目の前の問題に気づく。ログデータの大半が「削除」された痕跡が残っていた。
涼介に連絡を取り、近くのカフェで会う約束をする。彼の専門知識が必要になることはわかっていた。
カフェ「潮風珈琲」。香織は、壁一面に飾られた古い港町の写真を眺めながら、涼介を待っていた。午後の光が窓越しに差し込む中、彼はいつものように軽快な足取りで現れる。
「珍しいな、俺に相談するなんて。」
涼介は注文したアイスコーヒーを一口飲みながら、茶化すように言った。
「茶化すのは後にして。」
香織はスマートウォッチを涼介に渡す。「これに残されたデータを調べてほしい。」
涼介の表情が変わる。
「スマートウォッチか。最近じゃ、これに健康データもGPSも全部入ってるから、意外と役に立つんだよな。」
彼はデバイスを手に取り、じっくりと観察した。
「どうやら、データの大半が削除されてる。でも、削除したのは本人じゃない。明らかに外部からの操作だ。」
涼介がそう断言すると、香織は小さく息をついた。
「やっぱり……。何か隠してるのは間違いない。」
涼介はデバイスを繋げたノートパソコンの画面を覗き込みながら話を続けた。
「削除されたデータの中でも一部は復元できそうだ。特に、最後のGPSログと音声記録には手が加えられてないみたいだな。」
数分後、涼介が復元したデータを見せる。
「これだ。」
香織は画面に映し出されたログを確認する。そこには、山崎が最後に訪れた場所のGPSデータが記録されていた。
「『西日本建設本社』……。」
「さらに、これを聞いてくれ。」
涼介は音声ファイルを再生する。再生される音声には、山崎ともう一人の男性の声が含まれていた。
「これ以上調べるなら、命の保証はないと思え。」
「そんな脅しには屈しません。ここにある証拠が全てを証明する。」
音声は突然、途中で途切れていた。香織はイヤホンを外し、しばらく言葉を失った。
「脅されてたんだな。」涼介が静かに言う。
「彼は本当に何かを掴んでいた。そして、それが命を危険にさらすものだった……。」
カフェの外に出た香織は、港町を一望できる小高い場所に立ち、風を受けた。遠くには関門海峡を渡る貨物船が見える。香織はその景色を眺めながら、山崎の妻・裕美の涙を思い出した。
「この“証拠”が彼を殺したのね。」
彼女の目に一瞬、怒りが浮かんだ。だがすぐにそれは消え、冷静な表情に戻る。
「涼介、次は『西日本建設』について調べる必要がある。山崎が掴んでいた証拠が何だったのか、必ず見つける。」
「了解。お前がそう決めたなら、とことん付き合うよ。」
涼介は軽く笑ったが、その目は真剣だった。
山崎の最後の足取りが示していた「西日本建設本社」。香織と涼介は、GPSログを頼りにそのビルを訪れた。
ビルは門司港の港沿いにあり、真新しいガラス張りの外観が港町の古い建物群とは対照的だった。だが、表面の近代性とは裏腹に、香織にはこの建物が何か冷たいものを内包しているように感じられた。
「受付を突破するのが面倒だな。」
涼介がぼやきながら、エントランスでスーツ姿の警備員を見つめる。
「私たちは堂々と正面から行く。理由がある限り、追い返すことはできない。」
香織は迷いなく受付に向かった。
だが、彼女が山崎の話を切り出した途端、受付の女性は笑顔を消した。
「その件についてはお話しできません。」
「なぜですか?」
「申し訳ありませんが、社内の規則です。それ以上はお答えできません。」
香織は相手の態度に一切動じることなく、柔らかい声で続けた。
「お話しできない理由がわからない以上、こちらも納得できません。警察の協力を仰ぐべきでしょうか?」
一瞬の間。女性の顔に動揺が走る。しかし、すぐに冷たい笑みを浮かべ、
「お引き取りください。」
とだけ答えた。
香織は受付から引き下がり、涼介と共に外に出た。
建物の裏手にある駐車場。香織と涼介は、隅に停まっていた車を見つけた。
「この車……。山崎さんのものだ。」
涼介が指を指しながら、ナンバープレートを確認する。確かに、それは山崎が使用していた車だった。
「車がここにあるということは、彼がここで何かをしていた証拠よ。」
香織は車の窓越しに中を覗き込んだ。ドアはロックされているが、助手席には資料らしき紙束が散らばっているのが見える。
「見たいものが全部中にあるってわけだ。」
涼介がポケットから細い針金を取り出した。
「違法よ。」
「この状況だと、誰もが同じことをする。」
涼介が笑みを浮かべ、手早く作業を始める。
だが、その時――後ろから硬い声が聞こえた。
「何をしている。」
振り返ると、スーツ姿の男が立っていた。西日本建設のロゴが入った名刺を差し出しながら、冷たい視線を向けている。
「私の名前は坂口。この駐車場への立ち入りは許可されていません。」
読者選択肢
坂口にどう対応するか?
1.正直に話して協力を求める
- 香織は山崎の死について調べていることを率直に伝え、坂口に協力を求める。
2.警察の力を借りると脅す
- 「ここで協力していただけないなら、警察を呼ぶしかありません」と言い、強気に出る。
3.その場を引き下がり、後で隠密に調査する
- 坂口の態度を見てその場を引き下がり、後日こっそり再調査を試みる。
読者への応援コメント番号依頼
読者の皆様、物語がいよいよ動き始めました!
香織と涼介は、西日本建設に隠された秘密に迫ろうとしていますが、いきなり壁にぶつかっています。この坂口という男をどう動かすべきか、ぜひあなたの選択を聞かせてください。
どの選択肢を選びますか?
1, 2, 3の番号をコメント欄に記載してください!
締切:明日朝7時まで
選ばれた選択肢によって、香織たちの行動が変わります!皆様の応援が物語を作ります。
読者へのメッセージ
いつも読んでいただきありがとうございます!
『港町事件簿』は皆さんと一緒に作る物語です。今回の選択肢が、香織たちの未来を大きく変えるかもしれません。どの展開になるのか、私もドキドキしています!
次回の物語でお会いできるのを楽しみにしています。応援よろしくお願いします!
港町事件簿シリーズについては、
次の更新予定
2024年12月15日 17:00 毎日 17:00
【読者参加型小説 毎日17時投稿】港町事件簿 陰謀の港 ~誰が正義を殺したのか~ 湊 マチ @minatomachi
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