第24話、メイドナッシング

「ああ、ご主人様……」


 青白い手がかけ布団を直した。



 ”ガラント”は中堅の冒険者だ。

 三十歳を超えたところか。

 パーティー、”斜光の輝き”のリーダーである。


「アンデッド(動死体)か?」


「はい、ある村の近くで目撃情報がありました」

「調査及び、可能ならば討伐依頼になります」

 ギルド職員であるエリザベスが言う。

 

「ふむ、どう思う?、アリア」

 後ろを振り向きながら言った。


「そうねえ」

 黒い皮鎧、腰に短刀の若い女性だ。


「アンデッド(動死体)なら拙僧の、”ターンアンデッド”が効きますぞ」

 薄茶色の司祭服、胸に法印を下げている大柄な男性である。


「それなら、私の火の魔法も効くわ」

 魔女の服を着た女性である。


「……わかった、この依頼受けよう」

 ガラントが、三人の仲間の顔を見回した後、エリザベスに言った。


 翌日の朝早く、”斜光の輝き”は辻馬車で村の近くまで移動する。

 

「アンデッドねえ」

「ああ」

「とりあえず、村についたら聞き込みね」


 目的の村までは、辻馬車で三時間、徒歩で二時間弱の場所にあった。

 大体、昼過ぎにつく。


 村の村長が出迎えてくれた。

 

「冒険者ギルドから来た、”ガラント”だ」

「”アリア”」

「”エド”である」

「”ヴァネッサ”よ」

 残りの仲間も名乗った。


「実は、この村の近くの森の中に貴族の別荘がありまして」

「館の周りを歩く死体を、村の猟師が見たのです」


「ふむ、貴族の館か……」

「どうする、アレがいたら大変よ」

「確かに……」


「他に何かないか?」


「そうですね、たしか三月くらい前に豪華な馬車が森に入って行きました」

「出てきたところを見ていません」


「……まずいな……」

 ――貴人の側にアレあり、か

「とりあえず、明日館を見に行ってくる」


「はい」

 村長が答えた。


「この村に宿はあるか?」


「ありませんが、私の家に泊って下さい」

 大きめに作られている村長の家だ。

 小さな村は大体そんな感じである。


「わかった、ありがとう」


 ――今夜は野宿をしなくて済みそうだ


 翌日、馬車一台分くらいの幅の森に続く道を進む。


「この先に貴族の館があるのね」 

 先を行くアリアが聞いた。


「ああ」


 道の周りは深い森。 


 アリアの後ろを、ラウンドシールドとソードを構えた自分。

 次を、長い杖を持ったヴァネッサ。

 最後尾を、盾とメイスのエド。


 しばらく歩いた。


「しっ」

 アリアが道の先に何かを見つけた様だ。

 ここで止まるようにハンドサインをした後、身をかがめて静かに進む。


 ふっ


 アリアが息を抜いた。

 ――ゾンビ、六体確認


 静かに帰ってきた。

「少し進んだところにゾンビが六体いるわ」


「館は?」


「まだ見えない」


「ふむ……」

 三人が自分の答えを待つように黙った。

「よし、倒そう」


「わかったわ」

「うむ」

「ええ」


「アリアとヴァネッサは、弓と魔法で攻撃」

「自分とエドは突撃、”ターンアンデッド”を」

 アリアがショートボウの弦を貼った。

 

 道を進む。

 ゾンビ六体が見えて来た。


「攻撃開始っ」


 キリキリ、バンッ


 アリアの矢がゾンビの頭に刺さる。


「炎の矢よ、魔術により飛べ」

「ファイヤーボルト」


 ヴァネッサが炎でできた矢を放つ。

 別のゾンビに当たり倒す。


「うおおおお」

 自分が、雄叫びを上げながら走る。

 矢の刺さったゾンビに剣で斬りつけ倒した。


「神よっ、”ターンアンデッド”ッ」

 エドの手から白い光が放たれる。


「グゲエエ」

「グゲ」

 ゾンビ二体が浄化され崩れ落ちた。


「残り二体っ」

 

 ガツッ


 ゾンビの攻撃を盾で受けながら叫ぶ。


 バンッ


 アリアの二射目。


「せいっ」


 エドが矢の刺さったゾンビをハンマーで倒した。


「終わりだっ」


 最後のゾンビを剣で切り伏せた。


「ねえ、見て」

 ゾンビを調べていたアリアが言った。


「ああ、暗殺者(アサシン)か……」

 

 フード付きの黒いマントに皮鎧。

 毒と思われる薬瓶。


「死体自体は新しいわね」

 ヴァネッサが、ゾンビの体の真新しい傷跡を見た。


「暗殺しにきて返り討ちにでもあったのであるか?」

 エドが言う。


「ふむ……」

 自分が顎に手を当てた。

 ――この先の館には、暗殺者(アサシン)6人を返り討ちに出来る何かがいるのか?

 ――しかし、ゾンビ化?


「ガラント」

 アリアが声をかけてきた。


「かなりやばいかもしれん」

「いつでも撤退できるようにしておこう」


「わかったわ」

「うむ」

「そうね」


 今以上に、警戒をしながら道を進む。




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